第10話 報告
森の探索を終えた俺は、レベルが一つだけ上がった事をフロウに報告した。レベル一つだけだから、これはまたお説教あるかもと思ったが、
〈問題ありません。まずは無事に帰れるかが重要でした〉
と、さらりと流された。あまり期待されてなかったかな? それはそれで残念にも思える。
〈ラントの身体能力から考えると不安があったのですが、危険は無かったですか?〉
「そこは警戒してたし、途中で会ったコボルトが森を案内してくれたから助かったよ」
最初は兎に油断して、ちょっと危なかったけどな……。
〈コボルトに? あまり危険な種族ではありませんが、信頼出来ますか?〉
「シーベルって奴なんだけど、まあ大丈夫だと思う。倒した獲物をやるって言ったら、明日も仲間と一緒に来てくれるそうだし」
根拠はズバリ、犬好きの勘です。犬じゃなくてコボルトなんだけどね。
〈なるほど。コボルトと友好的な関係になったのなら、それを利用すべきです。彼らは戦闘には向いていませんが、危険察知に優れています〉
戦闘に向いてない? そういえばシーベルは、スナイプラビットが素早くて倒しにくいとか言ってたが……。
「コボルト……強そうに見えたけどなあ」
〈強いでしょうね、立って戦わなければ。それが彼らの致命的な弱点です〉
「……て事は、立たなければ強いとか?」
〈彼らは2本足で立つようになって間もない種族です。手が自由になることで武器を扱うようになりましたが、代わりに俊敏性を失いました。その武器も、上手く使いこなせているとは言えません〉
「それ、俊敏さを捨ててまで武器を持つ必要なかったんじゃ……」
そんな無理して結局弱体化とか、どうしてそうなった? 謎だ……。
さて、レベルが上がったことによる魔法効果の変化を確認しよう。
グラビティは持続時間が初期の30秒から40秒に伸び、クイックは現実時間で12秒だけ加速出来るようになった。
クイックは育ててないから、時間加速率は低いままだ。
多分、クイックによる相対時間比は12対13くらいの割合だと思う。
相手が12秒分の行動をする間に、こちらは13秒分動ける、そのくらいの割合だ。
ゲートとグラビティサークルは、一応気の向いた時に使ってみてるが……まあ、あまり育っていない。
この時間や距離については大体このくらいというというもので、つまり結構アバウトだ。
でも感覚的には掴めているからそれで十分。
そうそう、現在170あるEPだが、これだけだとまだ取得したいと思えるスキルは少ない。
いや、ただ取得するだけなら可能なものは多いのだが。例えば火属性とか取れば戦闘での選択肢は広がるが、現状では時空魔法が結構使えているから取る気はない。
他の属性まで取得していたら熟練度上げがあれもこれもになってしまい、それでは器用貧乏になりそうだ。
でもショッピング気分でスキルを見てると、これ欲しいなーって思うのも結構ある。
回復魔法って定番だし凄く欲しいけど300EP必要だから足りないし、取得したらしたで熟練度上げしないと物足りない性能なんだろうなって思う。
それにポーションがあるから、どうしても回復魔法が必要ってわけでもない。
「ところで質問」
〈なんです?〉
「以前話にあったダンジョンマスターなんだけど、あれにはどのくらいのEPが必要なんだ?」
かなり大量のEPが必要なんだと思うけどね。聞くだけならタダということで、参考までに。
〈それはダンジョンのレベルによって異なります。このダンジョンは現在レベル1なので、ダンジョンマスターになるだけなら1000EPの支払いになります〉
「あれ、そんなもの? スナイプラビット500匹分ならそのうちいけそうな気が……」
〈なるだけなら、と言いました。その後はダンジョンレベルに応じたコストを稼ぎ出さねば破産の可能性があり、破産した場合にはダンジョンマスター資格の剥奪と共にペナルティが課せられます〉
「……それ、初耳なんだけど」
〈ラントがダンジョンマスターになる可能性は考慮するまでもない低さでした。しかし……今なら少しだけ可能性が有るかもしれません〉
最初はかなり低い評価だったわけだな。まあ納得だ。
〈ですがその前に、自己の能力を高めることが先決です〉
うっ……そ、そうだよな。
まだまだ経験値稼ぎと自己強化は欠かせない。
でもダンジョンレベルが上がると必要EPが増えるのか……。
それってもしかして、ダンジョンマスターに必要なEPが貯まるより早くダンジョンのレベルが上がってたりしないかな。
「じゃあ参考までに。ダンジョンがレベル2になると、ダンジョンマスターに必要なEPはどのくらいになるんだ?」
〈1500EP必要になります。以降、レベル3なら2500EP。レベル4なら4000EPと増加していきます〉
「ちなみに、ここのレベルが上がる予定は?」
〈今のところありません。ラントからコストを得られてはいますが、消費分もあるためです〉
そうかー、そうだよな。俺が消費させちゃってる分が結構ありそうだ。
それにコストを稼げそうな侵入者だって来そうもない。
うん、それならやはり当面はダンジョンマスターになるより自己強化に専念すべきだろう。
「わかった。フロウの言う通り、もっと強くならないとな」
そしていつかはダンジョンマスター! 女の子モンスターを召喚し、お兄ちゃんと呼ばせてやるのだ。
俺は紳士だから、やましい真似はしないけどな!
でも、む、向こうからその気できたら、その時は仕方ないかも知れないね。うん、仕方ないよね、紳士の嗜みとして。
さて、明日からのスナイプラビット狩りだが、あまりに数をこなすと魔力が足りなくなるかもしれない。
コアフロアでの魔力回復速度3倍と違って通常回復になるからな。外では3分で魔力1の回復だ。
余力は常に残しておきたいし、自然回復分を考慮しても、10MPを使用する全力グラビティだと40回くらいが限度か。
うーん、魔力にもう少しEPを振っておくかな……。でも普通に魔力は増えてきてるし、EPで増やすのはもったいない気がする。
いや……待て。視点を変えるべきだ。
ダンジョンマスターへの道が見えてきた今、たった2EPしか得られないスナイプラビットより、もっと大物を狙っていくべきではないだろうか。
ゴブリンならスナイプラビットの10倍、20EPが手に入るのだ。それはゴブリン先輩の尊い犠牲から確かめられている。
もしシーベル達コボルトがゴブリンから被害を受けているのなら、共に手を組んでこれを討つのはどうだろう。
それにはコボルトの戦闘力と、ゴブリン勢力の規模を知る必要があるな……。よし、方針は決まった。
「ポイント稼いで、目指せダンジョンマスター!」
〈ダンジョンマスターになる――それはつまり、私のマスターになるということです。不思議と期待できそうな気もしますが、今はまだその時期ではないと知っておきなさい〉
おお……フロウのマスターか……。
俺、フロウにマスターって呼ばれるのか……しかも期待してるって言ってる。
「ああ、待っててくれフロウ。世界最強になる勢いで、俺は強くなる……」
〈意欲はあるようですが、世界最強は無理です〉
ですよねー。
でもそこは冷静に指摘しないで、期待してるって言ってくれても……。夕飯食べてこよ……。
――少しだけ意気消沈して夕飯を済ませた俺は、恒例の熟練度上げに取り組んだ。
「クイック!」
自分を対象に固有時間を加速する。こいつの消費魔力は30MP、つまりグラビティの3倍だ。
魔力消費が多いのと、いまいち効果を感じなかったので鍛えていなかったが、ある理由からこいつが育てば化ける可能性は有ると思っている。
――持続時間が切れた。やはり体感で12秒間の加速は短い。
まあレベルが上がれば延びるんだし、地道に育てよう。
クイックで消費した魔力の回復は、この広間なら30分で終わる。しかし今のところクールタイムはそれ以上掛かるので、その間に何もしないのは時間の無駄だ。
そこで筋トレを行っている。グラビティを育てていた時はそれだけで体力を消耗していたが、クイックにはそれがないので楽に筋トレできるのだ。
まずは腕立て30回だ。1、2、3…………30!
結構余裕だったな……以前はやっとで30回だったんだが。
腹筋、これも30っと。
あれ……普通に出来ちゃったな。まだクールタイム中に何かやれそうだ。
……次のクールタイムからは回数増やすか。




