檻の狼と尋ね人(7)
光琉は小鳥の囀りで目覚めた。布団を払い除け、怪我の状態を確かめる。包帯が乱暴に巻かれている。痛みはあるが、治っているようだ。光琉は起き上がると、リビングに向かう。
「小麦様、おはようございます。」
「ようやく目覚めたか。何か覚えているか?」
小麦は振り向きもしない。
「何か…って?小麦様の背に乗ってから記憶がないですが。」
小麦は笑顔で振り向いた。
「そうか。なら良い。三日も起きないから心配したぞ。」
「三日…ですか。ご迷惑をお掛けしました。」
光琉は目を伏せる。
「気に病むな。私もやりすぎだった。虫の居所が悪かったのだ。」
「由佳さんは見つかりました?」
光琉は義手を小麦に渡す。小麦は黙って付けてやる。光琉はスマホを開き、地図を用意する。
「いや、まだだ。人海戦術で探してはいるが…。」
「僕は気付きましたよ。由佳さんは此処か、此処か、此処にいます。」
光琉は自信たっぷりに言った。
「由佳さんが電話に出てから、僕らが彼を見つけるまでの時間はざっと一時間。その間に彼は由佳さんを連れ去り、殺害し、移動して獲物を見つけている。」
光琉はまくし立てる。小麦は黙って聞いていた。
「そうなると、殺害現場は由佳さんの家から徒歩圏内です。これだけ時間が経っても発覚しないのは、結界を張っているためでしょう。彼の実力からして、人外の影響力が増す、墓地や廃墟、河原でもなければこんな芸当は出来ないと思いますよ。当日の時間帯とか彼の年齢とか、諸々の条件から絞り込んで、この三箇所以外には隠せないはずです。」
小麦は場所を確認した。
「筋は通っているな。珍しく役に立ったではないか。」
「そろそろ活躍しないと、非常食として活躍する羽目になりそうですから。役立ったところで、ちょっと寝ていても良いですか。まだ傷が癒えていないです。」
光琉は蒼い顔で布団に戻る。小麦はウェアウルフに連絡を回すために準備し始めた。
「また野良犬だ。最近多くない?」
街を堂々と闊歩する狼たちを見て、若者が言った。
「怖いね。あっち行って。」
若者は狼に手で合図した。茶色の毛並みの狼は、言葉が分かるかのように若者から離れた。
廃墟に野良犬が集結していく様子は、確かに不気味だった。暫く何やら嗅ぎまわっている。
「此処だな。ハンカチと同じ臭いがする。」
「そこの壁だけ新しくないですか。」
一つだけ真っ白な壁がある。叩いてみると、中は空洞のようだ。狼たちは体当たりで壊す。
「大至急笛を吹け。」
中にはまだ由佳だと分かるレベルの遺体があった。腐敗はしているが、外傷はない。毒でも飲んだのだろう。傍には遺書が置いてある。
「見つかったのですか、小麦様。」
光琉は小麦の身支度を手伝いながら言う。
「嗚呼。確認が出来次第、由佳の居場所を警察に知らせ、正を救う。」
「そうしたら由佳さんは共犯者か犯人扱いされ、家族は後ろ指を指される、と。」
光琉の言い方には棘がある。
「人間に入れ込み過ぎだ、光琉。無意識とは言え、実際に協力していたことは真実だ。」
「お気を付けて。」
光琉は小麦の言葉は無視して見送る。




