愛は屋上の狼に及ぶ(4)
「どうしたんだよ、この人だかりは?」
運動に来た男性が連れに問い掛ける。
「向こうの卓球台で異次元の試合が行われているんだ。しかも、片方は小学生くらいの女子だぜ。」
「は?嘘だろ?」
男性は笑う。
「見に行ってみろよ。ずっとラリーが続いているんだ。」
男はまさかと思いながらも前に行ってみた。そこには鬼気迫る表情でラリーに熱中する小麦と慧の姿があった。球を目で追うのも精一杯で、素人には何が起こっているのか分からない。
「冗談だろ…。」
いつの間にか男性も息を殺し、真剣に見入っていた。慧の打った球はネットに引っ掛かって止まった。周囲から大きな歓声が巻き起こる。日本代表が金メダルでも取ったような熱気だ。
「私の勝ちだな。こんなに本気を出したのは久しぶりだ。危うく負けるところだった。」
小麦は息を切らしながら言った。
「僕もそうですよ。年下の子に負けるのは数年ぶりです。今まで会った中で一番強いと思いますよ。ありがとうございました。」
二人は笑顔で握手した。
「光琉は運動出来ないから、本当に楽しかった。また一緒に勝負しよう。」
小麦は普通の少女のようにあどけなく言った。
「勿論です。」
慧は納得した。光琉はいつ見ても顔色が悪いし、隻腕のようだ。激しい運動は無理だろう。
「何を買ってもらおうか。そうだ、髪留めでも買ってもらおうかな。」
二人は駅前に行き、アクセサリーを見て回った。
「これはどうですか?」
慧が差し出したのは、麦がデザインされている、赤い革製の髪留めだった。小麦は顔を綻ばせる。
小麦は鏡の前に行くと、左目を隠している分を除いて前髪を右に寄せ、髪留めを付けた。
「似合うか?」
「はい。綺麗ですよ。」
小麦は慧に買わせ、すぐに袋から取り出して身に付けた。
「そろそろ帰りましょう。光琉さんも心配していますよ、きっと。」
「そうか?」
小麦はもっと遊んでいたかった。しかし、そうもいかない。慧は小麦を家まで送り届けた。
「今日は楽しかったです。またお会い出来ますか。」
「嗚呼、今度は私が何か買ってやる。」
小麦は髪留めを指でなぞった。
「お帰りなさいませ。デートは如何でした?」
光琉は敢えて真面目な顔で尋ねる。
「断じてデートではないぞ。あくまでも隣人同士の付き合いとしてだな…。」
小麦は言うが、浮足立った態度が隠せていない。
「その髪飾りは何です?初デートのプレゼントでしょう。」
「卓球の試合で勝ったから貰っただけだ。深い意味はない。向こうは人間だぞ。ロードである私がそんな浮ついた真似を出来るか。」
小麦はクッションに倒れ込む。光琉はやれやれと言う表情で告げた。
「小麦様、純情なのは良いことですが、その認識では慧さんがあまりに可哀想なので申し上げます。慧さんははっきりと小麦様に告白しました。それに対して小麦様がはっきりと答えてはいないにせよ、二人きりで出掛けて試合をし、アクセサリーを男性側から贈ったのでしょう。それはもう恋人として認めたも同然です。」




