第11話 ダンジョン前で
――早朝。
森の木々が朝日を浴び、そのおこぼれみたいな光が俺に届いている。
今日はシーベルの連れてくるコボルト達と兎狩りに行く予定だ。ちゃんと来てくれると嬉しいのだが、昨日の様子からすると微妙かなーと思っている。
スライム達がダンジョンの無害さを可愛くアピールしてくれないだろうか。
例えばこんなふうに。
『ゲルルン! ここは恐いダンジョンじゃないよ!』
うむ……。
多少『ゲルルン!』というのが気になるが、仕方あるまい。実際『プルルン!』ではなく、『ゲルルン!』なのだから……。
そして問題のゴブリン達はこんなふうに可愛く。
『ゴブブッ! ゴブリャアーーーッ!!』
……いかん。ゴブリンについては可愛い感じに想像のしようがない。たぶん地獄の餓鬼がヤンキーになったらあんな感じだ。
ダンジョンイメージの向上について色々考えていたが、シーベルはまだ現れない。
暇だな……とはいえ日が昇っていくらも経ってないし、俺が早過ぎるんだが。
ダンジョンの入口付近は不思議と開けていて、短めな草しか生えていない。
そこに大きく口を開けているのがダンジョンの入口だ。目立つ目印でもあれば客寄せになるんだろうが、あれじゃ気づかれにくいよな。
だからといって、客寄せするつもりはないが。
草の上に腰を下ろしてあれこれ考えていると、大事なことに気がついた。
……ダンジョンから離れてる間に、侵入者が来たら?
なんかもう、こんな所に人は来ないような気がしているが、万が一ということもある。スライムとゴブリンだけじゃ不安だな……。
なにしろここは、ゲームでいえば最初に出て来る小さなダンジョンだ。
さすがに布の服と木の棒だけの子供らに攻略はされないと思うが、それでもフロウが心配だ。
……ゴブリンだけでも鍛えられないかな? あいつらは虫が好かないが……。
今ダンジョンの中には3匹のゴブリンがいる。
俺が1匹殺した影響か、こっちを見ると卑屈にゴブゴブ挨拶してくるんだよな。
でも通り過ぎてから振り返ると、だいたいは『ケッ』みたいな憎々しい顔をしている。あいつらは性根が悪すぎて、どうしても仲間意識が持てない。
それに比べてコボルトは純朴な感じで好感が持てる。
初期配置ユニットがゴブリンじゃなくコボルトなら良かったのに。
……考えが逸れた。
えっと、ここから離れている間の連絡手段についてだったな。
何かあった時、フロウと連絡を取れるといいんだが……。
携帯みたいな便利道具は無理にしても、他にないだろうか。例えば通信用魔道具とか。
ん? 魔道具……。
そうか……作れるかもしれないな。それを可能にする手段が俺にはある。
材料は……とりあえずその辺に転がってる石でいいか。
適当な大きさのできるだけ平たい石を2つ拾い、魔法を使う。
「ゲート!」
空間を繋ぐ魔法、ゲートだ。
これで2つの石の表面に円形の魔法陣が刻まれた。
ん……以前見た時は直径8ミリ程度だったが、今回のは10ミリくらいありそうだ。
そういえばゲートの大きさはレベル依存だったな。
この調子だといくらレベルが上がっても移動に使えるほどの大きさにはならい気がする。
まあ今回の用途を考えればこの大きさで十分だが。
「コネクト!」
空間が繋がれ、魔法陣のあった円の内側に穴が空く。この穴同士が繋がっているわけだ。
試しに小枝を拾って片方の穴に入れてみる。するともう片方の穴から小枝が出て来た。
……なにこれ、面白い。
最初に見た時は使えない魔法だと思ったが、こうして見ると意外に使い道がありそうだ。
片方の石を左耳にあて、もう片方を口元に寄せて声を出してみる。
「あー、あー」
めっちゃダイレクトに聞こえます!
これは使えるな。コネクトを解除しない限りはこのままだし、トランシーバーみたいな使い方ができそうだ。
問題はコネクトが継続的に魔力を消費することだが……。
ステータス画面でMPの減りかたを確認する。
――だいたい一分間で1MPの消費だ。
こちらで必要な時だけ空間を繋げばいいわけだから、このくらいなら問題ない。
いや……フロウの側からも連絡できないと駄目なんだから、ずっとコネクトしとかないとな。そうなるとさすがに魔力消費が心配になってくるか……。
夢中になって穴を覗いたり、小枝を出し入れしながら考えていると、森の中から草を踏む足音が聞こえてきた。
「――ラント、約束通り来た」
シーベルだ。見たところ1人でやってきたらしい。
「おはようシーベル。来てくれたんだ」
「すまない……本当なら、仲間と来るはずだった」
シーベルが申し訳なさそうに頭を下げる。
「何かあったのか?」
「ゴブリンが、村の近くに出た。皆で、警戒してる」
「そうか、それで……。シーベルは、村にいなくて良かったのか?」
「約束だったし、獲物は大事」
おお、義理堅いし、結構しっかりしてるな。
コボルトの村にゴブリンか……。
:おっと、ゴブリンといえば、このダンジョンにもゴブリンがいる。余計な誤解をされないうちに、一応シーベルに説明しておくか。
「シーベル……このダンジョンの中にもゴブリンがいる。でもここのはダンジョンの外に出ないから、中に入らない限りは大丈夫だ」
ゴブリンと聞き、シーベルがじっと俺の顔を見て言った。
「そうか……。ダンジョンに、ゴブリン。わかる……中から、ゴブリンの匂い、してた」
やはりゴブリンがいるとシーベルに知られていたな。コボルトは優秀な嗅覚を持っているようだから、ゴブリンの存在に気づいていると思ったのだ。
「聞きたい……。ラントは人間なのに、なぜゴブリンに、襲われない?」
「……ちょっと言えない事情があるんだよ。このダンジョンのモンスターは俺を襲わない。だから俺も、このダンジョンのモンスターとは戦わない。だが勘違いしないで欲しい。俺もゴブリンのことは大嫌いだ」
「そうか……。ラントは嘘をついていない。わかる」
「事情を話さなくても、信じてくれるのか?」
「――言葉より、匂いでわかる。嘘と、本当。オレにはわかる」
おおう……すごいなコボルト。
そういえば聞いたことがある。犬には人間の体調や精神の変化を、敏感に察知する能力があるのだとか。
こりゃコボルトにうっかり嘘はつけないな。
「シーベル達がゴブリンと戦っているなら、このダンジョンのゴブリンも憎い敵ってことにならないか?」
「ダンジョンのゴブリンと、戦う気はない。ダンジョンのゴブリン、外に出ないと、害がない。理解している……。しかし、ダンジョンに住み、ゴブリンに、襲われない。ラントは……人間なのか?」
うっ。ダンジョンコアに召喚モンスター扱いされてるなんて言えない……。
「に、人間に見えないかな?」
「……ま……いや、悪かった。ラントは、人間」
なんか言いかけた!?
「話せない事情、そう理解した。詮索しない」
「そ、そうか……ありがとう」
何を言いかけたか気になるが、一応人間と見てくれてるようだ。……見てくれてるよね?
くっ、まさか自分が人間なのか、ちょっとでも不安になってしまうとは……。
「……えっと、それで今日の予定なんだけど」
「狩りなら、もちろん、案内する」
「いや、それとは違う話があるんだ。シーベル……俺は、ゴブリンに襲われてるコボルト達に、力を貸したいと思っている」
「ラントが、力を……?」
「ああ」
「それは、理解しがたい。何故、我々に手を貸す?」
「第一に、俺が強くなるため。あと、ゴブリンは嫌いだし、コボルトとは仲良くしたい。これで納得してもらえると、嬉しいんだが……」
「わふっ……。ラントは、嘘を言っていない。そして、強力な魔術師……。信じる。力、貸して欲しい」
頷いてくれた! コボルトと一緒にゴブリン狩りができるかもしれない。EPと経験値の効率的な獲得のチャンスだ。
「わかった。できる限り協力するよ。それでコボルトについて確認したい事があるんだけど、色々聞いても構わないかな?」
「構わない。聞いてほしい」
「それなら知りたいんだが……ゴブリンは、コボルトより強いのか?」
「……力なら、コボルトは負けない。接近戦なら勝つ。だがゴブリンは……ずる賢い」
力では勝つのか。となると、問題は戦い方だな。
「ゴブリンはどう攻めてくるんだ? コボルトの対応は?」
――シーベルから聞いたゴブリンとコボルトの戦いは、思ったより酷いものだった。
ゴブリンは遠距離から矢を射ってくる。コボルトは遠距離攻撃の手段がないため対応できず、盾で矢を防ぐだけ。
種族的に弓の扱いには向いてないそうで、一応弦を引くことはできるが、射っても当たらないレベルらしい。
シーベルの手を見せてもらったが、イメージ的にはパンダの手に近いかもしれない。
もっとも弓に向いてないのは指だけじゃなく、腕とか肩の骨格も関係してるんだろう。
フロウがコボルトは2足歩行になって間もない種族と言っていたが、これは確かに身体の最適化がなされていない感じだ。
で、戦法を提案してみた。
ゴブリンの矢は大きな盾を持たせた前衛で防ぎつつ、走り寄って接近戦に持ち込んでみては、と言ったら、ゴブリンが後退する速度の方が速いという。
駆け足まで遅いとか、ちょっと絶望的な気がしてきた……。
「要するに、弓を引いてもゴブリンには当たらず、逃げ足が速いから接近戦にも持ち込めないと」
「う……そうなる」
「なるほどな……。シーベル、ちょっとその辺を走ってみてくれないか? 盾を貸すからそれを持って、ゴブリンを追いかけるつもりで」
「は…………走るのか?」
凄い嫌そうだ。そんなに走るの苦手か? 盾を持たせ、全力で走るよう指示する。その速さやいかに。
シーベルが走りだした。
2本足で走るハスキー犬……じっくり観察しよう。




