知りたがりと秘密主義(7)
光琉はすぐさま病室に戻った。あのヴァンパイアは判断を誤った。確実に慧を口封じすべきだったし、この件を報告したらすぐにそうするように命じられるだろう。毒の回りも早いようだし、時間との戦いになる。
「慧!」
病室のドアが開き、小麦が入ってきた。顔中にありありと、慧を心配していたことが現れている。その後ろから、ルリが入ってきた。
「ルリさん、ありがとうございました。」
「いいえ。ロードの要請にすぐにでも従うのは、ウェアウルフの務めだから。」
ルリの表情筋は全く動かなかった。
「言われた通り持ってきたが、涙石は着けていない間に負った傷を癒せないはずだ。どうするつもりだ?」
小麦は言った。光琉はルリを横目で見たが、遠慮する気配がないのでそのまま答える。
「仰る通りです。ですから、慧さんに涙石を身に着けさせ、毒血を全て体外に出させます。要するに大量出血させます。」
「そんなことをしても、すぐに傷口が塞がってしまうわ。毒を出し切るのは不可能よ。」
ルリは口を挟んだ。やけに呑み込みが早いと思いながら、光琉は説明を続ける。
「僕が吸い出します。ヴァンパイアの吸血能力の方が『石』の力より優先されることが多いようですから。あとは自動的に新しい血液が作られるでしょう。」
光琉は口を滑らせたと思って焦るが、幸い小麦は気付かなかった。
「お前は人間の毒血を呑んで平気なのか?」
小麦は尋ねる。
「最弱とは言え、不老不死の種族の者ですから、同族の毒くらいでは参りませんよ。お気遣い痛み入ります。」
光琉は答えた。詳しく説明するつもりはなかった。
「良いだろう。涙石の所有権を、一時的に菊池慧に譲る。」
小麦はピアスを外し、慧の手に握らせた。
「ウェアウルフ以外は触れられないと思っておりました。あれはデマだったのですね。」
ルリが言った。小麦は答えた。
「正確には、持ち主が許可した者以外は触れられない、だ。無理に触れると呪いを受ける。最悪は死だ。」
「それでは、お二人とも、外に出て頂けませんか。」
光琉は恥ずかしそうに言った。小麦はすねる。
「何故だ?私も見届けたい。」
「ええと、廊下を見張っていて下さい。集中出来ません。」
光琉は遠慮なく言った。二人は渋々出て行く。
光琉は慧に猿ぐつわを噛ませ、身体をきつめに拘束した。光琉は慧の手を取った。宝石の冷たく、硬い感触が伝わってくる。光琉は深呼吸し、慧の首元に唇を寄せる。牙を頸動脈の深くまで一気に突き立てた。かなりの勢いで毒入りの生温かい血が流れ込む感覚に、光琉は吐き気を催すが、口を離すことはなかった。
毒が抜けていくにつれ、慧が痛みで暴れ始めた。光琉は咄嗟に慧の右手と指を組んで体重をかけ、抑え込む。ベッドは血に塗れていくが、光琉は吸血を止めなかった。やがて血の味が変化し、毒は完全に抜けきった。
「苦しかった。もう二度と御免だな。慧さん、治りました?」
光琉は血塗れのままで尋ねる。
「恐らくは。でも、一体何が…?」
慧は困惑している。
「忘れて下さい。絶対に黙っていて下さいね。」
光琉は肩を回した。次はこの惨状を何とかしないといけない。殺人現場のようになっている。
世界観の説明がようやく入りました。(遅い。)書いてから思いましたが、光琉は自分の話をしたがらないし、小麦様は関心がないので、主人公の情報が薄いですね。彼の思考回路も特殊です。誰に共感して読めばいいのでしょうか。そして、この話は、ほぼ男たちの会話だけでした。絵面がむさくるし…と思いましたが、小麦様はイケメン枠なので、普段から華がないですね。




