檻の狼と尋ね人(4)
「さて、美玖よ。由佳が何処にいるか心当たりはあるか。」
美玖は警戒している様子だ。光琉が言った。
「大丈夫。見た目は怖いけど、悪い人じゃないよ。お姉さんを見つけるためだ。話してくれるかな。」
美玖は首を横に振る。
「分からないの。だって急にいなくなるから…。」
「良い。我らが探し出す。それなら由佳の持ち物をくれ。身に付ける物で、最近まで使っていた物ならなおよい。」
「良いけど、それをどうするの?」
美玖は無邪気に訊いた。
「由佳さんを見つけるのに役立つはずだ。他の人には内緒で持って来てくれないかな。」
美玖は立ち上がり、部屋の外に走っていった。
「これでどう?」
そう言って差し出したのはハンカチだった。ヴァイオリンと黒猫が描かれている。
「完璧だよ。すぐに由佳さんを見つけてみせるからね。」
光琉はハンカチを仕舞った。
「きっとよ。」
美玖は念を押す。小麦は立ち上がる。
「もう行こう。あまり時間がない。」
「待って。」
美玖は光琉に不意打ちでキスをした。
光琉は恐る恐る小麦を見た。小麦は本気で引いていた。
「美玖ちゃん、あの…。」
「おまじない。お姉ちゃんを見つけられますようにって。」
美玖はあどけない顔で笑う。
「嗚呼…おまじないね。気持ちは受け取っておくよ。でも、このおまじないは無闇にするものじゃ…。」
「だってお兄ちゃんとはキスしたことあるもん。お兄ちゃんの方から…。」
あまりの爆弾発言に、光琉は生きた心地がしなかった。取り敢えず美玖の口を塞ぐ。
「おい、その話、もっと詳しく聞かせろ。」
小麦の威圧感だけで、光琉は胃に穴が開きそうだった。
小麦は殺気立った様子で由佳の家から出てきた。その後ろには、身をすくめている光琉が付いて行く。
「…小麦様。あれは子どもの気まぐれに付き合っただけです。僕が人間の血を呑まないことはご存知でしょう。別に本気で狙っていたわけでは…。」
「そういう問題ではないわ。恋愛対象としてどうなのだ。」
小麦はいつもの茶化すような口調ではなく、静かに言った。
「それこそないです。僕は幼児体型の子をそういう目で見ませんから。ちっとも好みじゃない…。」
光琉は恐怖で息が詰まって黙り込む。
「お前は女を体つきで判断するのか?私の前でよくもそんな無礼な戯言を口に出来るものだ。」
光琉は小麦の怒りが何処から来ているのか分かり、安心して軽口を叩く。
「別に誰も、小麦様がつるペタだとかチビだとか言っていないではありませんか。」
一瞬のうちに光琉の身体は地面に叩きつけられた。巨大な狼が馬乗りになって今にも咬み殺そうと身構えている。喉元に前足が掛かっているせいで息苦しい。
「申し訳御座いませんでした。言葉が過ぎました。お許し下さい。」
光琉は早口でまくし立てる。小麦は光琉の上からどいた。
「次はない。自分の立場をわきまえて行動せよ。」
光琉は首を擦った。小麦の爪のせいで血が滲んでいる。小麦が脱ぎ捨てた服を拾う。
「肝に銘じます。」
流石に今のは自分が悪かったなと、光琉は命拾いしたことを感謝した。




