091:新大正橋の戦い、開戦
秀斗の家臣団が野林兄弟と共に、秀蘭との戦いを行なうように進言した。
だがその中で秀斗の家臣である家貴だけは、秀蘭と戦うのに反対であると堂々と断言する。
そんな家貴に野林兄弟の兄である剛が、床から立ち上がると家貴の周りを回りながらグチグチと嫌味を言う。あまりにも陰湿で、家臣たちは手を出さないかと不安になる。
しかし家貴は、グッと拳を強く握って耐えている。
「野林、そこまでにしてやれ。家貴も私の事を想って、反対してくれたのだろう」
「はは! 申し訳ございません!」
もう見ていられないと思った秀斗は、スッと手を前に出して家貴への嫌味は、もう止めるように言った。
担ぎ上げる秀斗に嫌われたら意味が無いので、剛はスッと頭を下げて家貴への嫌味を止める。
とりあえず場が落ち着いて、視線が秀斗に集まった。
これはチャンスであると思った秀斗は、スッと立ち上がって家臣たちを右から左に見渡す。
「家貴、お主の心配も理解する事はできる。しかし仙道家の家督を、兄上に取られてしまったら、この仙道家に先は無いだろう。だから、これは仙道家を守る戦いだ」
「秀斗さま……」
「この私に力を貸して貰えないだろうか、家貴」
「は! 承知いたしました!」
視線が自分に集まったのを確認した秀斗は、家貴の方に歩いて行って、しゃがむと家貴の肩にポンッと手を置く。
自分が秀蘭と戦うのは、ただただ秀蘭が嫌いなのではなく、秀蘭が仙道家の家督を継いだら腐敗し壊れて滅亡してしまうと考えているからだ。
自分が総大将として戦うから、自分に手を貸して欲しいと家貴に頼んだのである。
さすがの家貴も秀斗に、こんな事を言われたら断る事なんてできはしない。しっかりと戦うと秀斗に約束した。
秀蘭に戦を挑む前段階として、秀斗は家貴たちに命じて秀蘭の直轄領である熊野町を横領。
その近くに流れている庄内川の上流に砦建築を始めた。
こんな大胆な行動が、秀蘭の耳に入らないわけがなく、直ぐに秀斗の動きについて情報が入った。
「ふんっ! こんな小癪な戦い方をするとは、全くもってアホな弟だ」
「殿、どういたしましょうか?」
「こっちも砦を造る! 枇杷島に砦を造り、その守備には大盛を着かせろ!」
「は! 承知いたしました!」
秀斗方の砦建築に対抗し、秀蘭は大盛に枇杷島にて砦を造るようにと命じた。
互いに牽制が続く中で、西愛河に大雨が降る。
それにより庄内川は大いに氾濫し、秀斗方の砦建築が滞るようになってしまった。
「秀斗さま、機は熟したかと」
「今こそ秀蘭さまのはなを明かす時にございまする!」
「うむ! これより奸賊・仙道 渋谷守 秀蘭の討伐を執り行う!」
もう砦の建築を諦めた秀斗方は、機が熟したと戦いを起こす覚悟を決めるのである。
秀斗方の軍勢は末森城から出陣し家貴が率いる本隊1000人と、上前津城の城将となっていた野林兄弟が率いる700人の軍勢。その総数1700人。
正式に挙兵した事が秀蘭の耳にも入る。
「これより逆賊・仙道 伊豆守 秀斗を討伐する為、大治城を出陣する! 秀斗は我が家督を簒奪さしめようとする愚かな男である。勝機は我らにある!」
『おぉおおお!!!!!』
秀蘭は自分たちは討伐する側であり、秀斗方は西愛河の右大将である自分に反旗を翻した反逆者と断言。
つまり正当性は自分たちにあると兵士たちを鼓舞した。
もちろんこの事については、秀蘭が実際に思っている事で嘘では無い。しかし半分は敵軍に数で劣っているという事実を、なんとか士気で上回ろうとしての事だ。
そう秀蘭軍は大いに、兵数で負けているのである。
秀斗軍が1700人なのに対し、秀蘭軍は必死に駆け集めて700人という1000人もの差が生まれた。
秀斗方が数で押すのならば、自分たちは兵の質で上回ろうと大いに若手を起用した。
佐久川 大盛を筆頭に、大盛の兄・鉱学。出世頭とも言える丹瀬 長廉、中堅の森木 成之。そして水前 利恒も名前を連ねている。
もちろん吉丸も足軽大将として従軍している。死んだと思われていたので、康人は別の部隊に配置転換となっている為、また1からのリスタートという事だ。
前にみたいに結菜を悲しませないように、吉丸は絶対に生き残ってやると気合が入っていた。
和帝暦19年8月10日。
秀蘭は700人の手勢を引き連れ大治城を出陣。
戦場となるだろうと思った新大正橋を渡ったところで、陣を敷いて秀斗方の軍勢を待ち構えた。
家貴が率いる本隊は北側から、野林 剛の弟である野林 透率いる野林軍は南側から挟み撃ちするように進軍。
昼になったところで、秀蘭は家貴軍に襲いかかる。
「開戦じゃぁああああ!!!!!」
『うぉおおおお!!!!!』
秀蘭の雄叫びと共に、秀蘭軍は家貴軍に仕掛ける。
これには後手に回ってしまったと思いながらも「我らも突撃じゃぁあああ!!!!」と開戦の合図を出す。
吉丸の足軽部隊は左翼前方に配置されている。
結菜を悲しませるので、死にたく無いとは思っている。しかし死なない為に逃げるのと、死なないように戦うのは違うので、吉丸は後者を意識して戦おうとしていた。
そして両軍は衝突。
数で劣るはずの秀蘭軍だったが、兵の質の高さで若干ではあるが、家貴軍の前線を押し込む事ができている。
だが、それも1人の男の登場でひっくり返る。
その男とは猛将・柴山 家貴である。
「俺は柴山 家貴っ! お主らなんぞに、この俺の首を取れると思うな! 自信があるならばかかって来い!」
秀蘭軍の前線をバッサリと斬り伏せ、勢いを殺したところで秀蘭軍の兵士たちに大演説を行なった。
誰よりも強く、誰よりも勇敢であると語った家貴。
もし自分の腕に自信があるならば、かかって来いと堂々たるタイマンを申し出るのである。
しかし兵士たちも馬鹿では無い。
そんな危険なタイマン、もとい一騎打ちに乗るような馬鹿がいるとは思えない。
「この俺が相手になってやろうでは無いか!」
「おぉ中々に勇敢な者もいるでは無いか。お主、名を名乗ってみよ!」
「仙道家家臣・山田 弥太郎 寛太准将である! 猛将と名高い貴殿と、一騎討ちをやれるとは、これほどに名誉な事は無い! その首を貰って、西愛河に俺の名を刻む!」
「良い面構えでは無いか。さすがは秀蘭さまのご家臣。ならば山田 弥太郎 寛太准将……かかって来い!」
馬鹿がいた。
一騎打ちに名乗りを上げたのは、秀蘭の家臣で准将の位を貰っている山田 弥太郎 寛太という武将だ。
槍を肩にポンッポンッと当てながら、自分なら勝てると自信満々に味方の兵士を掻き分けて家貴の前に躍り出る。
全員の視線は「マジか、コイツ」という感じで集まる。
普通の人間ならば、こんな戦いに乗り出す奴は馬鹿だろうと思う。しかし家貴は大笑いしてから面白がった。
そして家貴は両手を広げて向かってくるように促す。
山田は馬の腹をポンッと蹴って、最初はゆっくりと走り出し、少しづつスピードが上げていく。
そしてトップスピードになったところで「うぉおおおお!!!!!」と雄叫びを上げながら家貴に斬りかかる。
家貴は笑みを溢し、愛刀である大薙刀を振り上げる。




