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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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檻の狼と尋ね人(2)

警察には人外が起こしたと思われる事件の捜査や、人外の発見、駆除を行う部門が密かに存在している。そこの長官は焦っていた。最近は目立った成果を上げられていないためだ。寝不足で隈が出来た顔で、コーヒーをがぶ飲みしていた。不意に電話が鳴る。


「なんだ?」

長官はぶっきらぼうに言った。

「お客様がお見えです。」

受付の女性の声だ。

「アポはない。追い返せ。」

「それが…山神小麦と伝えればお会いになるはずだと仰るので。」


長官はガバッと飛び起きた。衝撃でコーヒーのカップが倒れ、書類に茶色の染みが広がっていくが、あまり気に留めていないようだ。

「まさか、金の瞳をした少女か。」

「ええ。お知り合いですか。」

長官は頭を抱えた。山神小麦は、彼が会いたくない人物ベスト3に入る。


「丁重にお通ししろ。くれぐれも失礼のないように。」

「はい。」

長官は少しでも印象を良くしようとネクタイを直し、お茶と菓子を準備した。落ち着かない様子で部屋の中を歩き回る。程なくしてノックの音がした。


「どうぞ。」

緊張している長官とは対照的に、小麦は余裕そのものだった。外見は幼いが、既に王者の威厳を醸し出している。

「君は下がっていい。」

受付係は一礼して出て行った。


「お久しぶりです、山神様。失礼、今はロードでしたか。どうぞお掛け下さい。」

長官は精一杯の愛想笑いを浮かべる。小麦は横柄に腰掛ける。自宅のようなくつろぎ方だ。

「お前は誰だ。菊池はどうした?」

「前の前の長官ですね。今は引退して家庭菜園をなさっているはずです。私は堀田です。確か二十年前、駆け出しの頃にお会いしているはずです。」

小麦は口角を上げた。


「あの時の青年がこんなになったか。時間は残酷なものだな。」

「あの、本日はどのようなご用件で…。」

小麦はビスケットを摘まんだ。

「土浦正を追うのを止めよ。」


堀田は訝しんだ。たかがウェアウルフ一匹を救うために、ロード自ら単身で敵地に来るとは思えない。

「ロード、我らはロードに敬意を表し、山神家と夜霧(よぎり)家の方が行うことは全て黙認しております。しかし、それ以外の者は自由に捕らえ、裁く権利を有していると認識しております。」

「そうだ。そして正の兄、土浦真は先代ロードである山神灯(あかり)の夫であり、私の父だ。私は唯一残った家族を奪われることをよしとしない。」


堀田はそれなら見逃しますとは言えなかった。それを認めれば次々認めざるを得なくなり、誰も捕らえられなくなることは目に見えている。

「二十年前、山神家で尊属殺人事件が起きた時、何故かそれを追っている刑事が不審死していったな。覚えているか?」

堀田は脅されているのかと不快に思った。


「ロード、我らはこれが仕事なのです。ご賢察頂きたいのですが…。」

「それなら、その仕事とやらを手伝ってやろう。〇〇市の連続殺人事件の犯人だがな、既に死んでいるぞ。ヴァンパイアだ。」

堀田は少しも嬉しくなかった。人外の犯人が既に死んでいると仕事が難航する。何しろ死体を確かめようがないのだ。

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