カノンvs美緒vs秋穂vs夏子
「ここ、どこよ」
また同じ所に出てしまった。カノンは、自分の方向感覚のなさを恨めしく思いながら、さっき目印にしていおいた木の傷を確認する。つい数分前に見たのと同じ傷であった。海岸からすぐ近くにあった道を進み、この円形の広場にたどりついたのだが、もう何度も同じ場所をぐるぐると回っている。
「馬鹿みたいなことしているなぁ……」
勢いに任せてシュンスケ達の後を追ったのはいいが、結局皆とはぐれてしまい、道に迷う羽目になってしまった。本当に馬鹿馬鹿しい限りだ。
「願い事なんてないのに……」
そもそも願い事が叶うなんてこと自体が馬鹿馬鹿しく胡散臭い。カノンのいた世界でもそんな不可思議な話は、噂か伝承として存在するだけだった。
でも、仮に願いが叶うとすれば何を願うだろうか、と考えた時、思う付くものがなかった。
魔法が使えるようになりたい?
考えないでもないが、シュンスケがいれば使えるのだから、必ずしも叶えたいとは思わなかった。
魔王デスターク・エビルフェイズを倒したい?
いや、すでに何度かデスターク・エビルフェイズには土をつけている。シュンスケさえいれば、負ける気がしないから、わざわざ願う必要はないだろう。
「シュンスケがいれば、何も願う必要ないじゃない」
シュンスケさえいれば……。そう思うと、胸が熱くなった。木陰があってそれほど暑くないはずなのに、カノンの体温は、自分でも分かるほどに上昇していた。
「……だったらこれからも、ずっとシュンスケといられるように……って馬鹿!そ、そんな願い事するわけないじゃない!」
しかし、強く否定しようとすればするほど、胸の熱は取れない。ちょっと息苦しくなったカノンは、近くにあった丸太に腰を下ろした。少し休憩しよう。
「ちょっと、山頂ってどこよ……?あ、カノンちゃん」
カノンの視界に現れたのはミオであった。やや疲れた表情で、コスプレの衣装も泥が跳ねたのか全体的に汚れていた。
「ミオ。あんたも迷ったの?」
「迷ったわよ。意外に大きい島みたいね」
もう誰か辿り着いたのかな、と山頂を見上げるミオ。カノンも釣られて見るが、太陽の日差しが眩しくてすぐに目を逸らした。
「あ、美緒さん、カノンさん」
今度は別の道からアキホが姿を見せた。彼女もやや疲れの色を見せているものの、相変わらずの無表情だ。
「秋穂ちゃんもこっちおいで。ちょっと休憩しよう」
いつの間にかカノンの隣に腰掛けていたミオがアキホに向かって手招きをする。アキホは無言のままやって来てカノンの隣に座った。カノンはアキホとミオに挟まれる形になった。
「……」
「……」
「……」
重苦しい沈黙が続く。ミオとはここ最近、そこそこ話すようになったが、アキホとはろくに話したことがない。寧ろ目の敵にされている。ミオとアキホは仲がいいらしいが、カノンを間に挟んでいたら会話も生まれないのだろう。カノンは、居心地の悪さに居た堪れなくなった。
「わ、私、先に行くわ」
カノンが立ち上がろうとすると、両側から腕をつかまれた。
「まぁまぁ、もっとゆっくりして行きなさいよ」
「抜け駆けは許しませんよ、カノンさん」
「抜け駆けって……。そんなつもりじゃないわよ」
「だったら何なんです?カノンさんは、そこまで必死になって叶えたい願い事があるんですか?」
「え……」
カノンは、アキホの言葉に意表を突かれた。必死?必死になっていた?
「ほほう。カノンちゃんが必死になる願い事って何だい?教えてほしいな」
「美緒さん、そんなこと決まっています。どうせ兄さんのことです」
アキホが断じるように言った。ミオの表情がみるみるうちに強張っていった。
「ち、違うわよ!」
「だったら、どんな願い事です?言ってみてください」
執拗に追及してくるアキホ。この子、本当に苦手だ。
「そうだね。これはちょっと無視できないね。ちょっとお座りよ、カノンちゃん」
ぐいぐいと手を引っ張ってくるミオ。力任せに振り払うこともできるが、そうしてしまうと願い事がシュンスケのことだと認めてしまうようなものだ。
「ほほう。乙女の恋ばなかね?私も混ぜ欲しいな」
突如背後から声がした。三人が一斉に振り向くと、道もない背後の茂みからぬっとナツコが現れたのだ。
「げっ、足利先輩」
「……足利さん」
ミオとアキホはあからさまに嫌な顔をした。しかし、カノンにとっては心強い援軍であった。
「二人ともさぁ、カノンちゃんのことを責めているけど、二人だって必死だよね。そこまでして叶えたい望みってあるの?ほらほら、一人ずつ言ってごらん」
ミオとアキホに詰め寄るナツコ。
「わ、私は……ほら、家族の健康とか……。あ、そうだ。今度の大会で優勝なんていいかな……」
明らかに動揺しているミオ。本当の願い事が別にあることは、見え透いていた。
「で、秋穂ちゃんは?」
「私は、兄さんとのラブラブで平穏な生活が願いです。それ以外には考えられません」
はっきりと言うアキホ。彼女のそういう性格は非常に羨ましいと思う。
「ほほう。秋穂ちゃんは正直だね。美緒ちゃんはもっと自分に正直にならないと」
「わ、私のどこが正直じゃないって言うんですか!」
「足利さん。あなたの願いは何ですか?」
ミオの抗議を制するように問うアキホ。ふざけた答えを許さないと言わんばかりに鋭くナツコを見据えている。
「私?そうだね……。面白そうだから参加しただけなんだけど、折角願いを叶えてもらえるのなら……むふ、俊助とエロエロな関係になるってのはどうだい?」
カノンは、ナツコが冗談を言っているのだと思った。いつもナツコがシュンスケをからかっているのと同じで、いかにもナツコらしいちょっと下品な冗談だと思ったのだ。
しかし、ミオもアキホも青ざめた顔で絶句していた。ナツコの言葉を真に受けているように見えた。カノンは、そんな二人に当惑した。今の言葉、冗談じゃないの?
「だったら、私達四人は敵同士ってことですね」
カノンの戸惑いをよそに、アキホが言い放った。
「足利先輩。あなたの場合、しゃれにならないんです」
ミオも至って真剣だった。しゃれにならない?一体どういうことだろう。
「しゃれにならないか……。ま、そう言われても仕方ないかな。でも、そこまで言うのなら、私だって後には引けないな」
腕を組みミオとアキホを睥睨するナツコ。カノンは蚊帳の外だった。
「負けません。兄さんとの明るい未来のために」
「そうね。足利先輩には負けられない!」
「ふふん。私と勝負するかね?悪いこと言わないから、君達は手を引きたまえ。じゃないと……」
ナツコがミオ、アキホという順番で耳元で何事か呟いた。するとミオとアキホは、顔を紅潮させ、目を大きく見開いた。
「ばらしちゃおうかな~。どうしようかな~」
「ひ、卑怯です!そんな昔のことを!俊助だって忘れているはずなのに……」
「そうです。そんなことばれたら、妹としての尊厳を失ってしまいます!」
どうしようかな~、と意地悪く繰り返すナツコ。恨めしくも、あたふたとしているミオとアキホ。
『……私は関係ない……よね』
カノンは、忍び足でそっとその場を離れ、先へ急ぐことにした。




