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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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呪いの手紙(3)

光琉は順を追って話し始める。

「それもそうだ。」

小麦は顎に手を当てる。


「ルリは賢い人です。手紙を送ることに何らかの目的があると仮定します。きっとルリは小麦様の動きを予想しているはずです。小麦様の性格を鑑みた上で、考えられる対処は全員を集めて、涙石を使って守ることでしょう。つまりルリにとっては、闇討ちよりその状況の方が都合がいいはずです。」


「だからそれを避けたと?」

光琉は首を横に振った。

「端的に申し上げればそうです。呪いたい者が一堂に会していると、そこから物理的な距離を保つことは楽です。ルリがそれを狙っている可能性はあるでしょう。」


小麦は首を傾げる。

「待て、私にだってそのくらいの理屈は分かる。当然周囲には見張りを置いて、呪いが発動する圏内に人外を立ち入らせないつもりだった。あまりにお粗末な算段ではないか?」

「そうです。きっと外部は警戒で満ちている。ですが、誰も内部に気を配ることはないとは思いませんか?被害者であるウェアウルフを疑う者が果たしているでしょうか。」


小麦は手を叩いた。嬉しそうな表情だ。

「そうか。笹木家を名乗る者は数多くいる。全員を把握しているはずがない。ルリは笹木家の連中に顔が似ているのだから、偽名を使って自分に手紙を書けば、容易に紛れ込める。或いは誰かを殺して成りすましてもいい。」

光琉は微笑んだ。

「ええ。僕もそう思います。」


小麦は考え込んだ。光琉は小麦が何か言うのを待った。

「そうは言っても、敵のただ中で姿を晒すのはあまりに危険だ。ルリが自ら来る理由にはならない。普通なら近くの安全な場所に潜んでいるだろう。」

光琉は赤い目を細めて笑った。どことなく狂気を感じさせる笑い方だった。


「それはルリの動機を考慮しておられないからでしょう。ルリにとって重要なことは、笹木家の連中が恐怖に慄き、醜態を晒しながら自分の掌で一人ずつ死ぬ様を特等席で眺めることだと思われます。そもそも、この復讐には何ら合理性がない。復讐などするくらいなら、安全な場所で逃げ惑っていればいいのですから。リスクを冒してでも、復讐を妥協したくないのでしょうね。」


光琉は玉兎のことを思い浮かべていた。自分がその死に顔を見られないなら、このどす黒い怨みの行き場がなくなる。玉兎が自分のしたことを心から悔いて、赦しを乞うその一瞬を踏み躙る。そのことを永らく夢見てきた。妥協するはずがない。


「一理ある。」

小麦は納得した。ルリは執念深く物事を追求し、決して諦めない性格だからこそ、妨害を乗り越えて幹部にまで上り詰めたのだ。獲物を仕留める機会をずっと窺っていたのならば、その一部始終を見届けたいに決まっている。


「それだけではありませんよ。涙石と血酒石では、血酒石の方がすぐに消耗する。涙石を持つ相手を殺すには、呪いに加えて物理的なダメージを与え、先に限界を迎えさせる必要があります。それは、相手の近くにいないと困難ですよね。」

それはそうだ。小麦はそのことをよく知っている。真白と会っても小麦が堂々としていられるのは『石』の持つその性質のためだ。

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