鈴の共鳴(7)
光琉はルアーに食いついた魚を見ているような気分だった。この瞬間を待ち続けていた。光琉はこの隙を逃さずに畳み掛ける。
「一度はっきりさせておくべきだよ。どうだろう。さっき話していた他県のカフェに仁を誘うんだ。大事な話がある。この店に来てくれないようなら別れるとはっきり言えばいい。それでも来ないようならお仕舞いにすればいいさ。」
この話をするためだけに時間と金をどれだけ費やしたことか。
「仁は来るかしら。」
「来るよ。マリが思っているより仁は良い人だと思う。」
人間との恋愛だけでも危険なのに、かなり深い関係だ。愛情は相当なものだろう。それに、人外は大事な話と言われれば、自分の正体が悟られたことを疑う。来ない訳にいかない。クレセントのメンバーは連れていけないから、一人で来るはずだ。
「私が元気をもらって、立場が逆みたい。」
茉莉花は笑う。光琉は罪悪感を押し殺した。
「何てことないさ。職業病みたいなものだよ。相談に乗っている方が楽しい。丁度一週間後に付き合って一年になると言っていたね。その日に、カフェの開店に合わせて出掛けるのはどうかな。」
「いいですね。待ち遠しいわ。」
茉莉花の微笑みに合わせ、光琉は綺麗な作り笑いを浮かべる。
「どうだった?仁は来ると言っただろう。」
光琉は翌晩も訪れて確認する。茉莉花の嬉しそうな顔を見れば、結果は訊くまでもなかった。
「長谷川さんの言う通りでした。私、思っていることを全部伝えようと思います。長谷川さんのお陰で元気を貰えたわ。何てお礼を言っていいか…。」
「お礼を言われるようなことは何もしていないよ。」
光琉は苦笑した。計画を聞いたら絶対にそんなことを言えないだろうと思ったからだ。
その次に光琉がしたことは、鈴華に連絡を取ることだった。この作戦において、フェニックスの存在は欠かせない。
「鈴華、僕が今から言う日時にクレセントのリーダーを軽く襲撃してくれないか。絶対にないとは思うが、相手が変身したら、無理せずに逃げていい。寧ろ留まるな。」
光琉は鈴華に電話した。
「分かった。それで事態が好転するなら。」
「大丈夫だ。信じてくれ。命懸けにはなるが、それでもいいか?」
光琉は自信たっぷりに言った。
「勿論。光琉を信じる。」
計画の内容はこうだ。仁と茉莉花がいる所にヴァンパイアを襲撃させて、騒ぎを起こす。それを小麦が知ったら、仁が無断で外に出たこと、人間と交際していたことが明るみに出る。そのくらいで重い処分が下されるとは思わないが、謹慎処分くらいにはなる。リーダーを失った集団は脆いものだ。あとはフェニックスがどうにかするだろう。
光琉にとっての一番の誤算は、仁が想像を遥かに超えて茉莉花を想っていたことだった。皮肉にもそのせいで茉莉花が死んだわけだが。白昼堂々と狼になられては、どうしようもない。ウェアウルフが死んだ以上、このことを知られれば光琉の命はない。
「大丈夫だ。僕の関与が知られるはずがない。」
光琉は自分に言い聞かせるように呟く。




