愛は屋上の狼に及ぶ(2)
「そうですか。では、男性はどのような方がお好みですか?」
「このドラマだと…敵役だな。信念を持っておるような、力のある目をしているだろう。」
光琉はホッとした。これなら慧にもチャンスがあるかな。
「確かにカッコいいですよね。もし、彼みたいな人が実際にいたら、小麦様はお付き合いしたいと思いますか。」
小麦は曖昧な笑みを浮かべる。
「どうだろうな。ウェアウルフなら悪くない。」
光琉は畳み掛ける。
「…人間なら?」
「私はお前のように軽くない。人間を愛したら別れが辛いではないか。」
光琉はクスッと笑う。
「心外ですね。僕が不誠実な男みたいな言い方をされては。確かに騙していることは認めますが、常に相手のことは想っているのに。」
小麦は呆れたように言った。
「捨てられたら辛いとか言っていなかったか。自分が捨てる分には気にしないのか。」
「意地悪なことを仰る。僕は小麦様ほど強くないのです。寂しさと孤独に独りで耐えられない。人間はいいですよ。僕を敵意なく見てくれますから。」
小麦は光琉の目を見てゾクッとした。
「正体を気取られたことはないのか。」
「そこまで関係性が深くないですから。気付かれそうだなと思ったら身を引きます。ウェアウルフなら、更に発覚しにくいはずですよね。」
小麦はテレビを切った。もうドラマに集中出来なくなっていた。
「仁…だったか?人間と付き合っておった。音羽もハーフだったな。」
「案外もっといるかもしれませんよ。それでも人間は愛せませんか。」
光琉は静かに核心を突いた。
「真白のような美人ならいざ知らず、こんな幼い見た目の女を好きになる者がいるか?言っておくが、私は子どもと付き合おうとは思わないぞ。」
これはいけるかもしれない。光琉は慧を紹介することを決心した。
「蓼食う虫も…。ではなく、好みなんて千差万別でしょう。きっと素敵な方に巡り合えますよ。」
小麦は光琉の無礼な発言に苛立ったが、無視した。
光琉は慧に連絡を取り、家に招いた。慧は二つ返事で承諾した。
「急に掃除して、どうしたのだ。」
小麦は怪訝そうに尋ねる。光琉は掃除機を掛けながら答える。
「来客があるもので。小麦様も襟を正して下さい。」
「客とは誰だ?」
光琉ははぐらかす。
「来れば分かることです。」
掃除も一段落したところで、チャイムが鳴った。光琉はすぐに出た。慧はきちんとした服装をしている。
「ようこそ。小麦様には貴方のことを一切伝えていません。どうぞこちらへ。」
「はい。」
慧は緊張しているようだったが、毅然とした態度で光琉に付いて行った。
「光琉、彼は依頼人か?」
小麦は怪訝そうに言った。
「いいえ、小麦様に言いたいことがあるそうです。聞いてあげて下さい。」
慧は小麦の目を真っすぐに見据え、少し呼吸を整えてから言った。
「僕は向かいの家に住む、菊池慧と申します。小麦さん、貴方のことが好きです。」
慧ははっきりと言った。光琉は小麦の表情を見た。いつもの堂々とした態度は何処へやら、目を泳がせて混乱しているようだ。
「お前とは話をしたこともないはずだが?」
「あまりお話をしたことはありませんね。これから話をしていければと思います。」




