老王と若王(2)
「ありがとう。此処で吸っても良い?」
「別に健康を害すわけでもないからな。とっくに死んでいるし。」
心鳳は冗談か真面目に言っているのか分からないことを言って、灰皿とライターを用意した。
光琉は黙々と作業を進めた。時折鉛筆を置いて、煙草の灰を落としたり、テキーラを呷ったりする。
「まあ雰囲気は伝わるか。右腕があった頃はもっと上手く描けたのに。」
そう言って光琉が見せたのは、肖像画として金を取れるクオリティの絵だった。不誠実そうな表情がそっくりだ。
「え、上手。凄いね。」
鈴華ははしゃぐ。心鳳は目を見開く。
「ハリ…。」
「知っているの?」
すかさず光琉は訊く。
「嗚呼。笹木ハリ、俺の血の弟に当たる。」
光琉は不思議に思った。血の弟ということは、同じヴァンパイアに血分けされたということだ。遺伝子的には他人だが、ヴァンパイアは血の親と同じ苗字を名乗る。どうして同じ血の一族なのに二人は苗字が違うのだろうか。
「ササキ?漢字三文字の佐々木か、笹に木か、佐藤の佐に崎で佐崎か、どれ?」
光琉は思い付く限り挙げてみる。
「笹に木だ。ハリは片仮名。色々あって、血の親から勘当されているため、肉の親の苗字を名乗っている。」
「もしかして、ウェアウルフとのハーフだったからでは?」
光琉は閃いた。ということは、犯人は当然…。
「知っているのか?有名な笹木家の落胤だったそうだ。」
「知っているさ。幹部である笹木ルリの家族だ。ハーフでも人間として生まれると寿命が短い。だからヴァンパイアにしてでも生かそうとしたのか。」
光琉は小麦に手紙を出すことに決めた。すぐに出しても読んでくれないだろうから、頃合いを見計らって釈明の内容を綴ろう。
「ハリも苦しい立場だっただろうさ。俺は普通のヴァンパイアだが、それでも最初は肉の家族が気になった。ましてや肉の家族はウェアウルフときたら、ヴァンパイアを怨むこともあったんじゃないかな。」
「…そうだな。」
光琉は大きく煙を吐いた。肉の家族に情が行くために、血の一族を呪った経験は光琉にもあった。今も血の親を赦せはしない。
「ともあれ、笹木ハリという名前だと分かったのは助かったよ。ありがとう。」
鈴華はしげしげとハリの似顔絵を見ていた。本人の顔を知らなくても、上手いことは分かる。スケッチで描いている割に質感まで伝わってくるような絵だ。
「あたしの似顔絵も描いてくれない?」
鈴華が言った。
「折角だから、二人の分を描こうか。並んでよ。」
心鳳と鈴華は隣に座った。光琉は軽快に鉛筆を走らせていった。
光琉は二人の肖像画を仕上げた。実物と見比べても遜色ない。寧ろ美化されているかもしれない。二人は大いに喜んだ。
光琉は机に向かって、小麦に手紙を書き始めた。そこには笹木ハリ、ルリのこと、涙石がどうして光琉の手に渡ったのかが詳細に記されている。光琉は涙石に触れられる理由も書くべきか悩み、結局少し秘密を打ち明けることにした。
「特異体質のため、持ち主でなくても『石』に触れられる、か。これ以上説明したくはないけど…。この書き方だとどうにも…。」




