表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
106/401

右腕と左眼(1)

小麦は炬燵の中で甘酒を呑んでいた。窓の外は猛吹雪で、一寸先も見えないような状態だった。観ていたクイズ番組が今しがた終わり、小麦は退屈そうにチャンネルを変えている。

「光琉、蜜柑はないか。」

「ありません。昨日小麦様が一箱召し上がったから。」

光琉は机に向かってペンを走らせながら言った。


「ならば買ってこい。」

小麦は無慈悲に言った。

「グリム童話の継母より残酷なことを仰いますね。こんな日に歩いて買い物に行けば、間違いなく凍死します。」

ニュースのアナウンサーが二十年に一度の大雪だと報じている。


「二十年に一度、か。確かにあの時も猛吹雪だった。」

小麦は窓の外を眺める。遠い過去に想い馳せながら。


そこは山の上の方で、とても寒かった。幸い裕福だったので、いつでも暖を取ることが出来る。光琉は暖炉に薪をくべた。火は煌々と燃えている。この頃の光琉は両腕が揃っていた。また、目を隠すこともなく、木綿の着物を着て普通に生活していた。

「終わったら牛に草をやっておいで。」

奥の部屋から声がした。光琉も声を張り上げる。

「はい。」


勝手口に向かおうとすると、廊下で亜麻色の髪をした女性に出会った。光琉は脇に避け、頭を下げて、真白が通り過ぎるのを待った。

「明日は笹木家の者と会う。手土産を用意しておきなさい。」

「畏まりました。」

光琉は頬が緩まないように努力しながら言った。真白から直接言葉を掛けられた。


光琉は外を見るまでもなくかんじきを履いた。案の定、外は一面の銀世界だった。こも巻きされた松を目印に、光琉は牛小屋を目指した。

「真白様はまたお出掛けになるのか。寂しいよな、おい。」

光琉は餌を運びながら、牛に話し掛ける。牛は何も答えない。


「僕も一緒に行けたらなあ。」

光琉は溜息を吐く。勿論、そんなことは不可能だと分かっている。真白の権限が及ぶこの館から一歩も出ないからこそ、平穏無事な生活を送れるのだ。それでも、時々外に憧れてしまう。


光琉は空腹感に襲われた。そろそろ食事をしないといけない。手早く仕事を終わらせ、侍従長を探しに行った。

「小雪さん。」

一人の女性が振り向いた。顔中に深々と刻まれた皺は、長年仕えてきたことを物語っている。優しそうな雰囲気の、小柄な女性だった。


「氷室に行ってもいい?お腹が空いちゃった。」

光琉は朗らかに言った。小雪は光琉を軽く小突く。

「これ、小雪さんでなく、侍従長でしょうが。行ってもいいが、空かもしれんよ。暫く補充しとかなかったからね。」

「取り敢えず行ってみるよ。」


光琉は立ち上がる。部屋から出ようとして、振り向きざまに言った。

「そうだ。明日は真白様が笹木家の人と会うから、手土産を用意してって。」

光琉は雪を掻き分けて、大きな氷室に入った。夏に入るとひんやりと感じるのだが、今は暖かいくらいだ。中には保存食の鮭や野菜と一緒に、竹筒が並んでいる。光琉は一つずつ手に持ってみる。全て空だった。普段は血が入っているのに。


「参ったな。これじゃ明後日まで持たないかもしれない。」

光琉は重い足取りで館に帰った。小雪に会った。

「光琉、血はあったかね?」

光琉は首を横に振る。

「そうか。真白様がお呼びだ。すぐに行きな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ