表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
91/401

連なる孤独(10)

「光琉はどうして欲しい?」

小麦は囁くような声で言った。光琉の目が泳ぐ。

「本当は…ずっと辛かったです。でも…。」


光琉は小麦を引き剥がした。

「お気持ちはありがたいですが、僕は弱みを晒すわけにいかないのです。日記のことはなかったことにして、今まで通り接して下さいませんか。それが僕の望みです。」

光琉の白い髪が風でたなびいて、赤い目には僅かに眉根を寄せた小麦の姿が映りこんでいる。小麦は視線を逸らし、狼の姿に戻った。


「光琉が選んだことなら、それもよかろう。気が変わったらいつでも言えよ。」

「…すみません。でも、嬉しかったですよ。」

小麦は笑うように口角を上げた。光琉が背に乗りやすいように屈んだ。光琉がしがみつくのを確認すると、振動が少ないように早歩きで進み始めた。


二十年経っても、小麦に外見上の変化は殆どない。そうは言っても、永遠に不変なヴァンパイアと違い、ウェアウルフは人間よりは長生きするだけだ。寿命もあれば、老化もする。そのうち小麦だって結婚して次世代を育てていくことだろう。光琉は小麦の成長を思って、嬉しくもあったが、寂しさと焦燥感に駆られてもいた。


「大きくなられましたね。」

「それは皮肉か?」

小麦は唸るように言った。光琉は微笑んだ。

「いいえ。本当にそう思います。」

小麦は少し速度を上げた。人の臭いを嗅ぎ分けて、見つからないように回り道する。


山神家では、正と若葉が治療の用意と食事の支度をしていた。

「その傷は治るまで一月はかかるのではないか?当分は正と若葉に世話を焼いてもらわねばなるまい。」

小麦は言った。光琉は暫く痣だらけの脚を見ていたが、意を決して言った。


「瞬時に治せますよ。涙石をお貸し下されば。」

小麦は服を着終えると、すぐに涙石を取ってきた。光琉は左耳に涙石を着けると、深呼吸した。

「お手数ですが、僕の脚の上に冷蔵庫でも投げ落として下さい。」


「光琉、そんなことをしたら…。」

若葉が言い掛けるが、小麦が遮った。

「分かった。」

今度は正が小麦の行く手を阻んだ。

「退け。」


正は溜息を吐いた。

「私が致しましょう。」

正は冷蔵庫を持ってきて、高く持ち上げた。光琉の脚が砕ける音と、血飛沫が鮮やかに広がった。冷蔵庫をどかしてみると、光琉の脚は綺麗に元通りになっている。


「ありがとう…ございました。」

光琉は荒い息遣いで言った。そのまま立ち上がった。問題ないようだ。

「片付けは僕が。」

光琉は雑巾を取りに向かった。


「これを渡そう。誘拐犯の一人の車内にあったそうだ。光琉のバッグだろう。」

正が差し出したのは、くたびれた茶色のショルダーバッグだった。

「ありがとうございます。」

光琉は中身を確認した。財布、スマホ、拳銃、弾丸、全てが入っている。


「その銃はこれからも持っているつもりか?」

小麦は光琉に尋ねる。光琉は拳銃を持って眺めながら言った。

「ええ。護身用に。いけませんか?」

「いや、構わん。」

小麦の表情は分からなかった。


光琉はスマホを弄った。連絡先に目を止める。『真白様の姉』の文字だ。光琉は自嘲気味に笑うと、何やら打ち込んで雑巾をかけ始めた。スマホには『小麦様』と書いてあった。

実は光琉はヒロイン枠でした。小麦様から見た光琉の印象ががらりと変わり、小麦様が光琉に関心を示し始めます。二十年もかかってようやく小麦様は光琉に興味が湧いてきました。遅すぎます。人外の時間感覚からしても小麦様は変わり者です。それに輪をかけた変人が光琉です。このくらいで光琉は心を開きません。光琉にとって、小麦様は(真白様の姉君だから)自分が死なないような状況なら助けるくらいの存在で、小麦様にとっての光琉は気が向いたら助ける存在です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ