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妄想ファンタジスタ  作者: 弥生遼
その十七、夏だ!海だ!温泉だ!ドキドキワクワク南海大決戦!
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秋穂vsサリィvs???

 兄達に続いて脇目も振らず駆け出した秋穂だったが、島にたどり着いてみると俄かに冷静になってきた。

 『本当に願い事なんて叶うのかしら……』

 ふと周囲を見渡してみると、誰もいなかった。そうなるとますます頭が冷えてくる。海が裂けたのにはびっくりしたが、願い事が叶うなんて所詮夢物語。あり得るとは思えなかった。

 『漫画やアニメではあるまいし……何をしているんだか……』

 本当に何をしているのだろう。似合いもしない、本来ならやりたくもないアニメのキャラクターの扮装をやらされ、こんな無人島まで来て……。

 「で、でも……」

 もし、万が一にも願いが叶うという話が本当だとするのなら、皆はどんな願い事をするのだろう。

 兄は何を願う?憧れの声優に会いたいとか願うのだろうか?

 美緒は何を願う?兄と結ばれることを願うのだろうか?

 カノンは何を……。夏子は?顕子は?

 これを契機に取り返しのつかない事態になるのではないか?下手をすれば、兄との絆が絶たれてしまうかもしれない。

 『そればかりは……』

 阻止しなければならない。可能性がゼロではない限り、危険の芽は摘んでおかなければならない。そして、あるいは自分が……。秋穂は、決意を新たにし山頂へ向かい道を捜した。


 道標もない山道をしばらく歩いていると、やや開けた空間に出てきた。周囲は背の高い杉の木に囲まれており、夏に日差しがまるで差し込んでこない。その空間の真ん中に半壊した東屋のようなものがあった。どうやらかつては人の営みがあったというわけだ。

 「ちょっと休もうかしら……」

 東屋の中を覗いてみたが、椅子は苔だらけで座る気がしなかった。

 「あらあら、先客?」

 秋穂が来た道とは別の道から声がした。秋穂の聞いたことない声だ。

 「誰?」

 声がする方向に目を向けた秋穂は、思わず息を飲んだ。ちょっと年のいった女性だったが、驚くのはその格好だ。ほぼ紐と言ってもおかしくない水着を着ている。いや、もうこれは水着ではないだろう。

 「ふ~ん。カノンじゃないんだ…」

 カノン。カノンのことを知っている?この人も兄が所属している怪しげなクラブの部員だろうか?でも、昨日は見なかったが……。

 「ま、いいわ。ちょっと邪魔だから、ここでおねんねでもしておいてもらおうかしら」

 じりっと秋穂に近づく女性。秋穂は後ずさる。

 「まったく、山頂ってどこなんだ……」

 そこへまた別の声が。今度は聞き覚えのある声だ。

 「誰かいるのか……?」

 秋穂が来た道から姿を見せたのは、海パン姿の禿た中年男性……。あ、あれは……。

 「山田さん!」

 「お、お嬢さん!」

 山田だ。秋穂と狂言誘拐を企んだ、あの気のいい優しいおじさんだ。

 「山田さん、どうしてここに?」

 「いや、私は社員旅行に来て、そしたら願いが叶うとか何とか……。あ、サリィ……じゃなかった早川さん」

 「チッ、禿が」

 早川と呼ばれた女性はあからさまに舌打ちをした。

 「山田さんも願い事を?」

 「ああ、うん。まぁ……」

 「ちょっと、あんた達知り合い?一体、何なの?」

 苛立った様子の早川。秋穂と山田は視線を交わしたが、お互いの関係を話そうとはしなかった。

 「まぁ、いいわ。ここで二人リタイアしてもらうから」

 まずは弱い方から、と目で山田を牽制しつつ、秋穂ににじり寄る早川。

 「早川!その子は普通の子だぞ」

 「だから何よ?あんただって願い事を叶えたいんでしょう?だったら、ライバルが一人でも減った方がいいじゃない?」

 「それもそうだが……しかし」

 「大丈夫よ。あんたも後でぶっ飛ばしてあげるから」

 「……。くそっ!」

 山田はだっと駆け出すと、秋穂に背中を見せて早川の前に立ちふさがった。

 「山田さん!」

 「ちょっと禿!そこを退きなさいよ」

 山田の背中で見えないが、早川はきっと般若の如く怒っていることだろう。

 「お嬢さん、先に行きなさい」

 「え?でも……」

 「お兄さんとは仲良くやっているかい?」

 「え、ええ。まぁ……」

 秋穂は曖昧に応えた。仲良くやっているとは言い難いのだが。

 「その様子ではあまり上手くいっていないようだね……。願い事、叶えるといい」

 山田がちょっと振り向いた。禿た中年だが、ちょっとだけ男前だった。

 「でも……!」

 「さぁ、行きたまえ」

 山田が秋穂の肩を押した。狂言誘拐の時もそうだったが、山田は優しい。その好意、無駄にはできない。

 「すみません!山田さん」

 秋穂は走り出した。山田はにっと笑って見送ってくれた。


 「フン!かっこつけちゃって。いい年した中年がやることじゃないわね」

 「何とでも言え。人のことを散々禿呼ばわりして。分かっているだろうな」

 デスターク・エビルフェイズは、久々に燃えていた。あのお嬢さんの願い、何としても叶えてあげたい。

 今まで部下に手を上げたことはなかった。それが魔王としてのデスターク・エビルフェイズの矜持であった。しかし、今日ばかりはその矜持を破らなければならない。お嬢さんのためにも。

 『お嬢さん。幸せになるんだぞ』

 お嬢さんが幸せになれば、それでいい。最初はこのつんつるの頭を何とかしようと思っていたのだが、今ではお嬢さんの幸せこそがデスターク・エビルフェイズの望みになっていた。

 「さぁ、さっさと退きなさいよ、禿!」

 「その減らず口、すぐに黙らせてやる。魔王の恐ろしさ、味あわせてやる」

 サリィの氷。デスターク・エビルフェイズの炎。二つが激しくぶつかった。


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