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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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涙を呑む(5)

犯人は上手くいったとほくそ笑んでいた。思ったように進まないことも多かったが、これで光琉に疑いの目が向くと思ったからだ。ここに至るまでの経緯は、およそ次のようなものだった。


暗闇に狼の影が過る。物理法則を嘲笑うかのように、垂直な病院の壁を駆け上り、とある病室の前まで来たところで女の姿に変わった。女は窓枠を細い指で掴み、口に咥えていたバッグからナイフを取り出し、窓を鍵の近くだけ割って、中に入った。


女は無表情のまま、バッグから服を取り出して着た。ポケットにナイフを突っ込む。カーテンを閉め、ベッドに近寄った。

「ねえ、起きて。」


慧は暫く眠りこけていたが、女に揺り起こされる。

「誰だ?」

女は慧の口を塞ぐ。

「今晩は。声だけでは分からないかしら。笹木ルリよ。小麦様が初めて見舞いにいらした時に同席していたのだけど。」


慧はもがくのを止めた。聞き覚えのある声だ。

「こんな夜更けにどうして?」

「決まっているでしょう。小麦様のご命令よ。やはり夜も誰かが見張っていないと不安だと仰るから来たの。」

慧は眠い目を擦る。


「それでは、貴方が睡眠時間を削られるではありませんか。明日小麦さんに言わなくては。今日は帰って頂いて大丈夫ですよ。」

ルリは椅子に腰掛けた。

「いいえ。それでは私が小麦様に叱られるわ。今夜は此処にいさせて頂戴。」

慧は無下に追い返せなかった。


「せめてベッドを使って下さい。僕は床でも構いません。」

「お気遣いなく。狼になればどこでだって休めるもの。でも、お言葉に甘えて眠ってもいいかしら。どうせ誰かが来たら気配で分かるわ。」

ルリはのんびりと言った。

「そうですね。小麦さんが僕に涙石とかいう希少な品をお預けになったのですから、きっと平気ですよ。」


ルリは目を光らせた。

「そうだわ。折角の機会だから、一目見たいわ。今下さる?」

「どうぞ。」

慧は疑いもせずにルリに涙石を手渡す。ルリはダイアモンドを確認する。


「ありがとう。どうやら本物のようね。」

ルリはポケットに手を伸ばすと、ナイフを取り出して勢いよく慧の胸に突き立てた。鈍い音と赤い液体が広がる。

「どうして…?」

慧は胸元を押さえ、広がる血の染みを眺めていた。


「まだ話せるの?」

ルリは呆れたようにナイフの血を拭う。

「それを…返…。」

ルリはすぐさま慧の首を掻っ切った。噴水のように血が飛び、今度こそ慧は倒れて何も言わなくなった。


「危なかった。元の所有者に返還を求められたら、所有権が移ってしまう所だったわ。」

ルリは涙石を確認した。異常はない。

「ハリを守るためよ。悪く思わないでね。」

ルリは狼に姿を変え、華麗に地面に降り立った。


ルリは嬉々としてハリに会いに行こうとした。スマホが鳴ったため、確認すると、光琉から連絡が入っている。

「どうしたの?」

「夜分遅くにごめん。今すぐ例の病院に行ってもらえるかな。」

ルリは心底焦った。こんなに早く発覚するなんて予想外だったからだ。


「急にどうして?」

「詳しいことは後で。正さんや小麦様も向かうから。」

ルリは電話を切って唸った。呼び出されたのに逃げたら怪しまれる。行くしかない。どうせ持ち物を検査するはずがない。

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