ブランド服の殺人鬼(8)
「待って!」
光琉は思わず声を上げた。二人は振り向いた。
「僕はそっちの女性に用があります。申し訳ないですが、貴方は別の人を指名してくれませんか。」
「そんな非常識な話があるか。子どもは帰れ。」
貴方の命を救おうとしているんですよ、と光琉は言いたかったが、黙って口実を考えていた。
「何故私を指名したいの?」
声変わり前の男子の声だ。高くしているから女の声に聞こえる。
「由佳ちゃん…?やっぱり由佳ちゃんだよね。僕だよ。」
光琉は小芝居を始める。騒ぎを起こされたら迷惑だろう。偽由佳の目が冷たく光る。
「ごめんなさい。今日の所は彼と話したいわ。お金は返します。」
男性は悪態をつきながら帰った。
小麦はまだ来なかった。光琉は退くに退けず、男と共にホテルに入った。
「口止め料を払うわ。来て頂戴。」
男は艶めかしい格好でベッドから手招きする。光琉は動かなかった。
「あんたさあ、少し大食いが過ぎるんじゃないのか。本当は同胞に忠告なんかする柄じゃないが、流石に目障りだよ。」
光琉はサングラスを外し、赤い目を見せる。
「なんだ、ヴァンパイアか。他人の食事を邪魔するなよ。」
男は声を高くするのを止めた。身構えている。
「言っておくが、僕を消しても無駄だ。既に外部に連絡を取ってある。それより、本物の由佳さんは何処にいる?」
「俺達が死んでも行けない場所さ。」
男は笑った。光琉は眉根を吊り上げる。
「外道が…。」
「元から人でなしだよ。そうだろう?」
男は面白がっている。挑発口調で続けた。
「お前も由佳を狙っていたのか?いいよな。変にスレてなくて旨そうだ。残念だったな。」
光琉は少し落ち着いた。この言い方からして、手を付けた訳ではなさそうだ。
「妹だろう。よくもそんなことが出来たな。」
「お喋りをしに来たのか。違うだろう。最後くらい派手にやろうぜ。」
光琉はドアを開けて外に出た。ドアが目の前で吹っ飛んだ。ここまでイカレた奴だとは思わなかったため、光琉は驚いた。
「逃げろ!」
叫びながら廊下を駆け抜ける。人々は逃げ惑った。男は人目のある場所で攻撃するつもりはないようで、人並みの速さで追ってくる。光琉はそれが分かった上で、人気のない場所を目指して走った。歓楽街を完全に抜け、公園に入り込んだ。
「もう逃げるのは諦めたのか。」
「人気のない場所に来たかったのだろう。此処ならお誂え向きだ。」
男は爪を伸ばした。不運にも近くにいた男女が五名ほど首を落とされる。光琉は顔をしかめる。何故こんな場所に人がいるのだろうと訝しむ。
「いい度胸だ。お前から来いよ。」
「吠えるなよ、三下の若造が。」
そう言いながら音もなく現れたのは、金色の毛皮の狼だった。
「なんだ、犬と手を組んでいやがるのか。お前にはプライドがないのか。」
小麦の乾いた笑い声が響く。
「脳足りん共を豚のように食い散らして、妹に擦り付けた奴がプライドについて説くか。なんの冗談だ。」




