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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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呪いの手紙(1)

「ふむ、呪いの手紙か。」

小麦は机の上に置かれた封筒を手に取った。これは依頼人のウェアウルフが持ってきたものだ。黒い紙に赤い文字で呪いの言葉が書き連ねてある。具体的に殺すつもりの日付まで書いている。同じものが何人かに届いているらしい。質の悪い悪戯と思いたいところだが、そうも言っていられない。差出人は笹木ルリだったからだ。


「ルリに怨まれる心当たりがあるか?」

小麦は依頼人に尋ねる。依頼人は小さな老人だった。秋口とは思えない着こみ方で、腰は曲がっている。羽振りのよさそうな人物だ。頑固そうで、高慢そうだが、小麦には敬意を払っている。


「まあ、あれが研究者として成功しないように、手回ししたことはありました。あやつは笹木家の汚点ですからな。」

老人は吐き捨てるように言った。声は掠れて聞き取りにくい。小麦は老人の顔をじっくりと見て言った。

「何処かで見たと思ったら、笹木ルリの祖父か。」


「左様に御座います。笹木蓮之助と申します、ロード。」

老人は白い頭を下げて深々とお辞儀をした。

「おお、そうであったな。」


笹木蓮之助。長年にわたり山神灯に仕えており、幹部の中でも重鎮であった。今は隠居して次男の家に住んでいる。典型的な純血主義者で、人間との間に子をなした末娘は勘当した。その子どもたちも幼くして親を亡くしたが、何一つ支援せず、寧ろ表舞台に出ないよう虐げた。ルリが憎んでいても何らおかしくない。


「いずれにせよ、直接ルリが会いに来ない限りは大丈夫だろう。光琉はどう思う?」

蓮之助はあからさまに光琉に対する嫌悪感を顔に出している。光琉は蓮之助の態度を無視した。

「ここまではっきりと呪うことを宣告し、お互いにその理由も分かっている。極めつけに、貴方はルリの肉親でしょう。この条件なら遠距離からでも十分に呪殺出来る可能性がありますよ。」


「どういうことだ?」

小麦はフルーツティーのカップを傾けた。爽やかな香りが鼻を抜ける。

「呪いが効果を発揮しやすいのは、相手が呪われていることを自覚し、不安や恐怖を抱いているときです。呪い手と対象者が対面しているときに呪いの効果が強まるのは、一つには物理的な距離が近いから、もう一つには相手が恐怖しているからです。恐らくは、そのための予告状かと。」


光琉は予告状を見て首を傾げる。

「それでも、一度に大人数を呪うことは出来ないはずです。『石』が黒く染まった時に、その反動が身体に与える負担は大きいですから。本物を使っても、精々三人が限界だったと思いますが…。」


蓮之助は重々しく言った。

「手紙に記されている日付は人によって違っていた。」

「それを早く言わんか。この手紙だと二週間後だが、もっと予告された日が近い者もおるのではないか?」

小麦はカップを置いた。蓮之助はオリーブ色の手帳を取り出す。


「はい。弟の孫が明々後日になっておりました。その他にも、四日後、七日後の者もいたと聞いております。」

「呪いの対象となっている人数が多いですね。予告日でなくとも呪うこと自体は可能だと思いますし、厄介です。ルリを明々後日までに見つけることは困難ですから。」

光琉も情報を整理しながら言った。

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