鈴の共鳴(4)
「仕方ないですね。僕の負けです。全員助けようと努力しますが、無理だったとしても怨まないで下さいね。これ以上危ない橋は渡れませんから。」
光琉は眉間に皺を寄せて言った。本当に共倒れになりそうだ。
「すまない。でも、俺には全員を守る義務があるんだ。この恩は永遠に忘れない。」
「感謝は上手くいってからお願いします。ひとまずは、クレセントのリーダーに関する情報を下さい。」
光琉は言った。
脅せそうなネタがないかと思ったが、流石に敵に弱みを握られてはいないようだ。しかし、人間の女と交際しているようだ。光琉はニヤリと笑う。異種間の恋愛は得てして上手くいかないものだ。一番の朗報は、クレセントは全面戦争を仕掛ける前に、周囲のウェアウルフを呼び寄せようとしているようで、すぐには動かないということだ。
「何か連絡があれば、鈴華を介してお伝え下さい。」
「ありがとう。君はどうして俺を助けてくれるんだ?」
光琉はそっと微笑んだ。
「僕の敬愛する方ならそうなさると思ったからですよ。さようなら。」
光琉は背を向けて歩き始めた。霜柱が折れる音が徐々に遠ざかっていった。
「小麦様、近日中に休みを頂いても構いませんか。所用がありまして。」
光琉は翌朝、小麦に頼み込んだ。
「別に構わんが…。何の用だ。」
「知人に会いに行くだけです。」
光琉は悪びれもせずに言った。小麦は光琉を睨む。
「その前に説明しろ、昨晩は一体何処に行っていた?」
光琉は冷や汗を掻いた。咄嗟に上手い言い訳が浮かんでこない。
「別に。ただ寝付けなくて…。元来、夜行性ですから。起こしてしまいましたか?」
小麦は射るような眼差しを向ける。光琉は内心の不安とは裏腹に、眉一つ動かさないで、涼しい顔をしている。
「まあいいだろう。念のため言っておくが、お前はヴァンパイアであり、私が生かしているということを忘れるな。」
光琉もそれは重々承知だが、乗り掛かった舟だ。後には退けない。
「行って参ります。」
クレセントのリーダー、仁の彼女は茉莉花といい、事情があって高校を中退したらしい。水商売の女性で、それなりに人気があるようだ。光琉はそちらに近付くことにした。
「お客様、当店では未成年の方のご来店はお断りさせて頂いております。申し訳御座いませんが、お引き取り下さい。」
当然の反応だ。光琉は偽造した保険証を見せる。二十歳ということになっている。
「童顔なんだよ、僕は。これで良いかな?」
「失礼致しました。」
店員は引き下がった。光琉は堂々と店の中に入り、茉莉花を指名する。
念入りに巻いて、結い上げた明るい茶色の髪に、豊満な胸を強調する赤いドレスの女性が現れた。利発そうだが、同時にプライドが高そうにも見える。
「こんにちは、マリです。お客さんとは初対面だと思うけど、どうして私のことを知っていたのですか?」
「仁の彼女でしょう。仁には勿体ないくらいの女性だ。」
光琉は答えた。茉莉花を利用するための駆け引きが始まる。




