第19話 vsゴブリン
ゴブリンの巣穴に到着した。
先に偵察していたコボルトが巣穴の様子を報告する。
「巣穴の周囲は見通しがよく、気づかれずに近づけるのは200メートルくらいまでです。見張りは穴の前に2匹です」
報告を受けたシスネさんは、ひとつ頷いて偵察のコボルトに問う。
「見通しが良いのはむしろ好都合ですね。スリングの使用に問題はありませんか?」
「問題なしと、思われます」
「それでは今一度、皆に作戦を伝えます。周囲の警戒に6匹を配置。運搬要員は必要な物資を分配後、この場所で待機。残りの者は巣穴から120メートル付近で半円状に展開。巣穴から出てくるゴブリンを、まずは遠距離攻撃隊により集中撃破。攻撃をかい潜って来るものには中距離攻撃隊が散弾攻撃。さらに抜けてくるものには各自近接戦にて対処。ラント様は……」
言葉を切り、こちらを見るシスネさん。そして続ける。
「できうる限り、ゴブリンキングが現れるまで魔法を温存。ゴブリンキングが現れ次第、魔法による援護をお願い致します」
「了解です」
俺の返事を確認したシスネさんは尻尾を上げ、小さな声で皆に号令を出した。
「それでは皆、参りますよ。長年の恨み、今こそ晴らす時です」
「「「おおー」」」
ゴブリンに気づかれぬよう小さな声で応えるコボルト達。
戦闘部隊は運搬要員から大量の石が入った袋を受け取り、次々とゴブリンの巣穴に向かっていく。
俺は戦闘部隊の後からシーベルと並んで巣穴に向かった。
少しして、早くも先行した部隊とゴブリンが戦う叫び声が聞こえてきた。
早足になって森を抜けると、すでに巣穴を取り囲んだコボルト達がスリングを振り回してゴブリンに投石している。
攻撃は一方的だった。コボルトの投石に、ゴブリンはまったく対処できていない。
スリングから恐ろしい勢いで放たれる投石に、あちらこちらと逃げ惑うばかりだ。
巣穴から出て来るゴブリンの多くは弓矢を手にしているが、絶え間無い投石を避けるのに必死で矢を射る余裕がない。
それでもいくらかは矢を射ることに成功していたが、コボルトが左腕にくくり付けた盾で軽く防がれてしまう。
「ゴブリンどもは何も出来ません! 落ち着いて狙うのです!」
今までの恨みを晴らそうと、コボルト達は容赦なくゴブリンを攻め立てる。その尻尾は戦いの興奮からか、小刻みに振られていた。
ゴブリンは石に打たれ、1匹、また1匹と倒れていく。
包囲陣形からの集中攻撃になすすべもなく、ゴブリン達は素早く這うようにして巣穴へと逃げこんでいった。
それまでの悲鳴や叫びが徐々に収まり、巣穴のずっと奥の方でゴブリン達が騒いでいるのが聞こえる。
それきり、新たなゴブリンは姿を見せなくなった。
「シーベル、ゴブリン出て来なくなったな……」
結構な数のゴブリンがいると聞いていたが、倒れているゴブリンは八匹くらいだ。シーベルが辺りを警戒しながら巣穴の方を見る。
「ラント、これから本番。きっとたくさん来る」
「中に立て篭もられたりしないかな?」
こちらに強力な飛び道具があると知った以上、迂闊には出てこれないはずだ。だがシーベルの意見は違った。
「出ないと、キング許さない」
「うわあ……。こういう時はボスが前に出て、配下を守るもんじゃないのか?」
「配下死ぬと、キング、他の巣に行く。また巣を奪う」
「は……? 一体何のための存在なんだ、ゴブリンキングは。繁殖のためだけか?」
「繁殖? キングは、ゴブリンじゃない。似た生き物なだけ。ゴブリンと、繁殖しない」
な、なんだってーっ!? 衝撃の事実、発覚。
「それじゃゴブリンは、血縁関係が無いどころか、種族すら違っている生き物に支配されているわけか」
いや……確かいたな、そんな生き物。
そうか、サムライアリだ。他のアリが幼い頃にさらってきて、自分達のために働かせるという、なんでそんな奴が『侍』なんだよってアリ。
これがゴブリンキングの場合、ゴブリンの巣に乗り込んで丸ごと奪うわけか。
「それ、ゴブリンはよく従ってるな。さぞや搾取され、いいように使われてるだろうに……」
「ラント。ゴブリンは、自分達より強く、かつ卑劣で、かつ下劣な者に、従う習性ある」
「ゴブリン、死ねばいいのに」
だがまあ、ゴブリンが立て篭もらずに出て来るという理由は分かった。
「すると問題は、いつ出て来るかって事か……」
巣穴を囲むコボルト達は、緊張の面持ちで巣穴の様子を窺っている。
自然とこちらも緊張してきた。だが、そのまま数十分経っても動きがない。
「ラント様、どう思われますか」
シスネさんがやって来て、俺に意見を求めた。
どう思うかと言われても、正直まったく分からない。それでも何か言わなくてはと、必死に考えた。
「え、えっとですね。巣穴の中には60匹から80匹、外には30匹のゴブリンがいる見込みでしたよね……。あれ? 30匹って結構多いな……。もし巣穴の中と外から同時に来られたら、挟撃される形になりませんか?」
それを聞き、シスネさんは真剣な顔で考え込んだ。
「周囲は警戒に当たらせておりますが、今の所ゴブリン発見の報はありません。道中森にいたゴブリンの数も減らしましたので、その可能性は低いように思われますが……」
だよね、俺もそう思う。
そこへ、周囲の警戒にあたっていたコボルトから報告が入った。
「ゴブリンの姿を複数確認! 周囲の森に潜んでいると思われます!」
な、なんてタイミングでそんな報告来るかな。シスネさんがクワッと目を見開いて俺を見た。
「ではラント様、ゴブリンどもは挟撃のタイミングを見計らっていると……?」
「その可能性はありますね……。潜んでいるゴブリンが小数でも、挟撃となればこちらに混乱が起きるかも知れません」
「うぬぬ、さかしきゴブリンどもめ。ラント様、何か良い知恵はございませんか」
そんな知恵ないです。
……一時の足止めくらいなら出来るかな?
森の方は範囲が広すぎるから、巣穴の近くにグラビティサークルを撃ちまくれば……。
うん、短時間ならいけそうだ。
「巣穴の方は俺が足止めします。ですが、長くは持ちません。3分程度と考えて下さい。その間に、森から来るゴブリンを出来るだけ減らすようお願いします」
3分は確実にいけるが、それ以上になると自信がない。ずいぶん短い足止めだと思うが、大丈夫だろうか。
「3分ですね、わかりました。では皆に作戦を伝えてきます」
包囲陣形を取っていたコボルト隊は、一旦シスネさんの元へ集まった。 シスネさんが挟撃の可能性について説明する。
「――ということで、巣穴からのゴブリンはラント様が足止めします。その間に、森から現れるゴブリンどもがいたら、速やかに殲滅するのです!」
作戦は手早く練り上がり、各自が持ち場につく。俺の持ち場は巣穴のすぐ近くだ。
巣穴から30メートルくらい離れた場所にシーベルと待機する。
すっごい近くに巣穴があるように感じて恐いけど、あまり離れすぎても魔法の狙いがつけにくい。
魔法の射程距離は、熟練とか集中とかで変わる。この距離なら、少し集中すれば問題ない。
シスネさん達は、巣穴と森の中央付近で森に背を向けて待機。森側のゴブリンに警戒させないためだろう。
あとはゴブリンがどう動くかだが、もし森からの挟撃が無かった場合、俺は魔法を使用後にすぐ後退する予定だ。
全員が準備を終えて配置につく。
それからしばらくして、巣穴の奥から腹まで震えるような叫びが起こった。
「ゴブリュァア゛ーーーッ!!」
「ラント、来る!」
シーベルが巣穴からゴブリンが出て来るのを察知し、俺に教えてくれる。
俺はすかさず右手をあげ、巣穴から5メートルほど離れた場所に連続して魔法を撃っていく。
「グラビティサークル! グラビティサークル! グラビティサークル!」
その出力は5G。こうして出力を最大よりも下げて撃つことで、魔力はもちろん、かなりの負荷を減らす事ができる。
「グラビティサークル! グラビティサークル! グラビティサークル!」
更に度重なる魔法訓練により、俺の魔力回路はだいぶ強化されてきた。それにより、こうした連発が可能になっている。
半径1メートル強のグラビティサークルが、巣穴の近くを幅広く覆っていく。
グラビティサークルの設置が終わってすぐ、ついに巣穴からゴブリンが飛び出してきた。
手には盾と短槍を持ち、目を血走らせてこちらに走り寄る。
シーベルが俺を守るように半歩前に出るが、その目は驚きに見開かれた。
転げ出るかのごとき勢いで走り寄ってきたゴブリン達は、グラビティサークルの効果範囲に到達するやいなや、バタバタと倒れていったのだ。
それも、天から巨大な平手で叩かれたような、そんな激しい勢いで地べたに叩き付けられていく。
俺はそれを見ながらシーベルに問う。
「シーベル、森の方は!?」
俺に聞かれたシーベルは、慌てて森の方を確認した。
「十数匹のゴブリンが、森を出ている! 迎撃中!」




