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大和一統〜農民の俺が侍に!?〜  作者: 灰谷 An
第1章・運命の出会い 編
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008:運命の出会い

 町田家を出る他なかった吉丸は、幸綱から多額の金を受け取って愛河へと帰郷した。

 このまま故郷に帰るのも考えたが、挑戦したのに失敗したと言って家に戻るのは無理だと思った。何よりまだ侍になるのを諦めてはいない。

 しかし生きて行かなければいけないので、吉丸は何か商売をしなければいけないと考える。

 何の商売をしようかと考えながら歩いていると、気がつけば愛知郡名古屋市にいた。



「肉体労働の方が体力も付くし、そっちの方が得な気がするな。それじゃあ漁師にでもなってみるか!」



 吉丸は生活費を稼ぐならば、体力も付いて金も貰える肉体労働が良いだろうと考えた。

 そこで思いついたのは漁師だ。船の上で揺られるのに耐えれば、体の筋肉を鍛える事ができる。漁師が良いと決めて名古屋市港区の浜に向かう。

 すると思っていたよりも多くの漁船が海に出ているのが見えた。これは期待通りに仕事が貰えるかもしれないと吉丸は、確信して船のところまで走って行く。



「あ あの! 漁船で働きたいんですけど、どうしたら良いんですかね?」


「ん? 漁船で働きたいのか? そうだなぁ、ウチは人数が足りてるし……あっ! 人手が足りないって言ってるところがあったな! そっちに行ってみるのはどうだ?」


「本当ですか!? 是非とも教えて下さい!」



 漁師になる方法を聞いた吉丸は、どうやったら漁師になれるかと漁師のオッチャンに聞いた。

 どうやらこのオッチャンのところは、人手が足りているらしく困っていた。しかし直ぐに人手が足りないと言っていた人がいるのを思い出してくれる。

 それはどこなのかと吉丸は、オッチャンに食い気味で聞く。詰め寄られたオッチャンは困惑しながら「あっちの方に仙丸と書かれている船がそうだ」と教えてくれた。

 最後まで聞かずに吉丸は「仙丸ですね? ありがとうございます!」と感謝を述べて走って行く。

 オッチャンは「お おぉ気をつけろぉ」と言って送る。


 吉丸は「仙丸、仙丸」と呟きながら、言われた漁船をキョロキョロしながら探している。

 すると沖の方から浜にやって来る船を見つけた。その船の横っ腹の部分に仙丸と書かれていた。目的の船を見つけた瞬間、吉丸は「あっ!」と声を出して水際まで走る。

 その船に向かって両手を振りながら、ピョンピョンッと飛んでアピールする。


 よーく仙丸の船首を見てみると、そこには1人の人間が立っているのが見えた。

 瞼を細めて、ジーッと確認する。

 船首に立っているのは若い男である事が分かった。偉そうに腕を組んで、片足を船のヘリに乗っけていた。

 吉丸とは、そこまで歳の差があるとは思えない。

 しかし吉丸の目には、とてつもなくオーラがあるように感じたのである。オーラがあると言ったら、少し大袈裟なような気もするが、言い換えれば雰囲気のある人だ。

 仙丸が浜まで帰って来る。

 そして男はピョーンッと飛んで浜に降り立った。その姿を見た瞬間、吉丸は本能的に頭を垂れ平伏した。



「はははは!!! 今日も大量だぁあああ!!!」



 男は吉丸の存在に気が付かず、腰に手を置いて大地を飲み込まんとする勢いで口を開けて笑っている。

 するとようやく視線をスッと下に向けて、そこに吉丸が居るのを発見した。こんなところで頭を垂れて平伏しているので、男は「む?」と目を細め観察するように見る。



「お前、そこで何をしてるんだ?」


「は! ここで私も働きたく、お待ちしておりました!」


「ここで働きたい……つまり漁師になりたいと?」


「は! その通りにございます!」



 男の異様な雰囲気に、吉丸は平伏して頭を下げたまま男の質問に答えるのである。

 吉丸が漁師になりたいから、ここで待っていたのを知った男は「ほぉ」と顎をスリスリして吉丸を見ている。



「残念だったな! 俺は漁師じゃない!」


「漁師じゃないんですか!? えぇと……貴方さまは、一体どなたさまなのでしょうか?」



 男は大笑いしながら、自分は漁師じゃないと言うのだ。

 ある意味これだけの雰囲気があって漁師の方が違和感があると言えるだろう。

 しかしなら誰なんだろうと吉丸は男に聞いた。

 男は左口角を上げ、ニヤッと笑いながら答える。



「俺は仙道愛知家が嫡男・仙道(せんどう) 喜三郎(きざぶろう) 秀蘭(しゅうらん)だっ! こう見えて時期当主なんだぞぉ!」


「なっ!? 仙道愛知家のご嫡男さまでしたか!? これは失礼いたしました!」



 仙道愛知家とは、大治仙道家を源流とする一族であり、大治仙道家の現当主は仙道 英明である。

 この英明こそが国主・良元の重臣で、その英明の家臣の中に仙道愛知家がいる。

 そして目の前にいる秀蘭こそが、仙道愛知家の嫡男だ。

 まさかの人物に吉丸は、深々と頭を下げて「失礼をしました!」と頭を下げる。何より初めから平伏していたので秀蘭は気分を害していない。

 気分を害するどころか、大口を開けて笑っている。



「はははは!!! 驚いたか? 驚いたのか?」


「はは! 大いに驚きました! まさかこのようなところに、若君が居られるとは思いませんでした……」


「はははは!!! そうかそうか、驚いたか。まぁそれも無理は無かろう、普通の武家の人間ならば、このようなところに来ぬだろう!」



 吉丸が秀蘭に抱いた第一印象は、子供よりも子供っぽい人だと思った。

 満面の笑みでイタズラっ子の子供のようだ。

 秀蘭の言うように普通の武家の人間ならば、こんなところで漁師の真似事のような事はしていないだろう。どうしてこんなところにいるのかと、吉丸の疑問は時間が進むにつれて大きくなって行くのである。



「若君のような高貴なお方が、どうしてこちらにいらっしゃるのでしょうか?」


「なに簡単な事だ、屋敷の中に居ても退屈だからだ。なにより父上や母上は、俺よりも弟の秀斗(ひでと)の方が可愛いみたいだからな」


「弟の方が……」


「あぁ自由奔放な俺のような人間は、父上も母上も好ましく思っていないらしい」



 この時の秀蘭の顔は、オモチャを取られた子供のような表情をしていた。

 吉丸は秀蘭の表情から、何か違和感を感じる。

 しかし瞬きをして開けた瞬間、秀蘭の表情はまた子供のような天真爛漫な表情に変わっていた。だから吉丸は、自分の見間違いかと顔をスッと下に向ける。



「それで漁師になりたいんだっけか?」


「い いえ! 漁師になりたくない……わけじゃないですが。そういうわけじゃなくて………」


「ん? さっき漁師になりたいのかって聞いた時、返事をしたように感じたが?」


「じ 実は……」



 改めて秀蘭は漁師になりたいのかと、吉丸に聞いた。

 しかしそのとき咄嗟に吉丸は「いえ!」と否定した。否定された秀蘭は、キョトンとした表情で自分の聞いた事と違うんじゃないかと問う。

 どうにも上手く立ち回れなさそうだと思った吉丸は、自分が仕官する為に村から出て来たと話した。吉丸の話を秀蘭は「うんうん!」と面白い話を聞いている時のように、笑みを溢しながら聞いている。



「そういう事か! ならば俺の屋敷で、召使として働く気はあるか?」


「え えぇ!? よ よろしいのですか!?」


「あぁ屋敷にいくら人が居ても足りないくらいなんだ。お前が来たいと言うのならば、俺の屋敷に来い!」


「お お世話になります!」



 メリットやデメリットを考える事なく、吉丸は秀蘭の誘いを即決で決めた。

 この刻のちに名を大和全土に轟かせる秀蘭と、のちに大和を統一する吉丸の出会いである。

 吉丸にとって運命の出会いだ。

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