081:武儀川の戦い、開戦
吉丸は自分の部下を集めて、今回の任務について説明。
ついでに忠信の口から直々に、本陣守備隊に入って欲しいと言われた旨を伝えた。すると何も知らない足軽たちは忠信に、そんな事を言われるなんて凄いと喜んだ。
しかし侍である康人だけは頭を抱える。
「吉丸殿、これは由々しき事態ですぞ。前線に配置されれば戦いながら逃げるという事が許されます。しかし本陣守備隊に入ったら、そうは行きませぬ」
「た 確かに康人さまの言う通りだ……」
康人がどうして頭を抱えたのか、それを知った足軽たちは「確かに……」と絶望する。
ポロッと口から出てしまった事で、士気が下がった事に康人は吉丸に「も 申し訳ございませぬ!」と頭を下げた。
吉丸としては別に気にしていない。
なにせ康人が言った事は事実だからだ。
それでもこのまま士気が下がり続けるのは嫌だと思い。吉丸は部下たちにある提案をする。
「考え方を変えないか? 確かに事実を述べれば、康人殿が言ったような事だろう。だけど死地に立たされるほど、勝った時の見返りは大きいだろう! 俺たちは、ここを乗り越えて大きな武功を手にする!」
「お おぉ! 隊長の言う通りだ!」
吉丸は考えを変えるように提案した。
これから始まる戦いは確実に死線であり、少しでも判断を間違えれば死ぬ。いや、判断を間違えなかったとしても今回の戦いばかりは死ぬかもしれない。
そう思うのは簡単な事だ。
しかし今の考えを裏返すならば、今回の戦いで生き残り忠信を生かしたとなれば。
そう。想像もできないだけの褒美を貰って、家族を養う事だってできる。
吉丸の考えに足軽たちは賛同して考えを変える。
もちろん考えを変えたと言っても、きっと脳の中では死ぬという諦めの気持ちが半分を占めてるかもしれない。それでも口に出す事が大切なのだと吉丸は考えていた。
吉丸たちは本陣守備隊に編入する前段階として、忠信の護衛役として1ヶ月の間働いた。
交代交代で忠信の周りを警護し、忠信の側近衆たちとも話し合いなどをして関係を築いて行った。
その中に李光も入っている。
久しぶりに会って酒を飲み交わす。
「吉丸殿、まさかたった数年で奉行から足軽大将にまでなるとは思って居なかったぞ。さすがは吉丸殿だ、初めて見た時から只者では無いと思っていたんだ」
「本当ですかぁ? いやいや、自分なんてまだまだ農民上がりの駄犬ですよ。もっと秀蘭さまの為に働きたい」
「ははは! さすがは忠義を具現化したようなお方だ。私も忠信さまを、このままおめおめと殺されるわけには行きませぬ。ここで祥龍を討ち取る……それが我らの役割だと存ずる! 吉丸殿も、そう思うであろう?」
「は! まさしくその通りにございまする!」
吉丸も李光の中も前より深まったところで、気がつけば美飛にやって来て1ヶ月が経とうとしていた。
季節も春を迎えようとしている3月。
美飛の戦況も動こうとしている。
3月5日。
忠信は井ノ山城にて戦支度を開始した。
もちろん忠信たちが、井ノ山城で戦支度を始めたという事は向かいの武芸川城にいる祥龍にも伝わっている。それに合わせて祥龍たちも戦支度を開始する。
「さぁ奸賊を討伐する時だ! 出陣するぞ!」
『おぉおおお!!!!!』
戦支度を終えた祥龍たちは、武芸川城を出発。
戦いの舞台となる武儀川の東側に布陣。忠信たちが向かって来るのを、ジッと待機している。
「これより愚か者のバカ息子を討伐しに向かう! この戦いは死闘になるだろうが、お前たちならば勝てると信じている。勝って、我らの国を取り戻すぞぉ!」
『おぉおおおお!!!!!』
変な思い込みで軍を動かしている祥龍を、懲らしめてやろうと兵士たちに忠信は促す。
そして難しい戦いになる事を、あえて隠さずに伝える。
それにより忠信軍の士気は、絶頂に至った。
両軍は武儀川を挟んで布陣。見ている方が、ゴクンッも生唾を飲むような緊張感が流れている。
吉丸は本陣守備隊に配属されているので、敵も味方も嫌っと言うほどに見える。それゆえに、どれだけの兵力さがあるのかを嫌でも思い知らされた。
なにせ忠信軍は2700人。それに対し祥龍軍は1万8000人という圧倒的な兵力差。
忠信が布陣した事を聞いた秀蘭も援軍として大治城を出陣したが、その数は1500人と誤差でしか無い。
それでも戦わなければいけない。
吉丸は前に結菜から貰ったお守りを、ギュッと握って無事に帰れるようにと願うのである。
すると敵陣の方から「おぉおおお!!!!!」という叫び声が聞こえて来る。
忠信軍の兵士たちは、向こうの叫び声にビクッとする。
どうしたのかと祥龍軍の動向を見ていると、敵軍の将である西竹 道英が5000人の兵を連れて川を渡り始めた。
吉丸は「つ 遂に始まった!?」と開戦を察知する。
「しょ 初手から5000の兵を投入か……なんて贅沢な戦い方だ」
「向こうは初手で、決着をつけるつもりで来てる。忠信さまが、どういう采配をするのか……楽しみだな」
康人は初手から5000人もの兵を投入した祥龍軍に、贅沢な戦い方という印象を持った。
これは一手目で忠信軍を詰みに行かせるつもりだろうと吉丸は考え、どんな返し手を打つのかと忠信の采配に注視するのである。
忠信は祥龍が動いたと聞いて、腕を組み目を瞑って床几に座っていたが、目をカッと開いて立ち上がる。
「なんと無駄の大きい戦い方だ! あの大馬鹿者に、戦略というものを見せてやるぞ!」
「は! して、どんな一手を?」
「槍兵を川の淵まで向かわせ、その後方に弓隊を配置させろ! 槍兵で岸に上げさせず、その背後に続く敵兵を弓隊で一網打尽とする!」
「は! 承知いたしました!」
忠信は祥龍の戦い方を、無駄の大きい戦い方だと非難。
それに対して忠信は槍兵と弓隊を前に動かし、川を渡って来る敵兵たちを岸に上げない作戦だ。
この作戦がバチッとハマった。
川を渡る敵兵たちは、鎧に水が含まれて重くなる。それにより岸の上にいる忠信軍の槍兵たちに良いようにやられる。さらに槍兵の後ろにいる弓隊が、背後でモタモタしている敵兵を狙い撃つ。
面白いくらいに敵兵がやられていく。
「な 何をしておる! さっさと岸に上がって拠点を作れ! さも無いと全滅するぞ!」
5000人を率いる西竹は部下の無駄死にを見て、どうにか岸に上がるように指示を出す。
しかし事は、そう簡単では無い。
立地の差というのがあり、川から岸に上がるのは口で語る以上に難しいものがある。それを西竹は理解しておらず兵を無駄死にさせて行っている。
「くっ! どうして、こんな……もうこれ以上は許容範囲外か………お前たち、ここで引くぞ! これ以上の被害を出すわけにはいかぬ!」
これ以上の損失は、軍にとってマイナスでしか無いと判断。全軍に対して川を戻って撤退するように指示を出す。
だが、もはや撤退の命令は遅すぎた。
西竹の軍は忠信軍に背を向けて撤退していく。それを忠信が、ただただ見守るわけがない。
逃げていく敵兵に向かって弓矢を放ちまくる。
逃げていく中で西竹の側近が「危ない!?」と叫ぶ。
その声に反応した西竹は「へ?」と振り返ると、忠信軍の矢が目に命中。そのまま脳まで達し絶命した。




