093:一騎打ち
吉丸が増田を討ち取った時、利恒は反対の右翼で指揮を執りながら、自らも先頭で槍を振るっている。
すると利恒の側近で、近くに戦っていた男が「利恒さま、危ない!」と敵の方を指差した、
どうしたのかと振り返ると、弓矢が飛んできていた。
利恒は鬼のような反射神経で、地面に倒れ込むようにして敵兵の弓を避けた。
しかし避けたと言っても右目の下を掠っていた。
思っているよりも傷が深くダラダラと流血している。
「どこの誰だ! 避けなかったら、頭に命中してたぞ!」
「これだけの弓の腕があるとするのなら、おそらく今井 項令かと思われます」
「今井……アイツか」
利恒は傷口を抑えながら、味方に守られ後方に下がる。
側近の男に、どこの誰が弓を放ったのかを聞く。避けていなければ確実に、頭を射抜かれていただろう。
側近は今の腕を考えると、西愛河で10本の指に入る弓使いである今井 項令であると予想した。
本当かと思った利恒は弓矢の方向を見る。
すると明らかに利恒たちの方を見ながら、ニヤニヤしている男を発見した。その男こそが今井であると確信し、まさか殺せてもいないのに調子に乗っているのかと怒る。
「利恒さま、ここは1度下がって手当てを!」
「要らぬ! こんな怪我で引いたなんて、死んでも吉丸に言えるものか……ここは前に出る! 遠くからでも射抜ける矢だとしても、刀が届くところまで行けば関係ない!」
「し しかしそれは、あまりにも危険では……」
「リスクを冒さないで、この戦いに勝てると思うか? かなり絶望的な戦力差だ。ほんの少しの危険など、ちょっとしたスパイスだと思って戦え!」
「そ そんなぁ……」
側近は急いで後ろに下がって、手当てをしてから仕切り直そうと進言をした。
しかし利恒は、この進言を拒否。
吉丸がボロボロの姿で帰って来たのを知っているので、これくらいの傷と思っている。これくらいの傷で、下がったとなると吉丸に顔向けできないと考えたのだ。
それに弓矢で遠くから狙ったところで、槍の届くところまで近づいてしまえば立場は逆転する。それくらいの危険を冒さないと、今回の戦いは勝てないと側近に言った。
吉丸の事だけではなく、これくらいのスパイスがあった方が楽しいだろうと笑顔で言うのだ。
さすがの側近も引く。
血がダラダラと流れながらも利恒は、側近に馬を連れてくるように言って連れて来させた。
そして部下の制止を聞かずに、利恒は「は!」と言って馬を今井に走らせる。もうここまで来たら止まらないと思った側近は「もぉ! 数奇、追いかけろ!」と家来を利恒の後を追わせるのである。
自分も急いで馬を連れて来させて後を追う。
「項令さま! 数奇が、こちらに向かって来ます!」
「なに? たった数奇で、ここまで来れると本気で思ってるのか? そのめでたい頭を射抜いてやる」
利恒と数奇が自分のところに向かってくると知った今井は、無謀であると笑いながら矢を取り出す。
そしてギギギッと弓の弦を引いて、狙いを利恒の頭のど真ん中に狙いを定める。揺れているが、これくらいの揺れなら問題ないと今井はニヤッと笑う。
完全に射程内に入ったところで「じゃあな」と言って今井は弓矢を利恒に向かって放った。
ヒュンッと矢は、利恒に向かって飛んでいく。
これに今井は「貰った」と命中を確信する。
だが利恒は手に持っている槍で振るって、向かってくる今井の矢を打ち落とした。
自信満々で射抜けると思った今井は、打ち落とされたのを見て「なに!?」と目を見開いて驚く。この距離から完全に捉えており、今井の矢のスピードは普通の兵士のスピードと比べ物にならないほどに速い。
だからこそ打ち落とされた事に驚いた。
急いで次の矢を取ろうとしたが、利恒の馬は今井の弓隊の前線を捉えた。
もうさすがに、ここまでだと今井は諦める。
自分の馬に乗って今井は戦線を離脱しようとした。
「なに敵に背を向けてんだよ。テメェは武士の風上にも置けない野郎だな!」
「な!? 速……」
今井が逃げ出そうとしたタイミングで、汗と血に塗れた利恒が鬼の形相で追いついていた。
そのまま槍を突き立て、今井の背中を槍で突き刺した。
ブハッと鮮血を吐き出し、今井は落馬して討死。
必死になって追いかけていた利恒は「はぁ、はぁ」と息が上がっており、息を整える為に深呼吸する。
そして今井の首を刎ねて、槍に突き刺すと天高々に掲げると「今井 項令、この水前 利恒が討ち取った!」と戦場に聞こえるように叫んだ。
利恒の家来は「うぉおおおお!!!!!」と歓喜する。
一方で虹直の方は、中央軍に配置されていた。
吉丸とは異なるタイプの自由剣術だ。
吉丸の方は鍛錬に鍛錬を積んだタイプであり、虹直の方は完全な感覚でやっているタイプだ。もはや感覚なので、一貫性がなく相手としては戦いづらいの極みだ。
それにより虹直は中佐を2人、大佐を1人も討ち取るという戦果を挙げていたのである。
そして最前線に視線をやると秀蘭方の山田 寛太と、秀斗方の柴山 家貴の一騎討ちが行なわれている。
周りで見ている人間たちは、家貴の圧勝だろうと思っていたが、蓋を開けて見たら結果は違った。
確かに家貴の方が押してはいる。
ただ山田も粘って手傷を負いながら、家貴を翻弄し傷を負わせるまでに至った。
「お前……中々やるな、名は寛太と申したか? 見事、あっぱれな武将よ」
「貴殿に、そう言って貰える事は誉……されど、ここで負けるわけにはいかんのだ! 殿の為にも負けるわけにはいかんのだ!」
「本当に、あっぱれな男よ……だが長引かせるのは、もうこちらの不利になりかねない。もう終わらせて貰う!」
ここまで粘られたら、家貴も寛太の事を見事な侍であるという事を認めなければいけない。
なにより西愛河に猛将として知られる家貴が、自分の事を褒めたと寛太も大いに喜ぶ。
だが互いに負けるわけにはいかない。
その気持ちが交差したところで、寛太が家貴に襲いかかる。持っている槍を家貴に向かって前に突き出す。今世で最も速い突きだと寛太は思った。
しかし家貴は、その一撃を避けるとカウンターの一振りを寛太の腹にドスッと突き刺した。
「ゴホッ! 貴殿に討たれるならば、本望……」
「誠に見事の侍だった! お主の事は、これから先も語り草になるだろう!」
突き刺された寛太は口から血を吐き、槍を地面に落とすと、その場に両膝から崩れ落ちる。
見事な散り際に家貴は、これからも寛太の事を語り継いでやると宣言する。
そして一息吐いたところで、槍を天に掲げた。
「もうこれ以上は痛手となる! 一気に敵本陣まで突き進む、目の前に来る敵だけを討ち取れ! それ以外の首には目もくれるな!」
『はは!!!!!』
家貴は寛太に手こずったせいで、思ったよりも戦線を敵の方に押し込めてはいなかった。
その為、これ以上の損失を出すわけにはいかない。
目の前の敵だけを斬り、一気に本陣まで突き進んで秀蘭の首を取ると家来たちに伝えるのである。
その指示通り、家貴軍は乱戦を解いて、一気に秀蘭軍の本陣目掛けて突撃を開始した。




