鈴の共鳴(3)
「遅い。私は出歩くなと言ったはずだが?」
小麦は案の定ご立腹だった。
「すみません。友達に会っていました。休みは貴重なもので。」
小麦は光琉にウサギのぬいぐるみを渡した。真っ白で、目が赤い。どことなく間抜け面をしている。
「光琉に似ておったから、買ってきた。どうだ?」
光琉はクスクス笑う。
「僕はこんなイケメンじゃありませんよ。どちらかと言うと、小麦様に似ているのでは?」
「私がこんな阿保みたいな顔だと申すか。」
小麦は憤慨する。
「どうでしょうね。阿保みたいな顔の者には分かりかねます。」
光琉は机の上にぬいぐるみを飾る。こざっぱりした机に違和感が生まれる。
「名前は何にする?」
「小麦様が命名して下さい。」
小麦は考え込んだ。光琉はその様子を見て、内心笑っていた。やけに真剣に悩む。
「ヒカリでどうだ。」
「…僕の名から取っている訳ですか。まあ、良いでしょう。」
光琉はぬいぐるみを撫でる。
「咬んだり引き裂いたりなさらないで下さいね。」
小麦は大声で笑う。
明け方に鈴華から光琉に連絡があり、三日後の深夜にリーダーと会って欲しいと打診された。光琉は、フェニックスが相当切羽詰まっているのだと思い、快諾した。
「最近浮ついておるな。」
「そうですか?」
光琉は慌てて手を動かした。洗い物の途中でぼーっとしていた。
「女か?」
小麦は揶揄うように言った。
「違いますよ。考え事です。」
「ふーん。」
小麦は納得していない様子で、にやけながら言った。
勘違いされているから、逆に好都合かもしれない。光琉は思った。仮に鈴華と会っていると知られても、デートだと思われる可能性が高い。
「信じて下さらなくて結構です。」
光琉は皿洗いを続けた。
約束の日が訪れた。真夜中になる前、小麦が寝静まるのを見計らい、光琉は外に出た。外気は冷たく肺を刺す。待ち合わせ場所は相談所の近くだ。光琉は歩いて向かう。まだ誰も来ていないようだ。光琉は街路樹にもたれる。
「光琉というのは君かな。」
光琉は振り向く。青年が光琉のすぐ横に立っていた。黒髪だが、毛先に赤が入り、タトゥーもあるようだ。
「初めまして。貴方がフェニックスの…。」
「そう。リーダーの鈴木だ。」
確かにカリスマ性があるようだ。光琉は一目で鈴木のことを気に入った。
「鈴華からは、僕のことをどう聞いていますか。」
「フェニックスを助けるのに力を貸してくれるかもしれないと。」
光琉は首を横に振る。
「正確には、貴方個人を助けられれば助けるくらいの力しかありません。申し訳ないです。」
「待ってくれ。それなら、この話はなかったことにして欲しい。俺だけ生き延びるなんて、顔向けが出来ない。」
鈴木の目は真剣そのものだった。
「その心がけは素晴らしいものです。ですが、全員亡くなった所で、それが何になると言うのです?部下の誠意を受け止めて次に繋げることも、上に立つ者の務めではありませんか。」
それでも鈴木は断固拒否した。光琉は暫く悩んだが、見放すことが出来なくなっていた。




