愛は屋上の狼に及ぶ(3)
小麦は咳払いした。
「困ったな。あまりに唐突な話で、どう答えてよいものやら。」
小麦は助け舟を求めて光琉を見る。
「外で少しお話をされては如何でしょうか。二人きりで。」
「光琉、さては知っておったな。裏切者め。」
小麦が睨んでも、光琉は涼しい顔をしている。
「いきなり出掛けて良いのですか。まずは光琉さんもいる場でお話をするべきではありませんか。」
慧は真面目に意見する。
「いいや、出よう。これ以上光琉に振り回されたくはない。」
光琉は微笑んだ。
「行ってらっしゃいませ。」
二人はカフェに向かった。小麦はパフェを頼み、慧はコーヒーを頼んだ。
「どこからお話すべきでしょうか。小麦さんは覚えていらっしゃらないと思いますが、半年前に我が家の猫が脱走したことがあって、一緒に探してくれましたよね。結局しれっと戻っていましたが、本当に心細くて、探してくれたことが嬉しかったんです。」
「あー、確かシロという白猫だったな。そうか、その時に話しをしていたか。」
小麦はようやく接点を思い出した。
「シロを探して、高い木の上まで登ってくれましたね。僕はハラハラしていましたが、小麦さんは涼しい顔をしていました。あの頃からずっと好きでした。」
「気持ちはありがたいが、私は…。」
小麦は言い淀んだ。
「僕じゃ、駄目ですか?」
慧は子犬のような瞳で小麦を見詰める。小麦は口元を手で覆う。
「その顔は反則だ…。何も言えなくなるだろう。」
「小麦さんこそ、結論を急がないで良いのではありませんか。もっと僕のことを知ってから断って下さい。狡いですよ。」
慧は自分のことを語り始めた。小麦も時折質問を挟む。
「父は現役の警察官です。祖父も警察官でしたが、もう退職して家庭菜園をしています。今度野菜をおすそ分けしますね。」
「嗚呼、私はあまり野菜が好きではない。遠慮しておこう。」
小麦は苦笑いした。
「そうでしたか。宜しければ小麦さんのことも、もっと知りたいです。学校には行っておられるのか、ご両親は何をなさっているのか。」
慧は遠慮しながら訊いた。見るからに子どもなのに親元を離れ、学校にも通っていないようだから、慎重になるのも当然のことだ。
「私の両親は既に死んでいる。私は長女だから家督を継いでいる。学校へは行っておらん。」
「すみません。失礼なことを…。」
慧は謝る。小麦は気に留めない。
「いや、偶に叔父が遊びに来るから、問題はない。それより、話ばかりで退屈だ。少しずつお互いのことが分かってきたことだ、何処かに遊びに行かないか。」
「いいですね。何処がいいでしょう。」
小麦は考え込んだ。
「私は身体を動かしたい気分だ。どうだ?」
慧はニッコリ笑う。
「いいですね。僕も運動は得意ですよ。」
「言ったな。勝負するか。私が勝ったら土産を買ってもらうぞ。」
小麦は人間業でない身体能力を持っているのに勝負を申し込む。
「女の子だからって手加減しませんよ。僕が勝ったら、小麦さんに何か買ってもらいましょうか。」
慧はあっさりと勝負に乗る。




