狼の連続死(5)
「随分と真珠に好意的だな。」
小麦は言った。光琉は淀みなく答える。
「真珠は玉兎の傀儡だと聞いております。外交問題に発展しそうな事件を自分から起こすとは考えにくい。」
「一理ある。判断を急ぐ必要はない。あの近辺のウェアウルフには、当分の間、土曜日に出歩かないよう通告させておいた。」
光琉は内心安堵していた。
「いいご判断です。」
丁度今日は土曜日だ。これで襲撃が止めばいいが、そうでなくとも動きがあるに違いない。
光琉は現場の近くに泊まりたかったが、小麦の手前、下手な行動は出来なかった。山神家に戻って一夜を明かし、翌朝になっても誰かが死んだという報告はなかった。
「異常なし…ですか?」
光琉は不審に思った。殺しが出来なくなったとしても、何かしらの事件は起こすだろうと思っていた。メッセージが伝えられなくなるから。思い過ごしだったのだろうか。
「私の策が功を奏したか。後は犯人を捕らえるだけだ。」
小麦は得意げだ。
「そう簡単に行きますかね。」
光琉は言った。被害者のプロフィールをもう一度読み返す。
光琉は数日経っても被害者の共通点が分からなかった。或いは犯人が伝えたいのは日にちだけで、そこからは自力で探さないといけないのかもしれないと思い始めた。光琉は休憩しようとスマホを手に取った。その途端、インターホンが鳴った。
「はい。」
光琉は玄関に向かった。鋭い目つきで、年季の入ったスーツを着ている人物が立っていた。警察のような気がして、光琉は少し怖くなった。
「お前、何者だ。此処は小麦様のご自宅のはずだ。」
光琉を見た途端に敵意を剥き出しにするのは、鼻が利くウェアウルフであるという証明にもなる。
「嗚呼、僕は小麦様の付き人みたいなものです。どうぞ中へ。」
光琉はコーヒーを二人分淹れた。クッキーがあったので、取り敢えず出した。
「私は警察で裏社会のことを調べているのですが、ある事件についてご報告すべきと思って伺いました。突然訪問した無礼をお許し下さい。」
光琉は驚いた。人外の捜査を行う部署ではないにせよ、警察になる人外がいるとは知らなかった。
「構わん。言ってみろ。」
小麦はクッキーを頬張った。警官は写真を出した。人相が悪い青年だ。
「名前は遠藤太郎。年齢は不詳です。ウェアウルフであることは間違いありません。裏社会の事情で生じた死体の処理を請け負う人物とされていますが、彼は人間の死体を常食しています。縄張り逸脱の嫌疑もかけられています。」
人肉はウェアウルフにとってかなりの珍味だ。昔はロードの命令を無視し、人間を殺して食べる馬鹿が多かった。そのせいで今もウェアウルフは人間に追われ、正体が発覚すれば殺される運命にある。今でこそ若いウェアウルフは人間を襲わず、人間のふりをするが、古い者は隠れて殺しをすることもあるくらいだ。人肉を食べられて金が貰えるなら願ったり叶ったりだろう。
「確かに由々しき事態だが、私が直接出向くほどの悪事でもない。警察に任せても良い。」
小麦はコーヒーに角砂糖を四個入れた。
「これだけではないのです。その組織が雇う始末屋の方はヴァンパイアでした。」
小麦のマドラーが止まった。




