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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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鈴の共鳴(6)

仁は我に返ったようで、小麦の目を見て恐怖している。これほど人が多い場所で騒ぎを起こしたのだ、最早どうしようもない。せめて通報されていなかったら、人間に戻ってやり過ごせただろうに。

「おい、あの犬コロは何処から来た?」

小麦は茉莉花に尋ねる。茉莉花は取り乱しながらも、独り言のように答える。

「そんな…仁がこんな化物だなんて、何かの間違いよ。あり得ない。」


茉莉花は見てしまった。小麦は茉莉花を殺そうと手を伸ばす。仁は茉莉花を庇うように間に割り込む。

「何をしている。この期に及んで人間を庇うつもりか。貴様がこの女を咬み殺して射殺されれば、まだ丸く収まる。最期くらいは掟に従え。」

小麦は言った。仁は唸る。小麦は外の人が気になり、変身出来ない。


「彼女の始末はお任せします。彼は僕が片付けます。」

茉莉花は光琉の声にハッとする。光琉は外に出て、銃を構えている警察の方に行く。警察が光琉を保護しようとしたところで、光琉は振り向き、カフェの方に石を投げ込んだ。振り向いた仁に赤い目を見せて笑う。

「まさか…。」

茉莉花は言いかけたが、それよりも物陰で狼になった小麦の爪が、茉莉花の頸動脈を掻っ切る方が早かった。


仁は小麦ではなく、光琉を目掛けて飛び掛かってきた。一斉に発砲される。光琉は仁に気を取られている警官の銃をそっと抜き取った。

仁は本来の力を出し切って警官を屠るような真似はしなかった。普通の狼らしく、銃弾に当たり、流血する。それでも光琉に向かってくる。光琉は一心不乱に何やら作業している。

「短気が命取りでしたね。」

光琉は警官から奪っていた銃を左手で構え、仁の眉間に弾丸を撃ち込んだ。途端に仁は倒れる。


「片手でもこの距離なら当たりますよ。安らかにお眠り下さい。」

光琉は警官に拳銃を返した。警察は目撃者として光琉と小麦に事情を訊こうとしたが、二人は軽々と警察を撒いた。


「銀の弾丸だな。普段から持ち歩いておるのか?」

「ご存じの通り、僕は非力ですから、護身用にね。撃てるかどうかは五分五分でしたが、上手くいって良かったです。」

本当に上手くいって良かった。光琉は内心ほくそ笑んだ。想定外に死傷者が出たのは残念だったが、これで形勢が逆転しただろう。


光琉の根回しは綿密なものだった。この事件は、光琉が一週間前に茉莉花を唆したことに端を発している。


「変なんですよ。仁は東京から離れたことがないみたいでした。他県の遊園地とか水族館に誘っても、絶対に来ないんです。話題にも上らないし。」

人外の縄張りは人間よりずっと厳格に分けられている。デートなら或いは縄張りの外に誘き寄せることが出来るかと思ったが、そう単純ではないようだ。光琉はすかさず同調してみせた。

「それはつまらないだろうね。」


「ええ。その上、今月は殆ど会ってくれなかったし、連絡も返ってくるのが遅くて…。内容も素っ気ないわ。」

茉莉花は遠慮なく酒を呑みながら、仁の愚痴をこぼす。既にかなりの量を呑んでいる。

「それって、もしかして…。」

光琉はさりげなく言った。

「長谷川さんも思いますか?仁が浮気しているんじゃないかって。」

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