借りてきた狼(2)
「はい。」
光琉がドアを開ける。
「あれ、若葉さんか。ルリさんは忙しいのかな。」
「気安く話しかけないで。何であんたに説明しないといけないの。」
若葉は光琉を睨みつけるが、一向に動じる気配がない。
「風当たりがキツイね。どうぞ中へ。小麦様がお待ちですよ。」
光琉は笑いながら若葉を中に通す。若葉はこめかみに青筋を立てながら付いて行く。客間には藍色の着物を身に纏い、艶やかな短い黒髪を弄ぶ、小さな王者が鎮座していた。
「若葉か。久しいな。息災だったか。」
「お陰様で。小麦様におかれましても、お元気なようで何よりです。」
光琉は二人にお茶を出した。若葉は上納金を小麦に手渡す。
「おお、今回は多いな。光琉、映画でも観に行かないか。」
「小麦様、皆さん苦労して稼いだお金なのですから、目の前で遊びに誘わないで下さいよ。少しは気を遣ってあげて下さい。」
光琉は苦笑いした。
「構いませんよ。一度お渡しした以上、そのお金は小麦様の物です。どのように使われようと文句など御座いません。」
若葉は懸命にフォローする。小麦は笑った。
「若葉は器が大きいな。ルリにも礼を言っておいてくれ。あまり無理せずともよいからな。お前も忙しかろう。下がってよいぞ。」
「あの、小麦様。もし宜しければ、暫く此方で小麦様のお手伝いをさせては頂けませんか。ルリ様には許可を取ってあります。」
小麦は驚いたようだった。
「私は構わんが、退屈だと思うぞ。依頼人など殆ど来ないからな。」
「お傍にいられるだけでありがたいのです。どうかお願い致します。」
若葉は熱っぽく語る。
「好きにしろ。光琉、面倒を看てやれ。」
「畏まりました。」
若葉は顔を綻ばせる。光琉もニヤリと笑った。
「物好きだね。」
光琉はボソッと呟く。若葉は光琉を睨みつける。
「力仕事を任せても良いかな。漫画が溜まったから、本棚を新しくしたんだけど、一人じゃ運べなくて。」
若葉の怒りをものともせず、光琉は呑気に言った。
「命令しないで。不愉快よ。」
「あれ?小麦様のためなのに、断るんだ。所詮は口だけってことだね。」
光琉は大袈裟に驚いてみせる。若葉は大きく舌打ちする。
「ホント、良い性格してるわ。何処に運べばいいの?」
光琉はニヤニヤしながら若葉をこき使った。
「ちょっと、それはまさか、小麦様の夕餉じゃないでしょうね。」
若葉が指さしたのは、出来合いの唐揚げが大量に乗った大皿二つと、付け合わせ程度の野菜、大量の菓子が並べられた食卓だった。
「ごめん。若葉さんの分は別に用意するから。小麦様は偏食家なんだよ。」
若葉は開いた口が塞がらなかった。
「そんな…。たとえそうだとしても、小麦様の健康のために努力すべきでしょう。職務怠慢だわ。私だったら、絶対にこんなことはしないのに。」
光琉は聞き流す。
「だったら、若葉さんがやってみなよ。あ、駄目か。小麦様が傍において下さらないから。」
「このっ…。」
若葉は怒りのあまり言葉を失う。光琉は小憎らしい笑みを浮かべている。




