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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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涙を呑む(2)

「正さん、場所を弁えて下さいな。此処は病院です。」

「元はと言えば、光琉!何故小麦様をお諫めしなかったのだ。」

光琉は強く言い返せなかった。諫めるどころかけしかけているため、立つ瀬がない。後ろから声がする。

「ええと…光琉さんの言う通りですよ。中で話しましょう。」


「慧、大丈夫か?病み上がりだというのに、無理をするな。すぐに戻ろう。」

小麦は慧を支えて病室に入っていった。

「それでは僕はここで。失礼致します。」

光琉は正の逆鱗に触れないうちに退散した。


正は腕組みをしながらベッドの横で座って本を読んでいた。

「私は土浦正。小麦様の叔父だ。小麦様が余程君を気に入っておるようだから、頭ごなしに否定はしないが、反対だからな。」

正は慧の方を見もしないで言った。


「初めまして、正さん。僕は菊池慧です。宜しくお願いします。」

「退院してからじっくりと話そう。じっくりと、な。」

正は厳しい眼差しで言った。慧は苦笑いした。

正は異種族の恋愛に関しては否定的だ。山神家や土浦家など、旧家ならみんなそうだが。しかし、稀に名家でも異種婚をする者が現れる。大抵家から爪弾きにされるものだ。


「これ、正。あまり慧を怖がらせるでない。」

小麦が入ってきた。入れ替わりに正は出て行く。

「外聞が悪いなどとは申しませんよ。もっと現実的な問題が山積みですから。これだけは言っておきたいのですが、菊池という苗字とその見た目…。もしかして彼の親類に特殊総合課の元長官がいるのでは?」


正は言うだけ言ってドアを閉めた。小麦は手を叩く。

「そう言えば、いたな。前の前の長官が菊池だったか。だが、よくある苗字ではないか。いくらお前の祖父も警察官だったとはいえ、そんな偶然があるはず…。」

「いえ、それ、僕の爺ちゃんです。すみません。いつ打ち明けるべきか迷ったのですが…。」

慧は言いにくそうに打ち明けた。


「おお、それは知らなかった。奴にはうちの者が色々と世話になったからな。説得が難しくなりそうだ。」

小麦は冗談めかして笑った。小麦は見舞いに持ってきたバナナを剥いて齧る。

「早く退院出来ませんかね。」

「光琉が吸い出して零れた血についての言い訳がマズかった。あの量の血を吐いたと言ってしまったのだろう。ウェアウルフであっても検査しないと帰せない重症だ。」


小麦は次に林檎を皮付きのまま齧る。鋭い犬歯が目立つ歯形が残される。

「まあ、他の方が検査されたら、人間でないと知らせるようなものでしょうから。僕の血だと認めざるを得なかったと思います。」

慧は暇を持て余している。記憶の混濁や倦怠感はあるものの、ベッドでずっと寝ていたいと思うような体調ではなかったためだ。


「失礼します。あら、お見舞いの方ですか。」

看護師が入ってきた。

「そうだ。」

小麦は林檎の芯をゴミ箱に投げ入れる。

「そろそろお時間ですよ。お迎えの方はいらしているのですか。」


「時間?このまま泊まれないのか。」

小麦は訊き返す。看護師は微笑んで屈んだ。

「明日またいらして下さい。」

「夜中が一番危ないのだ。一人にしておけるものか。」

小麦は看護師の手を払い除ける。

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