知りたがりと秘密主義(4)
ハリが見せたのは、直径数mmのルビーだった。慧は受け取り、光に透かしてみる。世界が上品な赤に染まっている。
「使い方は単純だ。これを持ったまま光琉に触れ、光琉の死を強く願えばいい。ヴァンパイアは死後灰になる。あんたの仕業だと知られることはあり得ない。」
「人間でもそんな簡単に誰かを殺せるような代物を、人外なら誰でも持っているのですか?」
慧はそんなはずがないと思っていた。もしそうなら、この世は人外の天下になっているだろう。これは希少なものに違いない。どうしてハリはこんな物騒なものを持っているのだろうか。
「…細けえことはきにすんな。上手くやれ。失敗したら命はないと思え。」
慧はハリを睨む。毅然とした態度で言い放つ。
「嫌です。」
「は?お前今、自分の立場が分かってんのか?」
ハリは明らかに不機嫌になる。
「こんな胡散臭い話に乗って、ホイホイ他人を呪う方がおかしいと思いませんか。僕は関わり合いになりたくありません。他所を当たって下さいませんか。」
ハリは舌打ちした。次の瞬間、慧に襲い掛かると、首筋に牙を突き立てた。慧は咄嗟に光琉を突き飛ばす。ハリはニヤリと笑うと、口元を拭う。
「悪いな。強硬手段のプランBで行くわ。そろそろ実績を残さないといけねーんだ。」
慧は噛まれた首元を押さえると、ハリから距離を取った。
「それはどういう…。」
「毒盛っちゃった。かなり遅効性の猛毒。」
爽やかな笑顔でハリは言う。
「嘘でしょう?小麦さんは、人外はあまり人間を殺傷しないよう言われているって…。」
慧は目を見開く。
「だから説得を試みたのに、応じてくれないから。光琉を殺してくれたら解毒してやる。信じられないなら、医者に診てもらいな。未知の毒が体内にあるって言われるだろうさ。」
「貴方は誰の命令で動いているのですか?」
慧は尋ねる。人間を不用意に傷付けること、ましてや殺すことは重罪だったはず。それさえ揉み消し、人外を呪い殺せるような物を持っているなんて、誰だろうか。
「ルビーを隠し持ったまま光琉に触れる。光琉の死を願う。それだけだ。健闘を祈る。」
ハリは慧の質問を無視する。
「命令されていることは否定しないのですね。」
「早く行けよ。時間がない。此方も忙しいんだ。これからその方に報告するから。」
慧は渋々立ち上がり、公園から去った。ハリは慧が去った頃合いに電話を掛ける。
「もしもし、ロード。笹木です。例の件、近日中に片付けて見せます。はい、そうです。例のオリジナルです。」
慧は欅の陰からこの会話を注意深く聞いていた。ロードというと、王ということだ。慧は確か小麦も、自分のことをロードと言っていたと思い出し、かなりの権力者が関わっているのだと気付く。オリジナルという言葉の意味は不明だが、もうどうでもいい。
「光琉さん、ごめんなさい。」
慧はスマホで首筋を確認する。二つの小さな赤い点が並んでいる。ハリの歯型だ。慧はリュックから絆創膏を取り出し、傷を塞ぐ。ルビーをポケットの奥深くに押し込み、小麦を遠くに呼び出してから、光琉しかいないはずの山神家に歩を進める。まだ昼前だ。大丈夫。今日中に全てを終えられる。




