光と影の邂逅(1)
「そろそろ食事しないと、死んじゃうよ、光琉。」
鈴華が気遣わしそうに言った。
「かもね。でも、人間の血や普通のヴァンパイアの血では僕にとって薄すぎる。やはり小麦様の元に戻らないと。」
光琉は空腹感を紛らわすために、煙草を吸い続けていた。灰皿には無数の吸い殻が溜まっている。
「大丈夫なのか?誤解は解けたんだな。」
心鳳は外出着に着替えながら言った。これから食事に行くらしい。
「手紙は送ったけどねえ。連絡が来ないから、何とも言えないな。此方から連絡して、居場所がバレたら困るし。」
「帰る前に挨拶してくれよ。黙っていなくなるな。じゃあな。行ってくる。」
二人が出掛けようとするのを見て、光琉は呼び止めた。
「待って。僕も手伝いたい。ただの居候では申し訳ないよ。」
「いいよ。恩返しのつもりでしていることだ。それに、絵だって描いて貰ったじゃないか。」
心鳳は言ったが、光琉は食い下がる。最後は心鳳が折れた。
「分かった。一緒に来てくれ。」
光琉はフードを目深に被り、サングラスを掛けて外に出た。
「あの女性はどうだ?露出の多い服に、派手な頭髪だ。誘ったら付いてくると思わないか。」
光琉は首を横に振る。
「どうして?」
「よく見なよ。彼女には全く隙が無い。武術の心得がある。それに、その先の交差点で電話している男性が妙に周囲を警戒している。囮捜査官かもな。」
光琉は言った。鈴華は感心した。
「じゃあ、向こうのOLは?」
鈴華はカフェでパソコンと向かい合っている、スーツ姿の女性を指さす。
「化粧で誤魔化してはいるが、顔が妙に赤らんでいる。勤務中だから酒は入っていないようだし、空調は効いているはずだろう。病気持ちじゃないのか。」
光琉は女性の横顔を遠くから見ただけで言った。
「光琉なら誰を選ぶ?」
光琉は周囲を見渡した。
「彼女だ。」
光琉が指したのは雀斑のある、制服姿の女子高生だった。友達と思われる女子と一緒にカフェにいる。あまりに地味な外見に、鈴華は噴き出した。
「冗談だよね。確かに健康そうだけど、誘っても来ないでしょ。」
「あの子の爪を見てみろ。」
光琉に言われるままに二人は少女の爪をじっくりと見た。透明感があるというか、妙に艶がある。
「ネイルをしているのか。気付かなかった。」
「爪にまで気を配れるなら、メイクもするはずだ。それなのに友達といる時でさえすっぴんなのは、男の前でしか化粧しないからだろう。あの子は扱いが楽だと思うな。」
心鳳は質問する。
「爪だけケアしているということは?それに、本命のためだけに化粧するなら、他の男になびかないと思うけど。」
「普通ならまずはファンデーションだけでも塗って、あの雀斑をどうにかしようと思うでしょう。ネイルなんか二の次だよ。それに、彼女の交友範囲に本命がいるなら、普段からすっぴんなんか見せないはず。知り合いのいないような場所まで出掛け、化粧した姿で遊んでいると思うよ。」
光琉はスラスラと答える。そして、ハッとして二人の顔色を窺った。小麦にはいつも気持ち悪いと言われるからだ。




