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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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連なる孤独(7)

「…馬鹿は私だ。」

小麦は玄関に駆け出した。まだ二十三時四十分。何とか間に合う。正が小麦に気付いて先回りした。小麦は鬼気迫る表情で怒鳴る。

「退け!」

小麦は荒々しく正を突き飛ばし、裸足のまま外に飛び出していった。


「小麦様、やはり光琉の救出に向かわれたか…。」

正は拳を握り締め、外の暗闇を眺めていた。スマホを取り出して電話を掛ける。

「私だ。小麦様がそっちに向かっておられる。手筈通り頼んだぞ。」

「了解しました。」

若葉は力強く答えた。


「零時十分前か。誰か来たか?」

リーダーが欠伸を噛み殺して電話越しに言った。橋の上で周囲に目を光らせていた馬鹿が答える。

「いいや。誰も。」


「どうする?このまま誰も来なかったら。」

リーダーは横にいる光琉に尋ねた。来なかったら、ではない。来ない。光琉はぼんやりと天井を見ていた。

「誰も来なかったら、僕にはどうしようもない。それに、君に言わせれば身代金が届いたって僕の運命は変わらないのだろう?」


「それもそうだ。あんたにとってはどうでもいい話か。」

リーダーは真空パックに入った血を呑みながら笑った。


「来た!三時の方向、1km先に見知らぬ女性が一人。スーツケースを持っている。」

光琉は驚きを隠せなかった。誰か来たのか?何のために?

「そうか。そのまま交渉しろ。」

リーダーは目の色を変えた。今頃算盤が頭の中で大活躍しているのかもしれない。


「金を置いて行け。そうすれば彼は帰してやろう。」

若葉が十分近付くのを待って太鼓持ちが言った。若葉は無表情のまま、彼らの手前で立ち止まっている。

「おめでたい人ね。はいそうですか、とお金を渡して、それで光琉が帰ってくる保証が何処にあると言うの?先に光琉を連れて来なさいよ。このスーツケースには発火装置が仕込んである。光琉を寄越さないなら、この金はこのまま燃やすわ。」


電話口から聞こえる声音で、光琉は若葉が来たのだと分かった。それと同時に、若葉の身を案じていた。交渉しようとするのは得策ではない。頭がいいせいで殺されるのではないか。

「それは出来ない。」


「どうして?私は一人で来ている。あんたらは二人。光琉の見張りを含めると、戦力は三、四人でしょ。私はすぐに変身出来ないのに、何を恐れるの?この条件を呑めないなら、取り引きはなしよ。」

馬鹿は助けを求めるように太鼓持ちを見た。


「…どうしますか?」

リーダーはまだ笑っている。

「発火装置、ねぇ。はったりじゃないのか?」

光琉は独り言のような呟きに答えた。


「一応言っておくと、彼女は研究者だ。薬品の扱いに関する知識はある。」

リーダーは顎を擦る。

「金がなかったり、近くに仲間がいたりしないか?」

「嗚呼。この辺りには誰もいないぜ。」


彼らは周囲の人外を察知する能力が高いようだ。本当に言われた通り一人で行ったのか。

「まあいい。行ってやろうじゃないか。命知らずの面を拝みたい。」

リーダーは立ち上がり、黒い外套を手に取った。光琉は動けないので見ているしかなかった。

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