愛は屋上の狼に及ぶ(1)
「本気で好きなんです。」
光琉は青年の真剣な眼差しに怯む。向かいの席の客がチラチラと此方を見ている。
「歳の差があることは分かっています。それでも、どうしてもこの気持ちを伝えずにはいられませんでした。僕はいつまででも待ちます。」
「分かりました。貴方の心は伝わりました。少し待って頂けますか。」
光琉はコーヒーを飲んだ。
この青年は山神家の向かいにあるアパートに一人暮らしをしている、慧という学生だ。殆ど一目惚れに近い状態だったそうだ。女性にモテるとは思っていたが、遂に男性から告白されるとは思ってもみなかった。
「重ねて伺いますが、光琉さんは小麦さんとお付き合いされているわけではないのですね。」
「はい。ただの近侍です。ですが、貴方が思っておられるより、障害が多い恋路だとは思いますよ。年齢だけではなく、家柄や性格など…。そこは覚悟なさって下さい。」
光琉は相手の気分を害さないように気を付けて言った。まあ、年齢に関して言えば、慧は自分の方が年上だと思っているはずだ。
「反対なさらないのですか。」
慧は不思議そうに言った。かなりの覚悟を持って打ち明けた割に、軽い忠告しかされなかったため、拍子抜けしていた。
「個人的には、小麦様が幸せになれる可能性を潰したくないですから。本家の方に知られたら猛反対されるでしょうが、僕は応援しますよ。」
光琉は言った。
人間と付き合うのは、ウェアウルフのロードとして褒められた行為ではない。小麦が相手にしない可能性は非常に高いが、光琉は異種族間の恋愛を否定しない主義だ。それに、小麦は自分を『ロード』としてしか見ないウェアウルフの男を好かないようだ。いっそ人間の方が上手くいくのではないかと思っていた。
「ありがとうございます。」
慧は深々と頭を下げる。
「あとは小麦様の御心次第です。小麦様が御認めにならなければ、僕にはどうすることも出来ません。まずは僕から様子を窺っておきます。」
光琉はコーヒーを飲み干した。
光琉は慧について調べた。慧は有名な国立大学に通っており、交友関係も広いようだ。誠実そうな人柄で、社交的かつ思慮深い、非の打ちどころのないような人物だった。父親は警察で、母親は弁護士、まさにエリートだ。
卓球部に所属しているためか、鍛え抜かれた、引き締まった身体付きだ。キリっとした面立ちに優しそうな眼差しを併せ持っている。学生だが、髪色は黒のままで、真面目そうな印象を受けた。服装にも気を配っており、物腰も品がある。
「僕が女だったら惚れていたところだ。男でもグラつきそうなほどいい男じゃないか。小麦様はいつも大物に好かれるな。羨ましい。」
光琉はまず、小麦が人間を恋愛対象と見られるのか、軽く探りを入れようと思った。
小麦はドラマを観ていた。光琉は後ろに座る。
「その娘役の女優、可愛いですよね。」
光琉は唐突に言った。
「そうか?あざといと思うが。私は妹役の方が好みだ。女はこのくらい慎ましやかな方が良い。」
小麦は答える。確かに小麦の好みはこういう女性だろう。光琉は本題に移った。




