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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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連なる孤独(4)

「兄貴、山神小麦から金だけを巻き上げて、こいつの身柄はロードに引き渡してはどうでしょう。」

太鼓持ちが言った。少しは頭を使えるらしい。

「それはいい。ロードに狙われることだけは御免だからな。」

リーダーは下品な薄ら笑いを浮かべる。光琉はすかさず言った。


「何て卑劣な…。そんなことをしたら小麦様に殺されるぞ。」

「その前に高跳びするさ。おい、逃げられないようにきつく縛って閉じ込めておけ。」

ずっと黙っていた馬鹿が、いそいそと光琉の縄目を強めた。光琉は上手くいったようで一安心した。


小麦は光琉を助けるために、びた一文払わないだろう。寧ろ殺す手間が省けたくらいに思っているかもしれない。光琉は端から小麦の助けを期待してなどいなかった。光琉が期待していたのは時間だ。これで玉兎にすぐ引き渡される心配はなくなった。あとは隙を見て自力で脱出するしかない。


「このコーヒーは何だ?苦いばかりでちっとも甘くない。砂糖は三つ入れろと言っただろう。すぐにやり直せ。」

小麦は正に文句を言った。その前は本棚を整理しようとしたことを叱り、その前は風呂の温度がぬるいと愚痴をこぼしていた。その度に正は言い訳一つしないで、すぐに小麦の命令に従った。


「小麦様、既に五杯も召し上がっておいでです。たかがコーヒーと言え、これ以上召し上がりますとお身体に…。」

若葉が言うと、小麦は若葉の顔目掛けてボックスティッシュを放った。ティッシュは若葉の後ろの壁に当たって落ちた。

「私に指図するな!」


小麦は若葉の怯えたような顔を見て、自己嫌悪に陥った。小麦は最近ずっと苛立っている。これはただの八つ当たりだ。

「…悪い。コーヒーを持ってきたら、もう下がっていい。」

正はコーヒーを用意し、部屋を出て行った。小麦はコーヒーを啜った。環境が変わったら、最初のうちは慣れない。この苛立ちもそれだけのことだ。小麦は自分に言い聞かせた。


「光琉のせい…ですよね。」

若葉が正に言った。正は溜息を吐いた。

「珍しい。小麦様があれほど感情を表されるとは。」


正は小麦の部屋の方を眺めた。小麦は元々人付き合いのない方だった。他人に関心を持たず、信頼せずに、ずっとお一人で生きてきた。昔から小麦は死んだような目をしていた。毎日がつまらないようだった。そんな彼女を生き返らせてくれたのは…。


若葉は気遣わしそうに正の顔色を窺いながら言った。

「あの…。本当に光琉は真白様の元に行ったのでしょうか。」

「どういう意味だ?」

正の声音からは何の興味も持っていないことが分かった。


「彼の性格からして、真白様の居場所を知っていたのなら、すぐにでも行ったことでしょう。光琉は真白様の居場所を知らないと考えるのが妥当です。そうなると、光琉は小麦様の元を自発的に離れる理由がありません。小麦様の血を呑めないと、光琉の余命は一月もないからです。」

正は若葉の方を向いた。若葉は言葉を続けた。


「小麦様に申し上げると動揺すると思って黙っていましたが、光琉は自発的に去ったのではなく、もしかしたら…。」

「面倒ばかり引き起こす奴だな。」

正は顔をしかめた。

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