086:親友との再会
吉丸は深手を負いながら、たまたま美飛の山県市で医者をやっている薬徳 全相の家の前までやって来ていた。
その薬徳の手によって吉丸は一命を取り留めた。
しかしあまりにも負った傷が深く、動けるようになるまで、目を覚ましてから1週間もかかった。
「動けるようになるって言っても、まだ起き上がれるようになっただけだぞ? 歩き回れるようになるには、まだもう少しかかるからな」
「何から何まで、申し訳ございません……助けて頂いたのに、俺からお礼で渡せるようなモノは………」
「確かに俺の生業は、医者だ。金を貰わなきゃ生活なんてできやしない。だけどな! 決して金だけで動くわけじゃねぇんだよ、救える命があるなら救う! オメェらが主君の為に命を賭けるのならば、俺は患者の為に命を賭ける」
「そう言って貰えるとありがたいです」
こんなにも至れり尽せりで、吉丸としては返せるほどの金品を持っているわけじゃないので、どうしたら良いのかと困っていた。
すると薬徳は医者としてのプライドを見せる。
金品が無いから見殺しにするというのは、医者としての在り方として間違っていると断言した。
これには吉丸としても助かる。
しかし何も返さないというのは、武士を目指している吉丸としては申し訳が立たない。
その為、無事に帰れたら必ず恩返ししようと決めた。
吉丸が目を覚ましてから2週間が経った。
全快したのであるが、薬徳からしたら「異常なまでの回復力」と治療した本人なのに若干引いている。
そもそも吉丸が負っていた傷だって、普通の人間だったら死んでいた。まずそこを乗り越えた上で、ここまでの回復力を見せたのだから薬徳が驚くのも当たり前だろう。
まぁとにかく吉丸は全快したのだ。
いよいよ薬徳との別れの時がやって来る。
「本当に本当に、お世話になりました! どれだけ感謝の言葉を述べてもなりません、本当に命の恩人です。この恩は、必ずお返しいたします!」
「良いんだよ、そんな事。俺は医者として当たり前の事をしただけだ、まぁ返してくれるっていうなら貰うけどな」
「それでは失礼いたします!」
吉丸は深々と頭を下げて感謝を伝えるのであるが、どれだけ言葉を出しても足りないくらいの恩を感じている。
これに薬徳は恥ずかしそうに「気にするな」という医者としての粋な姿勢を見せるが、冗談として貰えるなら貰うと笑いながら言った。
そして最後に、もう1度頭を下げてから吉丸は薬徳の家を後にするのである。
全快になって帰れるとは言えど、まだ油断はできない。
なにせ吉丸がいるのは、まだまだ敵国だからだ。
薬徳からは僧侶を装えるように居士服や笠などを貰っており、それに着替えて関所に向かう。
バレないとは思うが、やはりドキドキしてしまう。
関所を超える人たちの列に並んで、自分の番が来るのをジッと静かに待っている。
すると吉丸の前に並んでいる人間が、何か不備があって別のところに連行されていった。もし何かあったら、自分も「なんな風になるんだ」と思いながら並ぶ。
そして吉丸の番がやって来た。
「お前……僧侶か?」
「は はい、日ノ本を色々と旅しております」
「そうか。それは良いが、僧侶と言えども、しっかりと税金は納めて貰うぞ」
「はは! 承知しております、こちらで足りますか?」
「あぁ問題ない、通って良いぞ」
吉丸は持ち前の演技力で、関所の人間からの尋問を上手く切り抜けた。
しっかりと税金を納めてから吉丸は西愛河の地に入る。
これで安心だと少し肩の力を抜いたところで、関所の人間が「おい!」と吉丸を呼び止めた。
これには吉丸も「ば バレた?」と全身が緊張で固まる。
「ここら辺は、先の戦いでの敗残兵がいるかもしれん。素人である、お前は気をつけるのだぞ」
「は はい……ありがとうございます」
吉丸の緊張は頂点に達したが、どうやら吉丸の旅事を心配しての忠告だったらしい。
なんとか最後の最後まで笑顔を崩す事なく、ペコッとお辞儀をしてから吉丸は、また歩き出すのである。
1番の難所であり、最後の難所を乗り越えた吉丸は、真っ直ぐ大治城へと向かう。もちろんその日のうちに行きたいが、大怪我をしていた事や寝たきりだった事もあって体力が想定よりも落ちていた。
その為、丸2日かけて大治城まで戻って来た。
「お主は何者だ! 何用で参った!」
「自分は足軽大将・犬飼 吉丸と申す! 殿に御目通りを願いまする!」
「犬飼だと? アイツは先の戦で死んだはずだ!」
「恥ずかしながら生きながらえ、ここまで帰って来た」
「そ そうか。ならば確認を取る、暫し待て!」
門番の人間は、どこの誰かと用件を吉丸に問うた。
それに正直に答えたのであるが、吉丸の死去が正式情報として流れている為、疑いの目で吉丸は見られる。
しかし実際は生きていたんだと伝え、恥ずかしいが帰って来たという風に伝える。こんな事を言われても門番たちは、とてもじゃないが自分たちでは判断を下せない。
ならば顔を知っている人間に確認を取ろうと、吉丸に待つように伝えて城の中に向かった。
「あっ! 利恒殿、少し確認して頂きたい事がございまするが今、少々よろしいでしょうか?」
「ん? 俺に確認して欲しいこと?」
「はい。今、門前に犬飼 吉丸を名乗る人間が来ておりまして。確か吉丸足軽大将とは、仲がよろしかったですよね? 確認して頂きたいのですが」
「な なんだと!? 吉丸が今、ここに来ているだと!? アイツ、生きていたのか……いや! きっと偽っているに違いない。死者を冒涜する行為だ! 俺が成敗してやる」
当番の日で城にいた利恒を発見した門番。
吉丸とは仲が良いというのは知っていたので、本人であるかを確認して欲しいと頼んだ。
まさか吉丸が生きているなんて思っていない利恒は、とてつもなく驚いて大きな声を出してしまう。城である事を思い出して口を押さえ、周りをキョロキョロする。
そして普通の声のトーンに戻し、吉丸は死んだのだから吉丸を名乗っているのは偽物であると決めつけた。そんな不届きものは、自分が成敗してやると刀を持って門の方に向かって早歩きで向かうのである。
「お前か! 吉丸を名乗っている人間というのは! 吉丸は死んだんだ……ぞ?」
「利恒……ただいま」
最初こそ成敗してやろうと刀に手をやったが、吉丸の顔を見た瞬間、それが本人であるのを確信した。
まさか死んだと思っていた吉丸が目の前にいるので、思わず刀を地面にガチャンッと落としてしまう。これに吉丸は恥ずかしそうに、照れながらただいまという。
生きていたという事実が頭では理解できないが、自然と涙がボロボロと溢れ出ていく。
そして吉丸に「おぉおおお!!!!」と駆け寄る。
「良くぞ……良くぞ、生きていた! 本当に本当に良かった!」
「あぁ恥ずかしながら生きながらえてしまった……こんなところに顔を出すのは、筋違いかもしれない。だが殿に、話さなければいけない事があるんだ。だから帰って来た」
「そうか! そうか、理由はどうあれ……お前が生きていた事が、何よりも嬉しいぞ!」
吉丸としては、ここに帰って来るのは気が引ける。
しかし秀蘭に伝えなければいけない事があるゆえ、城に帰って来たのである。
それを聞いて何があったかは分からないし、吉丸の心中を察する事なんて到底できない。
だが何がどうあれ吉丸が生きていた事が嬉しいのだ。




