表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
44/401

愛は屋上の狼に及ぶ(5)

小麦はクッションから飛び起きた。光琉は悲しそうに言った。

「今日は久々に笑顔が見られましたね。きっと楽しかったのでしょう。あまり口出しするのも失礼かとは存じますが、僕が思うに、彼は良い方です。断るなとは申しませんが、期待を持たせてから突き放すと酷だと思いますが…。」


「…。」

光琉は小麦を一人にして、自分の部屋に戻った。小麦は髪留めを撫でながら悩んでいた。その頬には夕日が差している。


それから数日は小麦の様子が変だった。物思いに耽ってばかりなのだ。そんな小麦の様子を、光琉は羨ましく思いながら見守っていた。

「小麦様、慧さんからですよ。」

光琉は電話を差し出す。小麦はひったくるように取る。


「…嗚呼。いや、家に来てくれないか。返事をしていなかっただろう。…違う。しっかりと答えておきたい。」

小麦は微かに頬を染めながら話をする。電話を切ったのを確認してから光琉は言った。

「僕は外に出ていましょうか。」

「構わぬ。此処にいろ。」

小麦は急にいつもの凛とした目付きに戻った。


慧はこの間と同じ、客間に通された。空気が張り詰めている。緊張を破ったのは、小麦の重々しい声だった。

「慧、お前は私が好きだと言ったな。」

「はい。」

光琉は嫌な予感がしていた。とんでもないことを言うのではないだろうかと気をもむが、止めることも出来ない。


「だが、お前は私のことを本当に知らない。知ったら、私から離れていくだろう。」

小麦は悲しそうに言った。慧は勿論反論する。

「そんなことはありません。どんなことがあろうと受け止めます。話して下さい。」

光琉は止めに入る。

「小麦様、なりませんよ。」


「本当だな?」

小麦は帯を解いた。そこには既に少女の姿はなかった。代わりに麦畑のように広い金の毛並みと、手など貫通するほどに長く、鋭い牙が見えた。顔の右側には麦の髪留めが付いたままだ。


「うわああ!」

慧は驚愕の表情を浮かべると、足をもつれさせながら玄関に向かって駆け出した。光琉も小麦も追い駆けなかった。

足音が遠ざかる。光琉はドアの方を見やっていた。

「これが貴方の答えですか。…どうしても知らせないといけないことでしたか?」

光琉は静かに言った。


「元から断るつもりだった。山神家は正体を知られようと問題がないのだ。丁度いいではないか。」

小麦はくぐもった声で答える。

「分かりました。でも、本気でそうお思いなら、此方を見て言って下さればいいものを。」

「五月蠅い。咬まれたくなかったら出て行け。今すぐに!」

小麦は吠える。光琉は黙って出て行った。


小麦は長いこと部屋から出てこなかった。光琉は小麦の気持ちが落ち着くまで、そっとしておくことに決めた。

「猫の鳴き声だ。近いな。」

光琉は呟いた。不意にチャイムが鳴った。


光琉はドアを開けて固まった。そこには慧の姿があった。

「どうも。中に入っても宜しいでしょうか。」

「ええ、失礼致しました。どうぞ。」


光琉は慧を客間に待たせ、小麦を呼んできた。

「入るなと言っただろう。下がれ。」

「慧さんがいらしています。」

小麦は驚いて客間に向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ