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第21話 スリングで鳥を


 ――意識がクリアになるまで10分くらい掛かった。

 ゴブリンキングはシスネさん達が落下地点に行った時、すでに生きていなかったらしい。

 もともと大ダメージを負った状態で結構な高さから落下したのだ。それも8Gで。あれで生きていたら、アライグマもびっくりだ。

 アライグマって、凄い高さから落ちて平気だったの何かで見たからな……。

 懸案とされていたゴブリンキングの討伐成功で、しばしその場にはコボルト達の遠吠えが上がっていた。


「皆の者、憎っくきゴブリンどもの首領、ゴブリンキングは倒れました! これも大魔術師であるラント様のお陰。このご恩を忘れてはなりませんよ!」

「「「おおーーーーーーっ!!」」」


 わふわふと騒ぐコボルト達に囲まれ、歓喜の遠吠えを聞かされる。


「さ、ラント様。まだあちらに息のあるゴブリンどもが待っております。どうぞその手で、とどめをお刺し下さい」

「あ、はい。そうか……もうひと仕事残ってましたね」


 巣穴の前に積み重なっていたゴブリンだが、やはりまだ生きているのが多かった。

 シスネさんに促され、槍でサクサクとどめを刺す。こいつらの性格や生態を知るにつれ、とどめを刺すのに抵抗感が無くなってきた。


 結果、大量のEPを獲得。

 現在の所持EPは、実に2647という数字に膨れ上がっている。更に、レベルは4から8へと上昇した。

 コボルト達はゴブリンの魔石も取り出してくれた。

 ゴブリンキングの魔石は、やはり普通のゴブリンのものよりだいぶ大きい。ありがたく回収した。


 そんな顛末で、いくらかの波乱はあったがゴブリン討伐作戦は無事に終了し、俺達は帰還の途についている。

 コボルト隊は一匹も欠ける事なく運搬要員と合流し、村への帰還を急ぐ。

 勝利の知らせを持ち帰れるのだから、コボルト達の足も早まろうというものだ。

 その中を俺はシスネさんと並んで歩いていた。そのすぐ後ろをシーベルが歩いている。


「帰り道ではゴブリン見ませんね。来るときには結構いたようだけど」


 戦いが終わってすっかり緊張感の抜けた俺は、シスネさんに話し掛けた。


「そうですね。このあたりからは姿を消したようです。それよりラント様、もうお体は大丈夫なのですか?」


 ゴブリンキングを倒してから少しの間、俺は魔力回路の負荷による思考力低下状態に陥っていた。

 駆け寄ってきたコボルト達に、風が輝いてるとか、囁いてるとか、しばらく口走っていた記憶がある。

 それは以前やらかした時より軽い症状だったのだが、シスネさん達には随分心配をかけたようだ。


「すいませんシスネさん。心配かけたみたいですね」

「はい、それはもう」


 シスネさんは大きく頷いて、心配しましたよと笑った。


「先程の話ですが、このあたりからゴブリンがいなくなり、狩りなどの活動もしやすくなりました。すべてラント様のお陰です」

「いえ、コボルト隊の頑張りのお陰かなと。シスネさん先程狩りと言いましたけど、獲物はゴブリンに乱獲されてたみたいですよね。大丈夫なんですか?」


 来る時も今も、ほとんど動物を見かけなかった。あのスナイプラビットすら出て来ないのだ。


「……森が元に戻るまで、時間は掛かるかも知れません。しかし我等は、森の恵みを採取すれば生きてゆけます」

「まだ獲物がいる遠くへは、狩りに行かないんですか?」

「恥ずかしながら我等の歩みは鈍いゆえ、それほどの遠くへは行けないのです」


 ああー、そうだった。

 むしろシーベルなんて遠くに来てた方か。俺は後ろに振り返ってシーベルに聞いてみた。


「スナイプスラビットくらいなら、まだいる場所あるんじゃないか?」

「ある。だが奴ら、捕るの難しい」


 思い出した。それで弓もうまく引けないから、なかなか捕れないって話だった……。


「あ、だけどスリングあるんだから、今度は捕れるだろ」

「「わふっ!?」」


 シスネさんとシーベルが共に驚いた声を出した。


「相手が小さいと狙いが難しいかも知れないけど、そしたら散弾って手もあるし。そういや、鉄球結構残っちゃったな。あれで鳥なんかも捕れると思うぞ?」

「「「鳥ッ!?」」」


 他のコボルト達まで反応凄いな……鳥はうまく頭に当てないと難しいけど、散弾ならいけそうな気がする。

 実際大きさ8ミリの鉄球は、10個以上まとめて投げると凶悪な威力だと思う。

 シスネさんの時は5ミリだったけど、それでも相当な威力がありそうだった。


「ラ、ラント様……鳥を捕るなんて出来るのですか? それと、スリングは頂いてしまって宜しいのですか?」

「もともとコボルト達に用意したものですから、もちろん差し上げますよ。ゴブリンだってまた来ないとは限らないでしょうし」


 俺の言葉を聞いたシスネさんは深く頭を下げ、ありがたく頂きますと礼を言った。

 手元に見本があればコボルト達でもスリングは作れると思うけど、そこは器用さ次第かな。

 不器用そうってイメージがあるから、細かい作業は不得意なのかもしれない。


「あと鳥を捕ることですけど、十分出来ると思いますよ。散弾を使えば……あっ、森の中で散弾使うと、鉄球なんてどこかいっちゃうか……でもコボルトなら、匂いで探して少しは回収できる、かな? どうだろうシーベル」

「あまり遠くは、難しい」

「そっかー、そうなると使い捨てになるな……。あ、でも鉄球じゃなくても、手頃な石をまとめて投げてもいける気がする」

「わふっ!?」

「鳥なら結構見かけるし、試したらどうだ?」

「そうですね、試す価値があります。シーベル、ラント様の言われる方法を試させてもらいなさい」


 シスネさんにも言われたシーベルは、足元から手頃な小石を拾い集めはじめる。

 それを見た他のコボルト達も一緒になって小石拾いを手伝いはじめた。

 ゴブリン戦用の石はもう捨ててきてあったので、その空いた袋の中にシーベルが小石をつめていく。


「それにしても、鳥とは……。枝先にとまる小さな標的は難しい獲物です。我らに捕れるとよいのですが」

「コボルト達の投石見てましたけど、あの勢いで投げられるなら大丈夫ですよ。ただ、運による所が大きいので……当たらずに逃げられることも多いと思いますが」


 シスネさんがだいぶ期待してるようだから、捕れない事も多いですよと予防線を張る。


「ラント様。10回、いえ……20回、30回に一度でも鳥を捕ることができるなら、回数をこなすことで十分な量を確保できるでしょう。そうですね、子供達が喜ぶくらいの量が、たまにでも捕れたらいいのですが……」

「おおっ、子供達か……それはぜひ喜ばせてあげたいですね。シーベル、責任重大だな」

「わふっ!?」


 いきなり話を振られたシーベルが驚きの声を出した。

 俺を見て固まったから、もうひとつ発破をかける。


「シーベルが鳥を捕ったら、妹さん喜ぶだろうなー」

「ふぅあっ!?」


 おお、出たなその叫び。


 シーベルは仲間達の集めてきた小石を地面から手早く袋につめ、隈取模様のキリッとした顔を木の上に向けた。


「鳥……いる。試す」


 シーベルの視線を追うと、その先にハトくらいの鳥がいた。

 地面から8メートルくらいの高さにいて、枝の中程にとまっている。ここからその木までは20メートルくらいだ。

 シーベルは袋の中からごそっと小石を掴み、スリングにセットする。ハンモック状の部分に、こんもりと乗った小石。

 うわあ……あんなにか。

 コボルト達全員が見守る中、シーベルは真剣な目でスリングを回し始める。


 ブン、ブン、シュバッ!


 放たれた小石は、投げ入れを失敗した時の投網のように小さく広がりながら飛んだ。

 見事鳥に命中する。鳥はそのままボトリと落ちた。


「「「おおおーーーっ!」」」


 コボルト達がどよめく。

 凄いなシーベル、運もあっただろうけど見事にやってくれた。

 シーベルは尻尾を振りながら獲物を拾いに行き、落ちた鳥を掴むとこちらに駆けてくる。


「ラント、長、やった! 鳥捕れた!」

「見事ですシーベル。ふふ、私達にも鳥は捕れるのですね」


 シスネさんは鳥の足を持って嬉しそうに掲げるシーベルを褒め、それからコボルト達に告げた。


「皆の者、我らも鳥を捕ることができると、こうして証明されました。今は村への帰還を急ぎますが、帰ったら皆で鳥を捕りますよ!」

「「「おおーーーっ!」」」


 コボルト達の表情が明るくなったのがわかる。

 そりゃ山菜だけより、お肉もあった方が嬉しいよね。

 気になっていたコボルト達の食料事情にも少しだけ光明が見えたようだ。


 さて、こちらはそろそろダンジョンに急ぎたい。

 そこでシーベルには悪いが、コボルト達とは途中で別れ、ダンジョンまで護衛としてついて来てもらう事にした。

 まだ一人で帰るには不安があるからね……シーベルすまん。

 シスネさんやコボルト達には別れを惜しまれたけど、そのうちコボルトの村に行きますよと言って別れた。


「コボルト達にはまた世話になりそうな気がするな」


 俺が言うと、シーベルは頷いた。


「ラントにはたくさん、借りある。いつでも頼ってほしい」

「またコボルトの村に行って、シーベルの妹さんに会ってみたいな」

「わふっ……いつでも歓迎する」


 やはり若いコボルトほど隈取(くまどり)模様がはっきりしてるのだろうか。シーベルに聞くと、その通りだと言われた。

 ははは、目に浮かぶようだ。


 帰り道では狩りでの苦労話も聞いてみた。

 なんでも鳥は滅多に捕れない獲物なようで、それを捕れることにシーベルは興奮していた。

 色々話をしながら、何事もなくダンジョンに到着。

 結局フロウからの緊急連絡もなかったので、侵入者は現れなかったようだ。


「じゃあなシーベル。ここまで護衛ありがとう。シスネさんによろしくな」

「ラント、世話になった。何かあれば、オレ、呼んでほしい」

「おっと、忘れるところだった! 妹さんの件、よろしく頼むぞ。次行ったら会わせてくれよ?」

「わ、わかった……ラント恩人。妹にも、すっごい、言っておく」


 シーベルにくれぐれもと念を押したので、次回コボルトの村に行ったときには妹さんに会えるかもしれない。楽しみだなあ……。

 シーベルと別れると、空はもう夕焼けで赤くなっている。

 俺は少しだけ空の赤を楽しんでダンジョンの中に入った。





 ――コアフロアに戻ると、すぐにフロウが声をかけてきた。


〈ようやく戻りましたかラント。見たところステータス異常は無いようですね〉


 おお、この無感情な少女の声を聞くとほっとする。早速今のを紳士脳変換だ。


『やっと帰ったのねお兄ちゃん! ケガは無かった?』


 ふふ、お兄ちゃんは大丈夫だよ。

 おっと、フロウに戦果を報告しないとな。


「ただいま、フロウ。予定通りコボルトと連係して、ゴブリンの巣を潰せたよ」


〈ゴブリンキングはどうでした?〉

「なんとか倒せたけど、一時は冷や汗かいたよ。とんでもないな、あのバケモノ」

〈私が喚ぶはずだったモンスターが、あれでした〉


 うっ! 心にぐさりと刺さるお言葉いただきました。


〈しかしそれを倒したのなら、あなたの力はゴブリンキングと同等以上。そう考えて問題無いでしょう〉

「えっ、あれと同等……? とてもそんな気しないな。あれはバケモノだったよ」

〈あなたの能力は大きく変化しています。自分の力を正しく把握しなければなりません〉


 呼ばれた当初からは成長していると自分でも思うが、さすがにあのバケモノレベルに届いているとは思えない。


「あっ、そうだ! 帰ったら聞こうと思ってた。MPの減り方が変で、コネクト使ってたら減っていくはずが、全然減らなかったんだ」


 バグ疑いの案件。

 あれはちょっと気味悪かったからな。


〈その件については私も把握していました。原因はゲートとコネクトにあるようです〉

「やっぱりか……。MPが減らないなんて、どんなバグだったんだ?」

〈コアフロアでの魔力回復速度は3倍になります。こちらに残されたゲートとあなたの持つゲートの間で空間が接続された結果、ダンジョンの外であってもコアフロアの魔力回復速度3倍が適用されたようです〉

「はあっ? すると……ゲートを通じて有線で魔力が送られてくるようなイメージになるのか。なるほどそれで……」

〈コネクトによるMP消費と、魔力回復速度3倍によるMP回復がほぼ釣り合っていたため、時間経過ではMPが減らないように見えたのでしょう〉


 随分と裏技くさい現象が起きていたようだ。

 そういえばずっとコネクトを維持しているが、熟練度の方はどうなったのだろう。

 ステータスを表示して確認してみると、コネクトで消費されるMPは減ってきているのがわかった。

 そのためほぼ釣り合っていた消費と回復のバランスは、現在回復の方に傾いている。


〈更にコネクトによる空間接続のため、ラントから得られているコストも途切れずに入っていました〉

「俺からコスト……。それって前にフロウが言ってた、俺を侵入者扱いしてる自律システムの件かな?」

〈そうです。ラントのレベルが上がったことにより、あなたから得られるコストも増えてきました〉

「あっ、それって俺のレベルで変わるんだ?」

〈レベルというより、総合的な能力値によりますが〉

「へえ、なんか基本給が増えた感じでちょっと嬉しいかも」


 コストは俺が直接貰えるわけではないが、ダンジョンが得たコストからは俺にも恩恵があるわけで。

 自分の価値が上がったように感じて嬉しい。


〈ラント、もう一つ重要な話があります。あなたが外部のゴブリンを倒した場合にも、ダンジョン側にコストが入ると確認されました〉

「コストって侵入者以外からも手に入るんだっけ?」

〈いくつか手段はありますが、今回の場合はコストを得られないはずでした。やはりラントの特殊性とゲートの影響によるものと思われます。この件を中央コアに問い合わせてみましたが、問題は無いと解答されました〉

「バグってるみたいだけど問題無いと。中央コアって意外と大雑把なんだな……。でもお陰で得してるみたいだし、ラッキーと考えていいのかな?」

「大雑把というわけではないと思いますが、このダンジョンにとっては有利な条件に恵まれました。ラントがゲート間をコネクトで繋ぎ、その状態で外部のモンスターと戦うことでもコストが得られるのですから〉

「あれ……もしかして俺、外でモンスターと戦ってれば侵入者と戦わなくてもダンジョンを成長させられる?」

〈ある程度は可能でしょう〉

「そうか……それなら今回のゴブリンみたいに外部のモンスターを探して、それを狩っていけばいいのか……」

〈ラントにはフロアガーディアンとしての役目がありますが、積極的に外部に出ていくことも考える価値がありそうです〉


 おや、これからも外に出張させてくれるのかな。

 俺としてもモンスター相手に戦っていればいいのなら、そちらの方がありがたいが。


〈そこで今後の方針のために聞いておきたい事があります〉

「ん、なんだろ?」

〈あなたが十分なEPを取得していることは把握しています。――ラント、ダンジョンマスターになりますか?〉



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