第22話 EPの使い道
ついにその質問が来たか……。
ダンジョンマスターになるには1000EPが必要だ。そして俺が所持してるのは2647EP。
つまり俺は今、余裕でダンジョンマスターになれるだけのEPを所持している。しかし……。
「フロウ、俺はゴブリンキングと戦って思ったんだ。もっと強くならないとって。だから、取得したEPは――」
言葉が途切れる。くっ……後ろ髪引かれる思いは確かにある。だが、そのEPは、
「――能力強化に使いたい」
ダンジョンを、フロウを守るために使用する。
〈そうですか……。それではこれまで通り、ラントには私の指示に従ってもらう事になりますが〉
「異存はないよ」
心残りは多少あるが、優先すべき順序がある。
〈ラントの意思は理解しました。――では遅くなりましたがゴブリン討伐の件です。指示通り経験値取得を大きく成し遂げたラントには、報酬として100EPを与えます。よく頑張りましたね〉
「え、ええっ!?」
今、あのフロウが、『よく頑張りましたね』と!
〈あなたの成果に対し、報酬が少ない事は分かっていますが――〉
「いや、いつも無理を聞いてもらってるし、報酬に文句なんてないよ。それよりさっきの台詞、もう一度最後の方だけ言ってくれないかな?」
そう、『よく頑張りましたね』と、もう一度。
〈? ――たね〉
めっちゃ最後の方!?
「も、もう少し前の方から言ってみて?」
〈――ましたね〉
「もう少しっ! もう少しだけ前から!」
〈――りましたね〉
「わざとやってる!?」
〈わざととは、私がですか? 極めて厳密な解釈のもと、ラントの要望に正確に応えていたつもりです。理不尽な非難を受けた気がします〉
ぐはーっ! コミュニケーションって難しいよねっ!
「ごめん……。俺はただ、フロウが褒めてくれたのが嬉しかっただけなんだ」
〈褒めたのが、ですか? 成果をあげた者に感謝を伝えるのは当然の事です〉
「それでも嬉しいんだよ、フロウ」
〈そう、ですか……。スライムやゴブリンに感謝を伝えても、そのような反応はありませんでした。――ラントは変わってますね〉
「比較の相手を間違えてるよっ!」
俺はフロウにゴブリン討伐の顛末をざっくり話し、そのあと許可をもらって控室で休ませてもらう事にした。
控室というのはコアフロアに併設された俺専用の部屋のことで、ここは現在なんとも生活感溢れる部屋となっている。
仮にダンジョンを攻略した侵入者がここを見たなら、そいつは何を思うだろうか……。
しかしながら、そんな事態は起こらない。
控室にいるときに侵入者がやって来くると、俺は強制的に中から追い出される。
そして控室の入口は、きれいに消えてなくなる。
かくしてダンジョンモンスターの生活感は、侵入者の目から完全に隠されるというわけだ。
こんな隠し部屋があるのは、このダンジョンだけではない。
モンスターにもその生態にあった環境は必要なわけで、それを満たすための隠し部屋は大きなダンジョンなら普通にあるらしい。
ダンジョン、意外にも福利厚生がしっかりしていて驚きである。
ゴブリンにも控室はあるのだろうか?
答えは、『無い』である。ゴブリンは待遇をよくすると増長し、果てしなく要求をエスカレートさせ態度がでかくなっていくという。
ゴブリンを御するには、奴らより強く、かつ卑劣で、かつ下劣である必要がある。
そのためにゴブリンは徹底してブラックな環境に置かれているのだ。
改めて考えるとドン引きだな、ゴブリン。
しかしだからこそ、ゴブリンは維持コストの安く済む財布に優しいモンスターと言えよう。
おっと、そうなると俺は、財布に厳しいモンスターってことになるな。あまり贅沢はしてないつもりだが、気をつけよう。
専用の控室に入り、装備を外す。余計なものを脱いで身軽になるとホッとするな。
さーて、腹へったぞー。
昼に何も食べなかったので、そこそこ腹が減っていた。
コボルト達は途中で食事をとることがなく、俺も食べるタイミングを見つけられずに行動していたからだ。
彼らの食料事情は聞いてたからね、一人だけ食べる勇気はなかったよ……。
そんなわけで、結構腹が減っていたが体の汚れも落としたいから、まずはシャワーを浴びる。
汗を流してさっぱりした所で、ようやく食事だ。
持っていった弁当は時間が経っていたため、もったいないがスライムに与えた。未知の食中毒とか恐いから。
シーベルにあげても良かったが、犬が食べたらいけないものが入っていたら危険だ。
まあ犬じゃないけどね、近いとは思うから。
食事のためテーブルにつき、お決まりの儀式を行う。
「宝箱先生、どうか食事をお願いします!」
テーブルの上に鎮座した宝箱を、柏手を打って拝む。
ぱん! ぱん!
すると宝箱がひとりでにパカッと開いた。
中にはホカホカの食事が入っている。
そっと取り出し、美味しく頂かせてもらった。
残さず食べ終わったら食器を洗い、よく拭きあげてから宝箱の中に戻す。
「宝箱先生、ごちそうさまでした!」
パタンと宝箱のフタが閉まり、少しカタカタいってから静かになった。
これが食べ残しをそのまま返したりすると、宝箱先生の怒りにあう。
バクンと手首を挟まれ、結構痛い目にあわされる。更に、食事のグレードまで下げられてしまう。
だから俺は宝箱先生に敬意を払い、食事に感謝している。そうすることによって毎日、美味しい食事を頂けるのだ。
「宝箱先生、明日もよろしくお願いします」
カタカタ、カタカタ。
うーん……生きてるよね? 宝箱先生。
食事も済んだし、お茶を頂きながらステータス画面をチェックしてみよう。
「ステータスオープン!」
パッと現れる各種シンボルマークと数字の羅列。EPシステムを使えば、ステータス表示の他にもスキル検索や簡易的な計算等もできる。
ステータス表示でまず目につくのがレベルだ。
ゴブリン討伐により俺のレベルは8へと上がった。次に筋力、素早さ、持久力といったお馴染みの項目。
……おお。ついにすべての項目でゴブリンの数値を上回った。
といっても大差はなく、もしゴブリンがレベルを上げたら軽く抜かれてしまいそうだが……。
ちなみにこのダンジョンのゴブリンはレベル5だった。
しみじみ比べてみると、軽くへこむな……。
まあ、そんなの気にしても仕方ないか。俺は魔術師だから他の所で勝負すればいいのだ。
ということで、早速EPを振ってしまおう。
真っ先に迷いなくEPを振れるのは、やはり魔力の項目だ。
レベルアップにより更に増加した魔力だが、EPを振ることで上限に届いて1900になった。
これならさすがに余裕を持った魔力運用ができるだろう。コネクト維持のためにも魔力には余裕を持ちたいからな。
ゲートとコネクトが裏技的に使え、外でも魔力回復速度3倍となることが判明した。
熟練度を上げてコネクトの魔力消費を減らせば、更に恩恵を受けられる。そのためにゲートをいくつか作り、コネクトを複数起動させる予定だ。
ゴブリン討伐戦ではずっとコネクトを維持していたが、それによる思考力低下はまったく起きなかった。
コネクトは魔力回路への負荷がだいぶ小さいらしい。
できればコネクトを複数維持していても魔力が減らないくらいに育て上げたい。
さて、問題は残りのEPを何に使うかだ。
魔力に振った残りが、フロウに与えられた100EPを加えて2724EPある。
男であるからには筋力に振りたい……という誘惑はあるが、俺は魔術師タイプだからEPの使い道候補を3種のスキルに絞った。
魔力負荷軽減 …… 魔力回路への負荷を軽減する。
魔力消費減少 …… 魔法に必要な魔力を減らせる。
魔力回復速度上昇 …… 魔力の回復を早める。
この3つのスキルにはそれぞれランクが1から5まであり、その加減率と価格がスキル3種とも同じだ。
ランク別での加減率はこうなる。
ランク1 → 3%
ランク2 → 8%
ランク3 → 16%
ランク4 → 28%
ランク5 → 46%
各ランクの値段は以下の通り。
ランク1 → 100EP
ランク2 → 500EP
ランク3 → 2000EP
ランク4 → 8000EP
ランク5 → 32000EP
俺の所持EPは2724だから、お値段2000EPのランク3が取得可能だ。
ところで俺の魔力回復量だが、通常の自然回復だと1時間で20MP回復する。
さらにコアフロアの魔力回復速度3倍が適用されると、1時間で60MPの回復になる。1日あたりなら1440MPの回復だ。
俺の最大魔力量が1900MPだから、ついに1日での魔力回復量を最大魔力量が上回ってしまった。
それなら魔力回復速度上昇を取るべきだろうか。
グラビティを例にとって考えてみよう。
全力グラビティでの魔力消費は10MP。1日あたりの魔力回復量は、わかりやすく1000MPとして計算する。
すると、1日に撃てるグラビティは100発だ。
これが魔力回復速度上昇3を取るとどうなるか?
回復速度16%上昇で、一日あたりの回復量は1160MPとなるからグラビティ116発分だ。
次に、魔力消費減少3を考えてみよう。減少率は16%だから、グラビティが8.4MPで撃てるようになる。1000MPあればグラビティを119発撃てる計算だ。
魔力回復速度上昇3がグラビティ116発分。
魔力消費減少3がグラビティ119発分。
微妙ではあるが、これなら魔力消費減少3の方がお得なのではないだろうか。
あとはフロウの意見も聞いてみよう。
「――というわけなんだけど、どう思うかな?」
コアフロアに戻った俺は、フロウに聞いてみた。
〈そうですね、魔力消費減少3を選ぶのに異議はありません〉
「おお……なんか安心した」
恐くて自分の判断だけじゃ選べないからな。
〈熟練度上げはコネクトに集中するのですか〉
「ああ。色々考えて、それが一番効率的かなって思うんだが」
〈常に効率を求める姿勢は大切です。ならば魔力回復速度上昇2も合わせて取得することを提案します〉
うっ……魔力回復速度上昇2か。
これには魔力回復速度を8%上昇させる効果がある。
値段は500EPだから取得は可能なのだが……。
「8%って少ないと思うんだけど、取ったほうがいいのかな?」
〈魔力回復速度3倍と魔力回復速度上昇2を双方適用すれば、ラントの魔力回復量は1日あたり1555MPになります。115MPが魔力回復速度上昇Ⅱで回復する分の魔力になりますね。先程のラントの言葉からすると、この追加で増える分の魔力が少ないと感じているようですが、それでも仮に100日が経過したとすれば、1万1500MP分もの差がついてくるのです〉
おおう……フロウさん、それは『塵も積もれば理論』ですね、わかります。
「100日を、仮に1000日とすれば11万5000MPの差……」
〈その通りです〉
「1000日を、仮に10万日とすれば……」
〈1150万MPの差になりますね〉
あ、ボケたつもりが冷静に返されてしまった。
フロウ、10万日って274年だからな? そんなに長く生きてたら人間じゃない。
あ、でもアンデットになったらいけるのか? スケルトンとか、吸血鬼とか。死しても永遠に……。って、恐いわっ!
〈更に10万日を、100万日と仮定すれば――〉
「恐っ!」
〈――ラント、恐いとは?〉
「あっ……MPに差がつきすぎて、恐いなーっ、恐いなーって」
嘘です。ホントは普通に2740年分のMPの話をしてくるフロウが恐かった。
〈――そうですか。恐く感じるほどに理解したようですが、これは強制ではありません。魔力回復速度上昇2の取得は、ラントの自主性を尊重します〉
「いやいや、フロウのお勧めだし、これはもう絶対に魔力回復速度上昇2を取得しないと。フロウのお陰で8%がすっごい大きいって事がわかったから」
〈そうですか。具体例をあげて説明した甲斐がありました〉
具体例をあげすぎるフロウが地味に恐く、取得しないという選択肢はない。――うん、取得完了っ。
これでEPの残りは224となった。これを使うか、それとも残しておくか。ここはやはり……。
「フロウ、残りのEPなんだけどさ……」
〈はい〉
「き……筋力に、振ってみても、いいかな?」




