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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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連なる孤独(6)

「悔しいが、いい判断だ。」

光琉は足が少しでも楽な体勢になるように動こうとして、再び呻いた。

「僕はもう逃げられない。大人しくするよ。」

「いい子だ。ついでに血を呑めよ。もう相当参っているはずだ。」

馬鹿が言った。光琉は勿論人間の血を呑めなかった。


「ご親切にどうも。僕のことは放っておいてくれ。」

光琉は耐えきれなくなり、痛みに気を失った。

「勇敢なのか、無謀なのか。」

リーダーが煙草に火を付けた。太鼓持ちが答えた。

「両方では?」


「違いねえ。」

リーダーは笑った。

「小麦が怒りませんかね。」

馬鹿が言った。太鼓持ちが小突く。

「どうせ生かして帰すつもりはない。ロードに引き渡す時には逃げようとしたから足を折ったと素直に報告すればいいさ。」


今日の真夜中に身代金を渡さないといけない。小麦は何も手につかず、ぼーっと窓の外を眺めていた。どんよりと曇っている。一雨きそうだ。


夜中、小麦は光琉の部屋に入った。引き出しの中に古びた日記が入っている。勝手に開けてページを捲った。

「これは…。」

二十年前からの日記だ。最初は蚯蚓が這ったような文字だった。


2月28日 雪

小麦様からの尋問が続いている。辛い。心が折れそうだ。もういっそ全てを打ち明けてしまいたい。彼女が真実を知れば、黙っていないだろう。全てを公にしてくれるはずだ。そうすれば確実に玉兎を道連れに出来る。


3月1日 晴れ

駄目だった。ぎりぎりになって、僕は冷静さを取り戻した。玉兎が死ぬのは喜ばしいが、ウェアウルフのロードにヴァンパイア界の弱点を晒すことは出来ない。僕の私情でヴァンパイアに内乱と外敵をもたらすことは出来ない。これ以上僕のせいで罪のない人々を死なせるわけにはいかない。


3月10日 曇り

単発ピストルと銀の弾丸を購入した。使う機会がないことを願う。単発式にしたのは、二発目以降があると思うと、余計なものに銃口を向けそうだからだ。持ってみると冷たくて、ずっしりと重みがあった。その時になって的を外す恐れはないが、少しは練習しておこう。


3月17日 快晴

考えてみれば、僕がいなかったら皆が助かる。今の僕は不発弾のようなものだ。いつ正体がバレて戦争の引き金となるか分からない。小麦様は僕に何らの関心を示さないが、鋭い女性だ。それに僕は真白様の居場所が分かる。いつか真白様は僕が漏らした情報のために亡くなられるかもしれない。僕のエゴで多くの命をリスクに晒すことは、果たして正しいのか。


3月30日 晴れ

どれほど考えても、自分が生きていい理由が思い付かない。でも、死のうと思っても、実行に移せないまま時は過ぎる。怖い。痛みには慣れた。それでも、僕が死んだら忘れ去られることが恐ろしい。自分の罪に地獄で向き合わないとならないかもしれないと思うと、パニックになりそうだ。僕は弱い。神よ、僕に勇気をお与え下さい。


4月2日 雨

寂しい。


小麦は右頬を手の甲で拭った。小麦は日記を床に落とした。知らなかった。光琉がこれほどの痛みを抱えて二十年も過ごしていたなんて、考えもしなかった。馬鹿じゃないか。言ってくれれば…。私は…。

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