094:本陣の攻防
秀蘭は本陣でドシッと構えている。
するとそこに伝令兵が勢い良くやってくる。
「報告します! 山田 弥太郎 寛太さまと、佐藤 孫助さまがお討死にございます!」
「な なんと!? これで将校の討死は8人目だぞ……殿、どういたしましょうか?」
「やる事は変えない」
家貴軍との戦いで多くの将校たちが討ち取られ、かなり劣勢を強いられている状況だ。
そんな中で本陣にいた秀蘭の従兄弟である仙道 秀総が、これからどうするのかと聞く。このままでは押し切られて負けると思ったからである。
しかし秀蘭は作戦は変えないと言い切った。
それじゃあ不利な状況が永遠に続いてしまうと秀総も思ったが、秀蘭に口出しする事ができず「は。承知」と納得するしか無かったのである。
するとまた伝令兵がやってて来た。
「報告します! 家貴が先頭を切り、本陣目掛けて突撃してきます!」
「なんだと!? 戦線はどうなっているのだ!」
「家貴軍は横の兵士たちには目もくれず、ここ目掛けて真っ直ぐ突撃しております! ここに来るのも時間の問題かと思われます……」
たくさんの将校が死に、さらにはここに家貴軍が来るという報告を受け、秀総は頭を抱える。
こんなにも不遇な状況が続くのかと。
しかし死にたくは無いので、同じく本陣にいる成之に覚悟を決めたような表情で「ここは何とか、我らで守ろう」と声をかけるのである。
秀総の言葉に成之は「は!」と返事をした。
気合こそ入っているが、状況としては最悪である。
この本陣には40人ほどの槍兵と、その40人を指揮する指揮官は成之と秀総と仙道 勝右衛門の3名しかいないという状態に陥っていた。
成之と秀総と勝右衛門は、槍兵たちに「気合を入れろ! ここを乗り越えるんだ!」と声をかけて回った。
秀蘭方の兵たちは、ここでもしも生き残ったら多額の報奨金が出るので、士気は割と高かい。
まともな準備なんてさせて貰えず、遂にドドドドッという大軍の馬が向かって来る音が聞こえて来た。
音を聞いた成之は兵士たちに「来るぞ! 備えろ!」と槍を構えさせる。槍衾の陣形をとって家貴たちの騎馬を突入させない姿勢を見せる。
視界に家貴軍の騎馬隊が入るのであるが、1人1人が鬼のような表情を浮かべて突っ込んでくる。この姿勢に成之は「さすがは猛将・柴山 家貴!」と称賛した。
「来たぞ! 騎兵の胴体を、槍で貫いてやれ!」
『おぉおおお!!!!!』
成之の声かけと共に槍兵たちは、グッと槍を握って家貴軍の騎兵に狙いを定める。
家貴軍は目の前まで迫って来た。
そして成之の「今だ!」という声かけで、槍兵たちは騎兵に向かって槍を突き出すのである。
それにより先頭を走っていた騎兵が「うわ!?」と言って落馬をする。落馬をすれば秀蘭方の良い的で、落馬したところを槍でグサッとトドメを刺された。
まさかの少数で家貴軍の騎馬隊を止める事ができた。
槍が集結しているところに、馬が突っ込む事を拒否するので騎馬隊の足が止まったのだ。
正直なところを言えば家貴が乗っている馬のレベルならば、別に止まる事は無く勇敢に突っ込んでいく。
しかしさすがの家貴も本陣に単騎で突っ込んでいって、生き残れるとは考えていない。なんなら寛太との戦いで、意外にも傷を負っていて、いつもと同じように戦うのは無理だと自己分析していた。
その為、家貴は馬から降りて戦う事にする。
「武士道として間違っているのかもしれない。しかし貴殿と一騎討ちで戦って勝てると思うほど、この俺は自分の事を強いとは思っていない! 2対1で相手するのを、どうか許して頂きたい!」
「ふん! そんな事は気にしないわ。逆に2人が同時に向かって来てくれる事が、何よりの称賛よ」
成之と秀総は、家貴と一騎討ちで戦ったところで勝てないと分かっている。こんな事をしたら、後の歴史書で卑怯者だと書かれるかもしれない。そんな事は理解している。
それでも負けて死ぬよりかは、これくらいの不名誉を背負った方がマシだと思っている。
何より当人である家貴が、これくらい警戒してくれているのは武士として称賛されているも同義であると言う。
成之と秀総は刀を抜いて構えると、2人の構えを見てから家貴も大薙刀を構えた。
本当に傷を負っているのかと思えるほどに、全身からは震えるほどの殺気というのか、オーラを放っている。
このオーラに成之たちは、ゴクンッと固唾を呑む。
ピリピリする空気が、3人の間に流れる。
誰がどうやって動くのかと探り合いをしているが、2人の方である成之たちはタイミングが難しい。
それをみかねた家貴の方から動いた。
2人を一気に一刀両断しようとしてるんじゃないなと思えるほどの一振りを放った。
それを上半身を逸らす事で間一髪、避ける事ができた。
しかしその顔の前を通った大薙刀の刃の風圧を感じ、成之と秀総は大いに警戒する。正直なところ逃げ出せるのならば、2人は直ぐさま逃げ出しているだろう。
そういうわけにもいかないので、成之たちは震え冷や汗を流しながらも刀を構え直す。
「ふぅ……良い面構えをしてるじゃ無いか。今の一撃で戦意を無くすかと思ったが、そうはいかないみたいだな」
「たった一撃で、尻尾巻いて逃げたなんてなったら……それこそ俺たちは、2度と侍を名乗れない!」
「そうだよ、それくらいの気概を見せて欲しかった。俺は貴殿らを下には見ない、全力でお相手しよう!」
成之と秀総はグッとカッコイイ表情を保っているが、心の中では本気で相手しなくても良いのにと思った。
そんな事を言うわけにもいかないので、凛々しい表情を保ったまま「かかって来い!」と刀を構える。
激しい戦いが繰り広げられており、本陣前で戦っている音は秀蘭の耳にも入って来ている。ここまで劣勢ならば、少しは表情を変えても良さそうなものだ。
しかし秀蘭は目を瞑って腕を組み、まさしく精神統一している感じである。
「殿、本当にお逃げにならなくてよろしいのですか? 今なら成之殿たちが死守し、逃げられる好機かと」
「お前は、俺に負けつけたいのか? このまま行けば勝てるというのに、その勝利をみすみす取りこぼせと?」
「し しかし今の状況では、勝利は……」
「お前らには戦況が見えていないみたいだな。この戦いは我らが勝つ!」
小姓は成之たちが戦っている間に、戦線を離脱した方が良いのでは無いかと進言した。
この進言に秀蘭は憤りを感じ、目を開くとギロッと小姓の顔を睨むのである。
鬼のような形相に、小姓は「ひぃ!」と声を出す。
どうやら小姓は勝てないと思っているが、秀蘭は自分たちの勝利を確信しているみたいだ。
こんな状況で勝てるはずが無いと、秀蘭に最も近いところで仕えている小姓が思っている。いや、誰がというわけでも無いだろうな。誰が見たって勝利するのは難しい。
しかしそれで勝ってこその乱世であると秀蘭は考えており、自分には不利な状況を打破するだけの自信がある。
「俺が出るぞ! この俺が、最初の戦いに終止符を打つ」
「は はは! 承知いたしました!」
これ以上の進言は自分の首が飛ぶと思って、小姓は意見もしないで返事をした。




