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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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老王と若王(4)

「ご覧の通りだ。小麦殿も、すっかりロードの風格が身に付いてきたな。」

「何、貴殿には及ばぬ。私など青二才だ。これからも指南してもらいたいものだ。」

真珠は小麦のぎらついた金の瞳を怖いと思ったが、空気のように目立たないことを意識して末席に座っていた。

「世間話をしに参った訳ではあるまい。用向きを伺おう。こう見えて私も忙しい身なのだ。」

玉兎は言った。


「貴殿の命令で動いていた、笹木ハリというヴァンパイアが、私の隣人に毒を盛って脅し、私の同居人を襲わせようとした挙句、失敗するとその人間を殺してしまったのだ。釈明願おう。」

小麦は獲物を狙うような鋭い目で玉兎を見ていた。

「はて、私の命令で動く者は多い。名前だけ聞いても誰のことやら…。それに、私は人間を殺すように命じたことなどない。」


玉兎はとぼけた。空気が張り詰めているのを感じ、真珠は固唾を飲んで成り行きを見守った。小麦は光琉が描いた、ハリの似顔絵を取り出した。

「あ…。」

真珠は思わず呟く。見覚えがある顔だ。


「御子息でさえ存じているようだ。知らぬとは言わせん。」

「確かに私の命で動いていた者だ。だが、彼に命じたのは裏切者のヴァンパイア、長谷川光琉の処分だ。そもそも、貴殿が匿っているのがおかしいというもの。今すぐ引き渡してもらいたいくらいだ。」

玉兎は平然としている。小麦は怒りを堪えた。


「あれは今私の手元にないし、いたとしても貴殿に引き渡す道理がない。私の勝手だ。そして、人間を襲ったのはハリの独断だと申すのか?」

玉兎はフッと笑った。

「そうだ。私が命令したという証拠でもお持ちかな?」

小麦はこれ以上何か言っても無駄だと悟った。


「まあいい。本人に訊けば分かることだ。笹木ハリを連れてきてくれ。」

「その命令に従わねばならん理由でもあるかね。」

玉兎は笑った。小麦も負けじと言い返す。

「私を愚か者だと思っておるのか。奴は私に無断で私の縄張りに侵入した。それだけで十分なはずだが?」


真珠はハラハラしながら成り行きを見守っていた。一触即発といった雰囲気だ。竜虎の睨み合いのようで、今にも戦いが始まりそうに思えた。

「そうだった。許せ。歳だから忘れていた。」

「人間でもあるまいに、歳のせいで忘れるはずがないであろう。今後私を愚弄したら承知せんぞ。」


玉兎はハリのスマホに電話するが、出ない。

「今は連絡が付かないみたいだ。後日ハリをそちらに向かわせよう。」

「後日など会いに来るはずがない。ハリの居場所が分かるなら案内しろ。今すぐに。」

小麦は言った。玉兎は真珠を見た。真珠は不意に目が合って焦る。

「真珠、そなたが案内せよ。」


真珠は突然の成り行きに動揺した。

「場所は送っておく。私は今日中に片付けねばならん案件がある。案ずるな。ただの道案内だ。」

真珠は言い返したい気持ちを抑え込んだ。

「承りました、ロード。」


「言っておくが、虚偽を述べれば、真珠の身の安全は保障せん。」

真珠は不安そうに玉兎を見たが、不敵な笑みを浮かべているだけだった。

「疑り深いものだ。私の息子が人質というわけか。」

「本格的な糾弾はハリを交えて行おう。行くぞ、真珠。」

真珠は小麦の後ろを付いて行った。

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