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大和一統〜農民の俺が侍に!?〜  作者: 灰谷 An
第2章・仙道愛知家の家督相続 編
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071:その名を歴史に

 ただの足軽では無いと吉丸の事を再評価したところで、また太田原は攻撃を仕掛ける。

 大きな振りでは、吉丸が間合いに詰めてくると悟った。

 それならと小さな円を描くように、太田原は勢いを付けて吉丸に斬りかかった。真っ正面から斬りかかっているにも関わらず、吉丸は回避する事ができず防ぎの一手しか選択する事ができなかったのである。

 しかもパワーも凄まじく綺麗に受け切っても、地面をズザザザッと後ろに弾き飛ばされた。



「なんちゅうパワーしてんだよ……」



 防いだものの太田原のパワーが桁外れで、刀を握っている手がジーンッと痺れる。太田原は家貴や元寿のようにガタイが良いわけでは無い。なんならヒョロヒョロの芸者のような細さをしている。

 手がジーンッと痺れたので、グーパーして痺れを紛らわせようとしているところに、太田原は「油断すんな!」とジャンプしながら刀を振り下ろして来た。

 今度はジャンプをした事で、少しの間が生まれてギリギリで真横に回避する事ができた。

 真横に避けた吉丸を、太田原さ追跡する。



「そう簡単に逃げられると思うな! こっちは、いくらでも引き出しは持ってるんだからな!」


「何をそんなにデカい顔してるんだ……こっちも引き出しは、いくらでも持ってんだよ!」



 このまま相手の間合いとペースのまま戦ったら、吉丸が討ち取られるのは時間の問題だ。それは吉丸自身が、1番理解しているところである。

 しかも向こうは引き出しが無数にあり、いつでも吉丸を討ち取る事ができると煽って来た。いろんな事が重なって吉丸は、自分もまだまだ引き出しがあると張り合う。

 歳の若さが露呈する。

 それでも吉丸には、まだ引き出しがあるのは事実だ。


 今の今までは型にハマった戦い方をしていて、それこそ秀蘭たちが行なっているような正当な戦い方だ。

 しかし実際の吉丸の戦い方は、独学で鍛錬を積んで来て良い意味でも悪い意味でも自由な戦い方が特徴である。

 それを示す為に本来の構えをする。

 右手に刀を持ち、その右手をピーンッと真横に伸ばす。右膝を大きく後ろに下げ、左手は地面に着いている。まさしく型はずれな構えである。



「なんだ、その構えは……ハッタリか」



 あまりの構えに太田原は、ただの見せかけかと思った。

 それもそうだろう。さっきまで正統派の戦いをしていた人間の本当の構えが、こんなわけが無い。

 気にしなくて良いと太田原は構え直す。

 2人の間に少しの間が流れ、吉丸が先に仕掛ける。

 一気に走り出した吉丸は、速く鋭い突きを太田原の喉元に向かって放つのである。ただの足軽ならば、この突きで討ち取られていただろう。

 しかし太田原は気がついている吉丸が、腕を伸ばし切って突きを放っているので、思い切り刀を払う事ができれば吉丸の体勢は崩れて隙が生まれると。

 この突きで倒せると思っているであろう吉丸に、太田原は「ぬかったな!」と叫ぶ。そのまま吉丸の刀を弾いた。

 だが吉丸は「お前こそぬかったな!」と返す。


 吉丸は太田原に刀を弾かれた勢いを利用して、太田原の腹に回し蹴りを繰り出すのである。

 予想外の回し蹴りに太田原は、防ぐ事ができなかった。

 後ろに「うぅ…」と唸りながら弾き飛ばされる。

 そして顔をパッと上げ「マジかよ、コイツ」という表情で吉丸の事を見る。



「何を鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしてるんだよ。これくらいの蹴りを想定できないで何が、引き出しはいくつも持ってるだよ!」


「そんなのは剣術とは言わん!」


「これが剣術と言わないなら、なんて言うんだよ?」


「お前のは無法者の暴力だ!」


「なら、その無法者の暴力に負けたら……アンタの武士道に傷が付くよな!」



 吉丸は完全に太田原の人心を掌握した。

 普段ならば分かりやすい挑発に乗るような浅さは、太田原には無い。それでも吉丸に負けるかもしれないという思考が、脳裏をよぎった事により普段とは違う太田原が顔を出す事になったのである。

 普段ならば型を守って戦うところだが、吉丸を倒したいという気持ちが先行して力尽くのパワープレイに走る。

 それに対して吉丸は、さっきまでとは異なり正統派の剣術を使用して太田原を圧倒し始める。

 そして遂に吉丸は、太田原の一撃にカウンターを合わせて胸に一閃を放った。食らった太田原は「くそ…」と一言だけ呟いてバタンッと倒れた。

 吉丸は見事に太田原を討ち取ったのだ。



「俊膳四天王が1人、太田原は……この犬飼 吉丸が討ち取ったぞぉおおおお!!!!!」



 吉丸は刀を高々と掲げて勝利を宣言した。

 これに太田原の家来は愕然とし、康人たちは本当に吉丸が討ってくれたと喜びの雄叫びを上げる。

 まさしく阿鼻叫喚という感じだ。

 しかしここで終わるほど、太田原軍の兵士たちは無駄に戦いを重ねて来ていない。



「今直ぐに、コイツらを皆殺しにしろ! 太田原さまの仇を、我らで取るのだ!」


『おぉおおおお!!!!!』



 太田原の重臣たちが、今直ぐに吉丸たちを討つように指示を出して敵討を図る。

 こうなる事は予想していた吉丸は、急いで康人たちに大きな声で「直ちに戦場を離脱しろ!」と叫ぶ。今は命が最優先で、自分の命だけを考えて離脱するように言う。

 その通りに康人たちは、ただ逃げる事だけに専念し最低限の戦いだけを行ないながら戦線を離脱。そしてそんな吉丸たちを追いかけるように、勝手に太田原軍の残党たちも戦線を離脱していったのである。


 天好新書には『和帝暦18年。仙道 英明と仙道 秀蘭との戦いにおいて、吉丸は30人の部下を率いて、俊膳四天王の1人を討ち取った』と記載されている。

 この戦いで初めて吉丸の名前が、他の歴史書にも記される。記されたと言っても一行、一言だけだ。だが農民の出の少年にしては大きな事と言えるだろう。


 そして吉丸が太田原を討ち取ったという報は、本陣に控えている秀蘭のところまで伝わる。



「報告いたします! 犬飼 吉丸足軽大将が率いる小隊が本陣に控えている太田原軍と交戦。その後、隊長である吉丸自身が太田原を討ち取った由にございます!」


「な なんだと!? あの犬が、俊膳四天王の1人を討ち取っただと!? 信じられぬ……」



 吉丸が太田原を討ち取ったという報告を受けた本陣の重臣たちは、驚いてザワザワし始める。大盛に至っては、驚きすぎて立ち上がってしまう。

 そんな中で秀蘭は、腕を組みながら不敵な笑みを浮かべているのである。その表情は、まさしく鬼だ。

 するとまたドタバタと伝令兵がやって来る。

 今度も何やら秀蘭軍にとって嬉しい報告のようで、伝令兵の表情が明るい。



「報告いたします! 今し方、左翼の家貴さまが突撃を開始し、敵前線を突破っ! それにより敵軍は、またも撤退を開始しました!」


「ほぉまた逃げるか。それで家貴は、どうしている?」


「は! 今度は英明軍の背を追っているとの事です!」



 どうやら待機していた家貴が、遂に突撃を開始。均衡を保っていた敵前線だったが、家貴の突撃によって前線が崩壊し撤退を開始したとのこと。

 昨日の戦いでは撤退が偽装かもしれなかった為、背を打つ事はしなかった。しかし今回は偽装では無いだろうと踏んで、家貴は英明軍の背を追い始めた。

 この報告に秀蘭は満足そうな表情をしている。

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