092:名刀の凄さ
吉丸は前線で部下を鼓舞しながら、バッタバッタと敵兵を斬り伏せていくのである。
持ち前の剣術の才覚もあるが、忠信から受け継いだ満月切歳三の力も含まれている。
想像より戦いやすく吉丸は「おぉ」と刀を見る。
さすがは忠信の刀だと、吉丸の勢いが増す。
まさしく後に武鬼と恐れられる吉丸の戦い振りに、敵兵たちは「ば 化け物か!?」と怯え始めた。
吉丸が1歩前に出ると、敵兵たちは怯え後ろに下がる。
そんな中で「どけ! どけ!」と敵軍の中から味方の兵を押し退けて、前に出てくる人間が現れた。
「威勢が良いのがいると思ったら、俊膳四天王の1人を討ち取った犬飼じゃねぇか! 足軽のくせに俊膳四天王を討ち取った奴は、どんな奴かと思ったら……ただのクソガキじゃねぇかよ! 俊膳四天王も落ちたもんだな!」
「ん? アンタ誰だよ」
「俺のこと知らねぇのか? お前、モグリか? 俺は秀斗さまの家臣・増田 将太 大佐じゃ!」
俊膳四天王を討ち取ったという事で、吉丸の名前は知る人ぞ知るという事になっていたらしい。
この増田も、その1人である。
しかし実際に吉丸の顔と若さを見た増田は、ただのクソガキであると腹を抱えて笑う。
少しイラッとしたが、吉丸は落ち着いて誰かと聞く。
さらに自分の事を知らないのかと煽って来て、吉丸をイライラさせる。これが作戦なのか、それとも元々の増田の根性が人をイライラさせるものなんだろうか。
とにかく吉丸は、コイツだけは討ち取ってやると思う。
「まぁ名前なんて、どうだって良いよな。有名な武将だったら、名を聞いて損は無いが……お前みたいな無名な武将は、無名な俺に討ち取られるので十分だろ」
「俺が無名だと? 俺が、お前みたいなクソガキと同じで無名だと……舐めんじゃねぇよ! テメェと俺が同じなわけがねぇだろ! ブチ殺してやろうか!」
「やれるもんならやってみろ!」
あまりにもイライラしすぎた吉丸は、今度は逆に増田の事を自分と同じ無名な武将であると馬鹿にした。
さっきまで自分が馬鹿にしていたが、吉丸に煽られたところでプッチーンとブチギレた。
ブチ殺してやるという言葉に、やってみろと返す。
互いに刀を構えて吉丸と増田の一騎討ちが始まる。
刀を抜いて構えたところから、少しの間合いの図り合いがあって、増田から仕掛け斬りかかった。
俊膳四天王の1人を討ち取ったとは言えど、きっと吉丸を舐めてかかったから負けたのだと増田は考えている。その為、最初から本気で戦って、なんなら一撃で終わらせてやろうと思っている。
素早く振り上げられた刀は、吉丸に目掛けて振り下ろされる。確かに大口を叩くだけあって、それなりには早く普通の足軽なら、確かに一撃で終わってもおかしくは無い。
「こんなんで討ち取れると思ってんじゃねぇよ」
「な なに!?」
吉丸は完全に増田の太刀を見切り、刀を横にして増田の刀を受け止める。そして鍔迫り合いに持ち込んだ。
顔を近づけたところで、こんなものかと真剣に煽る。
舐め腐っていた増田は、吉丸のナチュラルな煽りにイラッとして額に怒りマークを付ける。
負けられないと思い増田は、ググッと後ろに押し込む。
少し押し込まれたところで、吉丸は増田の腹を蹴り後ろに下がらせると、鍔迫り合いの状況を解放する。
増田は「うぅ」とダメージを負って後ろに蹌踉めく。
グッと足に力を入れて止まったところで、顔をパッと上に上げると吉丸が斬りかかって来ていた。
もう体が反射というのか、咄嗟というのか。ギリギリで真横にジャンプして前転して避ける。
そのまま増田は勢いをつけてパッと立ち上がった。
「認めてやるよ、テメェが俊膳四天王を仕留めたのはマグレじゃねぇ……だからこそ、その首を掻っ切って秀斗さまの前に持って行ってやるよ!」
「やれるもんならやってみろ! この首は、お前に取られるほどに軽かねぇぞ」
「いつまで、その軽口を叩けるかな!」
遂に増田は吉丸の実力を認めた。
しかし吉丸の方は増田に、自分の首は取れないと豪語して自信を溢れさせている。
というよりも怒り心頭なのだろう。
完全に目がブチギレており、またスッと刀を構えてから互いに向かって走り出すのである。
増田は右上から斜め下に刀を振り下ろした。
その刀に合わせるように吉丸は、右下から斜め上に振り上げて、2本の中央で互いの刀の刃がぶつかる。
勢いが付いて衝突したので、バチンッと火花が散る。
吉丸は右下に刃が弾かれ、増田は右上の方に弾かれた。
普通ならば刀を正面に戻す為、腕と脚に力をグッと入れて構え直すのがセオリーと言えるだろう。
しかし吉丸は下に弾かれた刀を、途中でピタッと止めて一気にまた下から刀を振り上げた。
この吉丸の攻撃に増田は、刀を正面に戻せていないので防ぐ事ができなかった。
できなかった増田は、吉丸の刃を左頬から瞼にかけて喰らってしまったのである。ピシャッと血が吹き出し、増田が「んん!」と痛みを堪えながら傷口を手で押さえる。
「テメェ、どんな筋力してんだよ!? どうしてあの弾かれた段階から、あんなに速く刀を振り直せる!」
「どんな筋力してるって言われてもな。まぁ確かに毎日のように筋トレはしてるが、普通の刀ならそこまで速くは振り直せなかった……この名刀のおかげだ」
「なんだと? その刀が何だというんだ!」
「この刀は、あの忠信さまが愛用していた名刀・満月切歳三だ! さすがの軽さと耐久度だ!」
普通の刀だったら増田と同じように、あんなに速く刀を振り直す事はできなかっただろう。
あんな速さを出せたのは、忠信から貰った刀のおかげ。
満月切歳三は、まさしく名刀という肩書きに相応しい軽さと耐久値と切れ味を持っている。
普通の刀では無いと増田も気がついていたが、まさか忠信の形見であるとは思わなかった。
その刀の元の持ち主が、忠信と聞いて増田は吹き出す。
「よくそんな縁起の悪い刀が使えるな! あんな嫡男に殺され、最後は人もついて来なかった男の刀をな!」
「おい……テメェ、本気で死にたいのか? それならそうと言ってくれよ………ブチ殺してやるからよ」
「かかって来いや!」
祥龍に討たれ、最後の最後に兵がついて来なかった人間の刀を使うのは縁起が悪いと増田は笑っている。
この言葉に、さっきとは桁違いの怒りを覚えた。
まさしくこれが殺意というものなのだろう。吉丸は忠信の名誉を回復させる為、こんな奴に負けるわけにはいかないと、直ぐに刀を構える。
増田も傷口を抑えながら片手で刀を構えた。
今度は吉丸が先に動く。
怒りに身を任せているので、吉丸の身体能力が普段の1.5倍ほどに高まっていた。
心の中で「来た!」と増田は警戒度を上げる。
ジーッと吉丸を警戒している中で、パチンッと瞬きした瞬間、目の前から吉丸の姿が消えた。
増田は「消えた!?」と周りをキョロキョロする。
消えた吉丸は血を止めようと本能的に、傷口を覆っている左目の方に回り込んでいた。
だから一瞬にして消えたと増田は思ったのだ。
ほんの少ししてから左目の方から吉丸は回り込んだのだと増田は気がついて首を左側に振る。
視界に吉丸を捉えた時には、もう既に吉丸は刀を突き刺す動作に入っていた。
「自分で死角を作ってんじゃねぇよ」
「このクソガキが……」
吉丸は自分自身で死角を作った増田に、もう手遅れであると理解させてから腹に刃を突き刺した。
ここに吉丸と増田の一騎討ちに決着がつく。




