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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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知りたがりと秘密主義(5)

慧はどのタイミングで光琉を殺すべきか、考えあぐねていた。小麦が帰ってきては困るが、決心がつかない。

「今日は本当にお疲れのようですね。顔色が優れないご様子です。」

光琉は言った。慧は顔が引きつらないように耐えていた。


「吸血鬼が人を噛んで殺すことは可能ですか?」

光琉は少し考えた。

「先程も申し上げたように、メリットがありませんからね。でも、麻薬の濃度を高め、正気を失わせることは可能です。言動が狂っていくので、すぐに分かります。それでもショック死するくらいにはならないと思いますけど。長い目で見れば可能ですかね。」


慧は冷や汗を掻いた。光琉は慧の様子がおかしいことに気付いているが、触れなかった。

「そうなってしまっては、治せないものですか。」

「正気を失う前なら、噛んだ吸血鬼本人が中和すれば平気でしょうね。一度正気でなくなったら、治療は困難です。」


「吸血鬼のロードとは、どのような人物ですか。」

慧は言った。

「あれ、ロードという呼び方をお教えした覚えはないのですが、何処で聞きました?」

光琉は疑わしそうに慧を見ている。慧の呼吸が早くなる。

「小麦さんがご自分のことをロードと言っていましたよね。てっきり吸血鬼も同じかと。」


「よく覚えておいでですね。玉兎については、僕もあまり詳しくないです。個人的には大嫌いです。他人の命を何とも思っていない。小麦様とは大違いですよ。」

光琉は吐き捨てるように言った。慧はそれ以上の詮索を止めた。


慧は徐に咳をした。徐々に頭が回らなくなってきた。

「貴方は誰かを殺したことがありますか?」

慧は少しでも時間を先延ばしにしようとして尋ねる。光琉は身体を強張らせる。

「…先程から吸血鬼、というより僕に対する悪意を感じるのですが。もしかして、誰かに何かを言われましたか?」

今度は慧がドキッとする番だった。ルビーを握る手に力が籠もる。


「ごめんなさい。」

「…え?」

慧は光琉の手を取った。光琉は不思議そうに慧を見詰める。慧の手は震えていた。

「…ごめんなさい。」

慧は暫く光琉の手を握り締めたまま、固まっていた。光琉は何か言いかけて止めた。慧がそのまま倒れてしまったからだ。


「慧さん?大丈夫ですか?」

慧は意識もなく、ぐったりとしている。光琉はすぐさま救急車を呼んだ。

「この方とはどういったご関係で?」

「向かいの家に住んでいる者です。彼の容体はどうですか?」

光琉は後悔していた。慧の様子がおかしいことには気付いていた。倒れる前に何とかなったはずなのに。


「何か薬物を飲んでしまっているようです。詳しいことは検査してみなければ分かりませんが。」

光琉は病院の外に出て、小麦からの電話を取った。

「詳しいことは此処に来て、先生に伺って下さい。中央病院だと言っているでしょう。タクシーでも拾ってご自身でいらして下さい。僕は慧さんを見ていないと。」


光琉は医者に、一時間ほど離れていいか相談する。

「長谷川さん、菊池さんのご学友もいらしたことですし、迎えに行ってあげてはいかがですか。」

慧の病室に茶髪の男性が入っていった。光琉は入れ替わるように病院を出て行った。

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