連なる孤独(9)
「お前を迎えに来たに決まっておろう。自力で逃げ出そうとするとは、無謀な奴め。私の助けを待てなかったのか?」
若葉は光琉に肩を貸した。光琉は怪訝そうに言った。
「誰も来ないだろうと思っていました。だって、僕を救い出しに来るメリットがないでしょう。」
小麦は黙って光琉の前を歩いている。
「来て下さって嬉しかったです。ありがとうございました。そう言えば、僕の処遇は決まったのですか?」
小麦は足を緩めた。しかし、振り返りはしなかった。
「半永久的に幽閉する、と言ったらどう思う?」
光琉の表情が曇る。若葉も驚いたように小麦の背を見ていた。
「文句は言えないですよね。甘んじて受け入れるしか…。」
小麦は光琉の言葉を遮った。
「成る程な。いつもそう受け答えしてきたわけか。私が知りたかったのは、お前がどう思ったかだ。自分の立場や私のことは考えなくていい。率直に答えればよいのだ。」
光琉は少し考えて答えた。
「それは…。当然嫌ですが、仕方のないことでしょう。既に小麦様には十分な配慮をして頂きましたから。」
小麦は立ち止まった。後ろの二人も立ち止まって小麦の様子を窺う。
「若葉、先に戻っていろ。光琉と二人で話したい。」
若葉は小麦の言葉に従った。光琉は道端のベンチに腰掛け、小麦が何を言うかとひやひやしていた。
「配慮か。私は何も配慮などしていなかった。お前が何を考えているかなど全くもって分からないと、早々に知ろうとすることを止めた。お前は常に私の一番傍にいるのに、ずっと放っておいたな。…すまなかった。」
光琉は意外な言葉に衝撃を受けた。小麦が急にそんなことを言う理由が分からなかった。それに、光琉にとって、小麦の態度は謝罪するようなものではなかった。寧ろ厚遇されていたと思っていた。
「どうしたのですか?別れの前に感傷に浸ってしまわれたのですか。誰かを切り捨てるたびに一々後悔していたら、この先もっと辛い目に遭うはずですよ。」
小麦はようやく振り向いた。光琉は息を呑んだ。泣いている。巨大な金色の目から大粒の涙がスッと流れている。
「日記を読んだ。」
光琉は赤面した。それと同時に、光琉の中で小麦の態度が腑に落ちた。
「酷いです。たとえ持ち主が死んだとしても、日記の中身は読まないのがマナーというものですよ。」
小麦は徐に人間に戻ると、光琉を抱き締めた。光琉の身体に緊張が走った。
「私を信用しろとは言わない。全てを打ち明けろとも言わない。だが、寂しかったら、誰かを頼りたかったら、私が出来る限り力になってやろう。私では真白の代わりにならないことくらいは分かっているが、私なりにその孤独を埋めてやりたい。それでは駄目か?」
暖かい。光琉は涙腺が緩みそうになるのを堪えて、唇を噛んだ。
「どうしてそんな言葉を掛けて下さるのか分かりません。親切にして頂いても、僕は何も返せませんよ?僕は未来永劫真白様の物です。その時が来れば、小麦様と道を違えることになります。」
光琉は不安そうに言った。




