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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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涙を呑む(4)

真夜中に光琉は飛び起きた。冷や汗を掻いている。この感覚は…。

「小麦様、起きて下さい。」

光琉は小麦の部屋の前で怒鳴る。小麦は眠そうに言った。

「なんだ。騒々しい。」

「病院に行きましょう。今すぐに。」


小麦は光琉の様子を見て、ただ事ではないと気付き、起き上がった。

「何かあったのか?」

「断言は出来ませんが…。お支度をなさって下さい。」

光琉は正とルリに電話で同じことを伝える。二人ともすぐに来ると言う。


「何があったのだ?」

小麦はタクシーの中で尋ねる。光琉は神経を集中させるが、嫌な感覚は収まってしまっていた。

「慧さんに何かあったと思ったのですが、僕の勘違いかもしれません。」


「そうあって欲しいものだ。」

病院の周りにはパトカーが犇めいていた。小麦の身体が強張る。

「お嬢ちゃん、この先は立ち入り禁止だよ。」

「どけ!」

小麦は走って慧の病室まで向かう。光琉は付いて行くのを諦めた。


床の血だまりに伏せてっているのは、完全に血の気が引いた顔色で、苦悶の表情を浮かべている慧だった。もう息がないのは小麦にも分かった。

「子どもを入れるな。誰も止めなかったのか?」

中にいる鑑識か誰かが言った。


「小麦様、出ましょう。」

光琉はようやく追いついた。息が切れている。小麦は放心状態のようだったが、何とか慧に近付こうとした。

「嫌だ…。そんなはずがない。慧が死ぬはずがない。」


小麦は光琉の手を振り解いた。警官も取り押さえようとするが、我を忘れて大の大人を振り払おうとしている。

「小麦様、失礼。」

正の声がしたと思うと、鳩尾を全力で殴った。小麦は気を失いこそしなかったが、正気を取り戻した。小麦たちは外に出た。


「あの、大丈夫ですか?」

「黙れ。奴らの会話を聞いている。」

光琉は黙った。小麦の聴力ならば、そのくらいの芸当は造作もないだろう。


光琉はルリを探し、人気のない廊下まで手招きで呼んだ。

「ルリさんも彼らの会話が聞こえる?」

ルリは頷く。

「どんな状況か、ちょっと聞かせて貰えない?」


「犯行時刻は午前二時頃。犯人は窓から侵入し、ナイフで心臓の真上を一突き、首を掻っ切っている。心臓への一撃が胸ポケットに入っていた菊のブローチに当たって浅くなっていたためよ。」

ルリは淡々と言った。

「涙石はポケットに入っていたり、近くに落ちていたりしないの?」


ルリは首を横に振る。

「どうやらないみたい。」

「そんな馬鹿な…。」

光琉は言った。涙石はまだ近くにあるはずだ。それに、どうして慧は涙石を手放したのだろうか。信じていなかったわけでもないだろう。


「ありがとう。ひとまず僕らは帰った方が良さそうだね。」

光琉は荷物を置いたまま小麦の方に戻り、帰宅を勧める。小麦は渋ったが、正の説得もあり、帰ることを決心する。

「はい。これ。私も帰りますね。何か御座いましたら、またお呼び下さい。」

ルリは光琉に荷物を差し出し、帰っていく。


光琉は家に帰っても、涙石の気配がすぐ傍にある感覚に襲われていた。正と小麦がリビングにいるうちに、こっそりと病院に持っていったバッグを持って二階に上がった。バッグを開けて中身を確認すると、底の方にビー玉大のダイアモンドが輝いていた。

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