076:血の惨劇
祥龍の叔父である徳道は、孫六と喜平太のところまで足を運び「祥龍さまが病につき、お見舞いお頼み申し上げたき」と言って武芸川城に呼びつけた。
もちろんそのタイミングは祥龍が、武芸川城の敷地内にある私邸で宴を開いているタイミングである。
武芸川城にやって来た2人は、徳道の案内で上段の間ではなく下段の間に通す。
「叔父上、兄上の容態は悪いのですか?」
「えぇ医者の言うところによりますと、そう長くは無いとおっしゃっておりました。今は眠っておりまするので、お目を覚ますまで、こちらでお酒でもお飲みくだされ」
祥龍が眠っている部屋ではなく、下段の間に通された孫六と喜平太は祥龍の容態について聞く。
もう主演アカデミー賞をあげたいくらいの演技で、もう祥龍が長く無いという風に説明した。そして今は眠っているから会えないと言って、目を覚ますまで控え室にて酒を飲んで待ってて欲しいと部屋の中に入る。
それだけではなく自然な流れで、腰に付けている刀をスッと取って城内の小姓に渡した。あまりにも自然に渡したので、自分たちもしなければいけないと2人も刀を渡す。
「さぁさぁお飲みくだされ! これも祥龍さまが、2人に飲んで貰いたいと言っておりました酒にございまする」
「へぇ兄上が、俺たちに飲ませたいと……喜平太、遠慮なく頂こうじゃないか」
「は! ありがたく頂きまする!」
床に座ったところで徳道は、満面の笑みで祥龍が用意したという酒を2人に見せるのである。
それを見た2人は、なんとも言えない表情を浮かべる。
兄である祥龍が危篤状態なのに、こんなところで酒を飲んでいて良いのかという風に感じたからだ。しかし兄が用意してくれたのに飲まなかったら失礼かと思って、ありがたく飲む事を決めた。
本当に祥龍が用意した酒が美味しく、孫六と喜平太は大いに飲んで騒いだ。
完全に今から動けと言われたら、動けないくらいに泥酔してしまう。もうこうなったら、完全に祥龍と徳道による抹殺作戦の9割が終わり、あとは殺すだけである。
そんな中で下段の間に祥龍がやって来た。
現れるはずが無いと思っていたので、孫六たちは幽霊を見たかのように、目をかっぱらいて「兄上…」と呟く。
「お お元気になられたのですか?」
孫六は恐る恐る調子が良くなったのかと聞いた。
その質問に祥龍は答えない。排除すると覚悟を決めたところで殺すのは弟たちである、常に落ち着いている方がおかしいというところだ。
平常心を保つ為、祥龍は真顔で何も答えずにいる異様な雰囲気におかしいと思った。
だが、まさか殺されるとは思ってもいない。
ゆっくりと歩いて2人の前に行ったところで、スッと腰に付けている鞘から刀を抜いた。
この瞬間に「あっ……ヤバい」と悟る。
急いで逃げ出そうとしたが、酔いが回っている為、足が上手く回らずに逃げ出せない。
「こ この卑怯者が! お前なんて卑き血筋の子だ!」
もう無理だと悟ったところで、孫六は祥龍に向かって卑き身分であると叫んだ。
その言葉を聞いても眉をピクッと動かすだけで、全くもって感情を露わにする事は無かった。それはもはや自分の親は、小里家であると思い込んでいるからだ。
逃げられないと悟っている孫六ではなく、逃げ遅れて失禁している喜平太の首を見事に、たった一振りで殺す。
喜平太の頭があったところから噴水のように、プシャーッと血が吹き出す。そのら辺一体が、ものの見事に血の水溜りができるのである。
自分では無いが、同じ事をされるのだと頭の中で想像した孫六は「あ…あ……」と動けなくなった。
「卑き血筋は、どっちの方だ。お前たちの父親は、この国を簒奪した人間だろ。俺の父親の方が素晴らしい」
「な 何を言って……まさか!? 本気で小里家の血筋が入っていると思っているのか!?」
「思い込んでいるのでは無い。本当に俺の父親は小里家なのだ! お前らのような卑き人間に、この美飛で生きる資格は無い!」
そんな事を言えば確実に逆上して、死ぬのを早めるだけだというのに、孫六は満面の笑みで血筋について話した。
やはり予想通り祥龍は、自分は忠信の息子ではなく小里家の人間であると断言。そして早く殺してしまおうと、刀を上にブンッと振り上げた。
ここから逃げられるわけが無い。
だが孫六の生存本能?が勝手に体を動かし、少しでも祥龍から逃げようと地面を這いつくばる。
しかしその孫六の背中を祥龍の刀はバスッと切り裂く。
孫六は「う!?」と言ってから力無く地面に倒れた。
「祥龍さま、お見事にございまする。これで忠信さまの手足を奪ったも同然です!」
「あぁまだ始まったばかりだ。ここからが至難だ……この2人の首を刎ね、その首を持って忠信のところに行け!」
祥龍は配下の人間たちに、孫六と喜平太の遺体から首を切り落とすように指示した。それは自分の手で2人を殺したと忠信たちに知らせる為だ。
その頃、今回の騒動の中心人物である忠信は、孫六と喜平太が殺されているのを知らずに宴会を楽しんでいる。
忠信が良い感じに出来上がって来た頃、忠信の小姓が宴会場にやって来て「長沼 徳道殿が、お見えですが」と言って、徳道がやって来た事を知らせた。
「徳道だと? あの祥龍にゴマを擦って重臣になったという、侍の風上にもおけぬ男か。ソイツが、このワシに何用なんだ!」
「く 詳しい話は聞いておりませんが、どうやら若より預かったモノがあるとの事にございます」
「アイツから預かった? 何を預かったというのだ……まぁ良いわ、ここに通せ」
「は! 承知いたしました!」
届けられるモノが孫六と喜平太だとは知る由も無い忠信は、よく分からずに宴会場へと徳道を通した。
徳道が宴会場にやって来ると終始、ニヤニヤしており忠信は徳道の表情にイラッとしている。まぁまぁ強い口調で用件を話すように促すのである。
仕方ないという感じで箱を2個、忠信の前に出す。
ジーッと箱を見てから、チラッと視線を徳道に移した。
一体どんなモノが入っているのかと思いながら、恐る恐る箱の蓋を開けてみた。ゆっくり開けているので、中身が良く見えずに目を細める。
そして中身が孫六たちの首と分かった瞬間、持っていた蓋を床に落とし「うわぁああああ!!!!!」と叫ぶ。
一体何が起きたのかと宴会に参加している人間たちは理解できず、箱の中身をスッと見て青ざめる。
中身を察した人間たちの叫び声が屋敷の中に響き渡る。
まさしく阿鼻叫喚と言った感じだろうか。
忠信は首の入っている箱を、ギュッと抱き寄せ大粒の涙と叫び声を上げながら悲しんでいる。悲しんでいるが、いまだに頭は理解できていない。
泣きながら目だけを、徳道の方に向け睨む。
「これはどういう事だ! あの大馬鹿者は、頭だけではなく気も触れたのか! こんな暴挙が許されて良いわけが無かろうが!」
「忠信さまは、何かを勘違いされておりまする。祥龍さまは国を簒奪せんとしていた男の子を葬ったに過ぎませぬ。それの何が聞けないのでしょうか?」
「まだそんな事を言っているのか、あの男はっ!!」
「これも全て忠信さまの行ないが引き起こしたこと! 祥龍さまを、お責めになるのはお門違いにございます」
「この鬼畜共がぁ……ワシも殺すのであろう! 殺すのならば、さっさとワシの首を刎ねよ!」
こんな事になったのだから祥龍は、自分の首も狙っているだろうと忠信は考えていた。
その為、首を刎ねるなら今直ぐに殺せと急かす。
今更、祥龍や徳道に命乞いをするような男では無い。




