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狼と呪いの紅玉  作者: 馬之群
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右腕と左眼(2)

「真白様、光琉で御座います。」

光琉は真白の部屋の前で正座しながら言った。

「入れ。」

近侍の声がする。光琉は両手でそっと襖を開ける。


「光琉、もっと近くに来なさい。」

真白の声に、光琉はにじり寄った。顔を上げるよう言われても、光琉は真白の顔を真っすぐ見ることが出来なかった。


「小雪に聞いた。長いこと氷室に血を補充していなかったのは、私の失態ね。今日は直接呑みなさい。」

真白は優しい声で言った。光琉の顔が赤くなる。

「そ、そのようなことは出来ません。あまりに恐れ多いことです、真白様。」


「本人が構わないと言うのだからいいの。第一、筒に血を入れるのも同じことよ。」

光琉はきょろきょろと辺りを見渡す。他のウェアウルフは快く思っていないようだ。

「さあ、来なさい。」

真白は両腕を広げる。

「お召し物が汚れます。」


「何?脱いでほしいということかしら?」

光琉は驚いて顔を上げる。真白は既に悪戯っぽく笑いながら帯に手を回している。光琉は立ち上がって、真白の手を押さえる。二人は暫く至近距離で見つめ合っていたが、真白が上品に笑った。

「冗談よ。馬鹿ね。」


「揶揄わないで下さい。」

光琉は真白の手を放した。真白は光琉を引き寄せる。

「悪かったわ。ほら、呑んで頂戴。」

光琉は真っ白な項に吸い寄せられ、牙を突き立てた。


甘露のような風味に光琉の理性が薄れていく。生温かく、新鮮な血を呑む経験が殆どなかったからかもしれない。光琉はハッとして真白から離れた。

「申し訳御座いません。吸いすぎました。お身体は大丈夫ですか?」

「このくらい何てことないわ。偶にはこういうのもいいわね。」


真白は細い腕で、真っ白な木綿のハンカチを首筋に宛がう。光琉は息を整える。

「お手当てを致します。」

侍女が言った。真白はハンカチを離した。

「もう下がりなさい。」

光琉は真白の部屋を後にした。鮮烈な血の味がまだ口の中に残っている。


その夜、光琉は身体が火照って一睡も出来なかった。翌朝、真白が出掛けてからも光琉は暫く上の空だった。


真白は笹木家の者と挨拶していた。真白の後ろには小雪が控えている。そこは高級料亭で、既に隠居している笹木蓮之助をはじめとして、現当主である長男、次男、更にその子どもたちが何人かいた。

「わざわざお越し下さり恐縮です。」

蓮之助が言った。


「いいえ。向こうでは大したもてなしが出来ないもの。これは皆で分けなさい。」

真白の合図で小雪が菓子折りを差し出した。

「お気遣い頂き恐縮です。これは儂らからの気持ちです。お口に合うか分かりませんが。」

真白は箱を受け取るとそのまま小雪に渡した。

「ありがとう。では行こうか。」


数時間が経過し、一行が店から出てきた。真白と小雪が車の方に歩いていると、目深に帽子を被った人物が近付いてきた。

「真白様、少々お時間宜しいでしょうか。」

小雪は真白を庇うように立つ。

「誰だ?」


「笹木ルリと申します。」

ルリは帽子を取る。茶髪と思慮深そうな眼差しが印象的だ。

「ルリ…。思い出したわ。最年少の幹部候補生だったかしら。先程は姿を見なかったようだけど?」

「私は純血では御座いませんので、あのような場には呼ばれません。改めてご挨拶申し上げます。」

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