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大和一統〜農民の俺が侍に!?〜  作者: 灰谷 An
第2章・仙道愛知家の家督相続 編
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009:ワガママな主君

 吉丸は運命的な出会いを果たし、秀蘭の城で召使として働く事になったのである。

 秀蘭の居城は、仙道愛知家の支配領域である愛知郡名古屋市にある上前津城だ。かなり若い時に、父親の秀昌(ひでまさ)から上前津城を譲られていた。

 城を与えられたとは言えども、上前津城はお城というよりも要塞という言葉の方が合うだろう。頑丈な板堀や土塁で囲まれた大きめな武家屋敷というニュアンスの方が、この城には合うのかもしれない。


 吉丸は上前津城での仕事が始まった。

 幸綱のところで召使として半年も働いていたので、召使としての仕事は慣れ始めている。だから初日から戦力として動く事ができるのである。

 時期は冬と秋の中間である11月であり、冬の間に大量の薪を使う事になる。その為、朝から昼過ぎまで気が狂ったかのように薪を割り続けた。



「ふぅ……とりあえず、これくらいで良いかな?」


「吉丸、薪割りが終わったら廊下の雑巾掛けをしてくれ」


「はい! 承知しました!」



 薪割りが終わったところで先輩の召使が、次は廊下の雑巾掛けをするように指示を出した。その指示に、しっかりと笑顔で返事をして雑巾を取りに行った。

 桶に井戸から汲んで来た水を入れ、雑巾を水に浸してから絞って雑巾掛けを始めるのである。

 吉丸は「うぉおおおお!!!」という掛け声と共に、廊下を全力で雑巾掛けをする。足腰を意識して、しっかりと隅から隅まで綺麗にする事を意識している。


 すると吉丸が雑巾掛けをしている廊下が面している部屋から「犬! 犬はおるか?」と呼ぶ女性の声が聞こえた。

 声の主が誰かと分かり、吉丸は立ち上がって「ここにおります!」と大きな声で返事をした。

 吉丸の返事を聞いた部屋の中の女性は「入って参れ」と言って、吉丸を部屋の中に入るように指示した。雑巾掛けとは言えず、断るわけにはいかないので「失礼します!」と声をかけてから襖を開けて部屋の中に入る。


 部屋の中には豪華な装飾品が多くあり、部屋の奥側に現代でいうところのアンティーク調のソファがあった。

 そしてソファには鮮やかな小袖に、豪華な打掛を纏っている女性が座っている。

 女性はスッキリとしと奥二重に、意志の強さを感じさせる目力をしている。やや太く凛とした眉が特徴的で、どこか儚げで神秘的なオーラを纏っていて、涼しげな美人という印象を感じさせる女性だ。

 この女性こそ秀蘭の嫁・果耶(かや)である。



「犬よ、ここでの生活は慣れたか?」


「は! まだまだ修行の身ではございますが、お館様や奥方様のご指導のおかげで少しづつ成長していると感じております! この先も頑張りたいと存じます!」


「そんなに畏まらなくて良いぞ? そんなに畏まれたら、逆にこっちが話しづらいのじゃ」


「し しかし奥方様に対して失礼では……」


「こっちが止めるように言っておるのだ、断るのは逆に失礼では無いかのう?」



 果耶は17歳で吉丸と年齢が近い事もあり、吉丸を可愛がっている節がある。

 しかし吉丸は礼儀を重んじていて、果耶が畏まらないように言うが、畏まらないわけにはいかない。なんなら秀蘭のところに嫁いでくる前は、野山を走り回るジャジャ馬のような姫様で有名だった。

 だから畏まられるのは嫌いなのだ。



「それではある程度は、崩させて頂きます」


「うむうむ、苦しゅうない! それで今日は、どんな面白い話をしてくれるのじゃ」


「それでは今日は……日本時代のお笑いについてはいかがでしょうか?」



 吉丸は上の人間を楽しませる為、色々な小話を考えたり聞いたりしていたのである。

 その話を聞くのが果耶の楽しみだ。

 今日も吉丸は、果耶が面白いと思いそうな日本時代のお笑いについて面白おかしく話す。お姫様ながら手を叩いて笑っていて、不思議と秀蘭に重なるところがあった。



「というわけにございます。本日のお話はいかがだったでしょうか? お気に召して貰えましたか?」


「えぇ今日も面白かったわ。お主の話は、本当にいつも面白いのぉ!」



 どうやら今日の話も気に入って貰えたようで、吉丸は満足そうに「ありがとうございます」と感謝を伝える。

 すると城の入り口の方から「若君、おかえりです!」と侍従の声が聞こえて来た。この声に吉丸は急いで膝を着き頭を下げて秀蘭がやって来るのを待つ。

 ドドドドッという足音が近づいて来て、直ぐに秀蘭の足音であると城の中の人間が悟る。

 そして雑に襖が開けられた。



「今日も大漁だったぞ! おぉ吉丸、また果耶に話をしていたのか?」


「はは!」


「お前も大変だなぁ」


「大変とは何ですか、まるで私がワガママを言っているような言い方では無いですか!」


「まるででは無いわ! そう言っておるんだわ!」



 やはり秀蘭と果耶は、よく似ている。

 子供のように、よく笑い。子供よりも楽しい事が大好きな性格なのだ。

 秀蘭は笑いながら干し柿が食べ、果耶の横に座るとコテンッと果耶の膝を枕にして横になる。そんな秀蘭の頭を、果耶は優しく撫でるのである。

 満足げに干し柿を貪りながら「吉丸!」と名前を呼ぶ。名前を呼ばれた吉丸は「は!」と大きな声で返事を返す。



「明日、俺と秀斗が古森城の父上に呼ばれたぞ!」


「本当でございますか! そうなれば家督相続の話をされるかもしれませんな!」


「あぁ! 俺の持っている服の中で、1番豪華なヤツを用意しておけ!」



 古森城とは秀蘭の父親にして、仙道愛知家の現当主である秀昌の居城である。

 そこに明日、秀蘭と弟・秀斗が呼ばれているのだ。

 もしかしたら家督相続についての話をするのでは無いかとワクワクしている。仙道愛知家の家督を継いだ者は、古森城を与えられる暗黙の了解があった。つまり古森城を譲ると言われた者が、次期当主というわけだ。

 その話をされるかもしれないからと、秀蘭は豪華な服に身を包んで行くと吉丸に指示を出す。

 しかしその発言に「待った」をかける人間がいた。

 秀蘭の幼い時からの教育係であり、傅役である岸辺(きしべ) 政徳(まさとく)である。



「それはなりませぬ! そんな事をしたら、上様の評価が下がってしまいますぞ!」


「政爺は昔から、小うるさくてたまらん! 俺の着る服なんだ、俺が好きに決めて何が悪い!」


「その考え方がダメなのです! 秀蘭さまは、これから仙道愛知家の当主になられる、お方。そんなお方が、そんな目立つ格好などあり得ませぬ!」



 政徳は幼い時から秀蘭の側で、当主とはどういうものかを教えながら仕えていた。

 それがダメだったのか、秀蘭は見事にグレてしまった。

 自分を否定されているように感じたのだろう。秀蘭は政徳に対し「明日は、この城に残っていろ!」と指示する。



「どうするおつもりですか?」


「お前以外にも、家臣はいくらでもいる!」



 秀蘭の事を思って政徳も言ったのであるが、せっかくやる気になっていたところを否定され、秋蘭は怒った。

 それにより明日の話し合いに政徳は同行できず、上前津城に居残りとなってしまうのである。

 しかし政徳は「自分は間違っていない!」と教育係としての強い信念が表情から滲み出ている。さすがは秀蘭の側で、子供の頃から叱り続けている男だ。

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